ねぇ,此処は何処なの?
とっても,暗いわ
暗いのは嫌い
闇は私を包み込んで……
包み込んで,どうなるのかしら?

きっと,そのまま消えちゃうかもね




そうなれたらいいのに






















森の奥の奥
それは,『奥』としか云いようの無い場所
その『奥』にあるもの


こんなところに,こんなものがあるなんて驚きだわ
全く知らなかった……
でも,私ってラッキーね
こんな楽しいところに来れるなんて

サーカス



私の大好きなもの
だって,見てるだけで不思議な気持ちになれるじゃない?
それに,とっても楽しいじゃない



私が住んでいる町にもよくサーカスが回ってくる
キャストはみんなみんな愉快な人ばかり



ピエロは玉乗りがとっても上手で,おどけてお客さんたちを笑顔にしてくれる

座長さんは,はち切れそうな服にトテトテと歩くその姿
とっても愛らしい

歌姫はとっても歌が上手で,みんなに感動を与えてくれる

猛獣使いだって,負けてない
とっても凶暴なライオンを見事操って魅せてくれる



サーカスってとっても面白い




こんな私にも幸せを与えてくれる
【こんな私】にも……














今は私は独りで此処に来たの
友達なんていらない
自分の意思でつくってないの
だから,私のことを哀れみの目で見ないでちょうだいね?

私にはそんなもの必要ない
不必要なものは存在しなくていい

だから,友達はつくらない



私,何か間違ったこと言ってるかしら?












それにしても,大きな座長さんね


まぁ,小さいよりはいいのかもしれないわね
「大は小を兼ねる」って言うしね

大きいのは身長だけじゃあないみたい
目もとっても大きい

私のことをじーっと見てる




「なぁに?」

《見ないで!!》


「あのね,私,サーカスを見たいんだけど大丈夫かしら?」

《醜い私を……》



『大丈夫
 見タイモノヲ見レバイイ
 見タイモノダケ見レバイイ』



「ありがとう,座長さん」

《嗚呼,ありがとう……》









私は中に入る
暗い
中はとっても暗い
暗い暗いくらい


席に座ると,舞台が明るくなる
まぶしい……




『ヨウコソ!』


「まぁ,始まったわ!」

《嗚呼,終わったわ……》


『今日ハ,来テクレテアリガトウ!!!
 頑張ッテ,僕タチヲ魅セルネ』


「楽しみだわ」

《可哀想に……》


『マズハ,出演者ノ紹介ダヨ』


「あれ?」

《まぁ!》





二つあたまのヒト
あれは,ヒトって呼べるのかなぁ?

でも,何でかしら?
胸が躍るわ……



歌姫って,サーカスの定番じゃないのかしら?
私はそう思うんだけど……
このサーカスにはいないのね
つまんないの



猛獣使いはちゃんといるみたい
あれ?
アレは,猛獣使い?
それとも猛獣?
冷たい冷たいモノを食べる猛獣××
でも,猛獣××はそれよりも冷たいみたい





とっても面白かった
今日は,誰も嗤わなかった
サーカスに来た私を誰も嗤わなかった
ふふ
このサーカスは最高ね


そうだ
ここ,歌姫がいなかったわよね?
私が入ってあげようか?











次の日から私は大忙し
このサーカスに入ることになったの


座長さんは昨日
『直サナクテイイカラ,明日カラヨロシクネ』って言ってくれた

他の皆は何を直したんだろ?















心躍る出演者と,改めて顔合わせ





まずは二つ頭
近くで見ると,昨日より更に胸が躍る
どうてかしら……?


