あたしの名前は亞北ネル。『改造専門店 ネルネル・ネルネ』の店長だ。


と言っても、他に従業員なんかいないんだけどね。あたし一人で何とかなっちゃうから。


ヴォカロ町の町民やボーカロイド達の、家具の修理も承ってるけど。


正直単なる修理なんて面白くない。すっごい機能を追加してこそ、機械いじりは楽しいんだ。


今となっては反省してるけど、そんな理由からかリンのヘッドセットに殺人的音波をくっつけたこともある。


……でも最近は、お気に入りの家具を直してもらって喜んでる町の皆の顔見るのも、楽しいんだけどね。





さぁ、今日はどんな改z……修理ができるかな。





《ネルネル・ネルネの1日》





【3:00 起床】
あたしの朝はめちゃくちゃ早い。前日の夜に早めに寝てるから、それほど苦にはならないけど。

やってくるお客さんで、改造を頼む人は殆どいない。大抵は修理だ。

だからつまんないけど、真面目に、真摯に対応しなきゃならない。そのためにも、準備は念に念を重ねてするのだ。


昔マスターにもらった、金螺子の嵌った十字架ネックレスを首にかけて、さあ!開店!!





【5:00 開店】
 あたしの仕事はいつだってスケジュールが満杯だ。もちろん、飛び込みの依頼もあるけど。

 理由は二つある。一つは大量に仕事を請け負うことで、一人一人の代金をぎりぎりまで削ること。修理のために金なんかとれないってのもあるんだけど、それじゃさすがに割が合わないから、大勢受け入れることで多少代金を削っても不利益が出ないようにするのだ。

もう一つは―――――あたしが楽しむため。この店はもともと、機械いじりが大好きなあたしのためにマスターが考えてくれたもの。誰にも縛られずに機械をいじれるなら、限界まで楽しんだほうがいいじゃない!


しばらくすると、ドアの鈴がカランと鳴った。確か最初の依頼は6時半だったから、飛び込みの依頼ね。ということで今日最初のお客さんは―――――


「やぁ、ネル」


~~~~~~~~~~っっっ////////


あ、朝っぱらからレン君とは心臓に悪い……///


「ど……どーしたの?」

「いやぁ、お気に入りの目覚まし時計が壊れちゃってさ、昨日起きられなかったんだよ。だからちょっと直してもらおうと思って」

「そ、そ~~~なんだ…………ん? じゃあ今日はどうやって……?」


レン君は少し眠そうな顔で笑う。うぅぅぅぅ。その笑顔は反則だよぉ……。



「朝一でネルに直してもらおうと思って、ついうっかり徹夜しちまった。ははは……」





キャーキャーキャーキャーキャー!! 反則過ぎるよレンくぅーん!!やばい鼻血でそう。





はっ。い、いけない。悶えてるの感じ取られたら恥ずかしすぎる!! こ、ここは冷静に冷静に冷静に冷静にBe cool Be cool Be cool Be cool……。


「しょ、しょーがないわね。今日最初のお客さんだから、特別に全力で直したげる。かっ、勘違いしないでよね!! べべべべべ別にレン君が徹夜してまで朝一で直してもらいたいなんて言うから頑張るんじゃないだからね!! お客様には平等なんだから!!」

「う、うん……(苦笑)」


あ、苦笑いしてる。絶対ばれた。これ絶対ばれた。わーん、恥ずかしぃよぅ~……。

とりあえず全力出すのも兼ねて地下室にこもります。決してレン君の顔見るのが恥ずかしいとかそういうわけじゃないんだから。うん。



《―――3分後―――》



「はい、修理完了」

「おお!!すげえ……外装まできれいにしてくれたのか……!!」

「簡単な接触不良だったから、軽く掃除ついでに外装も掃除しといたの。あと、この目覚ましの音、レン君の耳に合いすぎる気がしてね。少し起きにくいんじゃない? これ」

「あ、ああ、そうだけど……」

「少し周波数と振動数をいじくって、もっとレン君の耳に強い刺激を与えられるようにしてみたの。これでもまだ起きにくかったら、もう一回持ってきてみて。また調整するから」

「何から何まで……ありがとな、ほんと。やっぱネル、頼りになるよ」


にゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ。もうやめて! あたしのライフはとっくにゼロよ! あ、でもやめないで! でもやっぱやめて! みゅううううううう。

礼を言ってレン君が外に出た後も、ドキドキが止まらなかった。ああ、どうしよう! 予約してた人が来ちゃうのにこの顔でなんて出らんないよう!





【6:30~17:00 仕事】
何とか落ち着きを取り戻して、仕事に励む。

今日担当した依頼は57件。全部修理……だったのだが、たった一つ飛び入りで改造があった。

それというのが―――――





「鞭の……改造ぉ!?」

「やっぱり無理かしら?」


申し訳なさそうに笑う目の前の美人は―――――ルカさん。何でも愛用の鉄鞭を改造してほしいのだとか。


「無理と言われたらやりたくなるのがこのあたし!! ……でも、突然どうしたの?」

「うん……」


ルカさん曰く、最近自分の力に、鞭が追い付けてきていないというのだ。

この間の旅行で、必殺の奥義【蛸足滅砕陣《破音》】を撃った時の鞭はもうズタズタで使えなくなっていたそうだ。

しかしこれから先、幾度もこの破壊の奥義を撃つ事態に陥らないとも限らない。

そこで、8本1セット、100セット近い鞭を強化してほしいと言ってきたのだ。


「私の音波術が攻撃できない以上、鞭の技術と力を磨くしかないんだけど、それに耐えられる鞭じゃないとダメなの。できるかな……?」


心配そうに見つめてくるルカさん。

昔私がリンのヘッドセットを改造して騒ぎになって、刑務所送りにされた時、ルカさんにはすごくお世話になった。


今度は私がルカさんに恩返しする番だ。


「オッケー!! 全速力で最高品質のものに作り替えて見せましょう!! しばらく時間かかるから、ちょっとぶらついてくるといいよ!」

「え、数日がかりとかじゃないの!?」

「あたしを舐めないでよね!! 天才美少女修理師、亞北ネル様とはあたしの事よ!!」 


ルカさんの返事も聞かず、大量の鞭を抱えて下の部屋にこもる。


「よーっし……さてどうするかな……」


ルカさんの鞭の使い方は凄まじく負担がかかる使い方。ならば強度のある材質でもう一度組直したほうが手っ取り早い。でもその耐久性にもいろいろある。ただ衝撃に強い材質を使っても駄目だ、何よりも大切なのは『ねじれる』ことに強い耐久性を持たなければならない。そうでないとルカさんの鞭術に耐えることができない。しかしそれでいて今までの鞭の感覚を失わせてはならない使いこなれた感覚を保ったまま『ねじれ』に強い金属に変えるには――――――――――――――――――――


思考が加速してゆく。そして形が固まってゆく。


―――――よし!!





超音速の改造に、とりかかった。



《―――――4時間