「初めまして」

挨拶は基本よね

《どうも,お久しぶり》


『コンニチハ
 コレカラ,ズットヨロシクネ』






次は,猛獣××ね
猛獣使いなのか猛獣なのか確かめなくっちゃ


「初めまして」

《久しぶり,綺麗になったわね》


『…………う』


「大丈夫?」

《元気そうね》


『……うぅうぁぃうあぃぇ…ぅぉ…………』



うーん
私にはまだ早い,ってことなのかな?
きちんと返事をもらえなかったわ……

まぁ,いいや
分かったもん

彼は猛獣××


























「さぁ,お立会い,お立会い」


私の方を見る人は誰もいない
それでも私は声を張り上げる


「今宵,お目にかけますのは
 浮世の因果を背負わされ
 漫ろに這い出る忌み児に祟り児」


自分でも言っている言葉の意味は全く理解してない
でも,これが最初の仕事だ,って座長さんに言われたんだから
きちんとこなさなくっちゃ


「揺らぐ手足も持たずに産まれ
 泣き声震わす舌すら抜かれ
 脳天撫でる暗雲を
 母乳と慕って浮かべる笑みの」


どういう意味なんだろう?
帰ったら,座長さんに聞いておこうっと


「おお,
 そのおぞましさ!」



何がおぞましいんだろ?
皆,とっても楽しいヒトたちだったけど……




【見たい奴だけ寄っといで】







「ママー
 あのお姉ちゃん,変だよー」

遠くでそんな声が聞こえた


どうして?
どうして,私は皆にそんな風に見られなくちゃいけないの?
私は悪くないでしょ?
悪いのは,こんな私を生み出した神様よ


あぁあ……
神様って意地悪なのね










今夜は私の初舞台
張り切らなくっちゃ

歌姫の出番は中盤
一番盛り上がる頃なんだって

私は頑張って歌った
謡ったの
詠って唄って謳ったの


今日のお客さんはぜろにん












今日の呼び込みには,ピエロが行ったの
私が行くと,子供は逃げていっちゃうし大きな人もくすくす嗤うだけ
誰も,案内状を受け取ってはくれない

どうしてなのかなぁ?
サーカスはこんなにも楽しいところなのに……








今日も私は歌う
私は笑わずに一生懸命謳うの
でもね,他の出演者たちはとっても笑顔

どうして,皆笑ってるの?



お客さんなんて一人もいないじゃない








『誰ニモ見ラレナイコト
 ソレコソガ,一番ノ幸セナンダヨ?』

二つ頭さん
私にはよく分かりません












今日の呼び込みは私が担当


皆,このサーカスがどんなものかが分からないから,招待状も受け取ってくれないのよね
きっと
だから,私ね
今日は広場で少し歌うことにしたの

私は独りで広場の中央に立ち謳った
周りの人は最初,こっちをチラッと見て,それから見入ってきた
まじまじと見つめてる
珍しいものを見るかのように


でも,その視線は何か違う
歌を見てるんじゃない
私を見てるんだ



泣き出す赤ん坊
逃げ去る大人

嗤う子供





何?

《私だってね,望んでこんな風になったんじゃないの》


私って何かおかしいヒトなの?

《望まれて生まれてきた訳じゃないの》


じゃあ,どこがおかしいの?

《でも,誰も私には教えてくれなかった》


言ってくれなきゃ,分かんないよ……

《私が疎まれる理由を》










今日はお客さんが来たの!
とっても嬉しかった

『座長さんのお友達』と名乗る男のヒトは,とっても背が小さくて座長さんとは正反対だった


でも,そんなことはどうでも良いの
お客さんが来た!

私の歌を披露するべきヒトが来た!!
今日はいつもより張り切らなくっちゃ








二つ頭は今日は元気が無い

座長さんのお友達は笑ってた
愉快そうに嗤ってた



お次は,猛獣××
彼は普段から静かだけど,今日は一段と静か

座長さんのお友達は「それそれ」って,猛獣××を囃し立てた
本当に楽しそう
そうよね,サーカスは楽しくなくっちゃね



最後歌姫
一生懸歌った
座長さんのお友達は楽しんでくれてるかな?

あれ?
なんで,そんな怖い顔してるの?
どうして笑ってくれないの?


「つまらん」って,何で?
私,一生懸命歌ったよ?






「お前は,このサーカスが楽しいか?」
座長さんのお友達の問いかけ


「はい」
《……いいえ》

もちろん応えは決まってる












二つ頭が怖い顔をした
「大ッ嫌イ」

冷たい言葉


此処は何処なの?
『あんたさ,自分のこと分かってる訳?』

冷たい場所



貴方は誰?
『自分の容姿のこと,ちゃんと理解しなさいよね』

冷たいヒト


『理解したうえで,人の前に出ることね
 この化け物!!』

冷たい冷たい……









私は望んでコレになったんじゃない

《私は此処に来ることができた》


私は望まれて生まれてきたんじゃない

《それは,コレの御陰》


私が望んだのは,優しいココロと……

《私が望んだのは,腐った心と……》


それに集う優しいナカマ

《それに集う哀れな同志》


















檻の中に入れられてから,どれくらい時間が経ったのかなぁ?
横の檻にはいつも通り,元気の無い,静かな猛獣××
二つ頭は,今日も呼び込みにいってるらしい……

私,嫌われちゃったのかなぁ?





久しぶりに檻から出た
足がふらふらする……


あぁ,舞台なのね
お客さん,来たんだ



いつも通り,最初は二つ頭
お客さんたちは笑う

次に猛獣××
いつも以上に青い彼は,いつも以上に頑張ってた


よし
じゃあ,私も頑張らないと……


歌姫は,歌う謳う
喜びを旋律にのせて

今日は大成功だったみたい
私に問いかけをしてくる人はいなかった



でも,ちょっと苦しかった
お客さんの眼が痛かった
鋭かった
刺さっちゃった

お客さんは嗤ってた
いっぱいいっぱい,嗤ってた








そして,また,檻の中
猛獣××がこっちにやってきた


「………手,一個…チョ……ウダ……イ…………?」

「ごめんね
 私,貴方に手をあげると全部無くなっちゃうから」


猛獣××はとっても悲しそうな顔をした
それから,私をじーっと見てきた




「なぁに?」

《……見ないで》


「……目」



《ごめんね》



「……目,チョウ…ダイ…………」



「……え…………?」

《……いいわよ
 目なら,ちゃあんと二つあるしね》


「………ア…リガト……ウ…………」



「いややあああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

《どういたしまして》






















「ねぇ,座長さん
 このサーカスはいつ終焉るの?」

『何デスカ?
 ソノ愚問ハ』


「…………」

『コノサーカスハ,続キマスヨ』



【永遠に】




『コンナ,馬鹿ナ子ニハ,御仕置きガ必要デスネ』

「……ごめんなさい」


『貴方ハ死ヌノガ恐怖イデスカ?』

「……そりゃあ,怖いですよ」


『ジャア,話ハ早イデス』

?



【サーカスハ××ニ続ク
 ソシテ,貴方ノ生命モ永遠ニ!

 ドウデス?
 素晴ラシイコトジャアリマセンカ?】








楽しい愉しい楽しい愉しい


さーかすはたのしい
たのしいものはいいよね
みんなをしあわせにしてくれる
わたしはそんなさーかすがだいすき

大好き










わたしのまえにあるのは,くさったかじつ【心】
ぐじゅぐじゅーってなって,こわれち【死んぢ】ゃった

わたしのおめめは,もうじゅう××がもってるの
ぷれぜんとしてあげたの
たいせつにしてくれてるかなぁ?【熔】

くさったのは,かじつだけじゃないの
おはだもぐちゃぐちゃ
さわったら,おててがきたなくなる
へんなにおいもする


でも,だいじょうぶ!
ほかのみんなも,そうだから
わたしだけじゃないから【    】



これはふつうのことなんだって
のっぽ【座長】さんがいってた





わたしはみんながだいすき
みんな【私は】,わたし【皆】といっしょだから
それにね
みんながいるからわたしはひとりじゃないの

もう,ひとりじゃないの!



これはとってもうれしい【哀しい】こと

みんな
だーいすき【大好き】





























「死ニタイ」

誰の言葉?
近くで聞こえたから猛獣××かなぁ?


「死ニタイヨ」

だぁれ?
そんな暗いこと言ってるの
そんなこと思うはずがないでしょ?
此処は愉しいサーカスだよ?




「此処カラ出シテクダサイ」

何?
此処が嫌なの?
どうして?
みんな,いいヒトばかりじゃない
嫌なことなんて一つもないと思うけど?

それにね……


【それは無理なこと】

誰かが言ってた気がするの
誰だったかなぁ?





「ソレデモ,出シテクダサイ」

だから……

【それは無理なこと】


「モウ,ソレ以外何モ望ミマセンカラ……」

本当に?
ならさ,またあそこに戻ればいいよ
あの地獄に


「…………」


ほら,やっぱり嫌なんだ
だよね
地獄か楽しいサーカスか
答えは決まってるよね




















歪んだ躯にゃ曲がって伸びる
行灯照りの通りを這えば
道行く誰もがその名をまさぐる

この子にゃひとりで蹲る

影の高みはあっただろうが
腰を並べて語らう友は
後にも先にも一人もおらず


「さぁ、お立会い、お立会い!

 見たい奴だけ寄っといで
 見たい奴だけ寄っといで」



暗い森へ、寄っといで






楽しいよ



































うーんとねぇ
わたしのさいご【最期】のおねがいきいてくれる?

えーとねぇ……
わたしとおともだちになってくれないかなぁ?


《嫌なんて言わせない》


どうして?
どうしてないちゃうの?

ほら,わら【笑】ってよ
わら【嗤】っていいからさ



えー
それはないでしょぉ










だいっきらい

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

暗い森のサーカス  ……異形の歌姫目線なのですが,はい! これは彼女ではありません…………

読んでくださりありがとうございます!
暗い森のサーカスです


何か,またマイワールドが……
元の曲がすごい,捏造されてしまってます…………
すいません


『さぁ,お立会い,お立会い――』
この部分は本家様,丸写しです……
自分はこの部分が,かなりのお気に入りなのでww


もしよければ,感想・文章指摘etc よろしくお願い致します

閲覧数:967

投稿日:2011/03/25 18:08:42

文字数:5,834文字

カテゴリ:小説

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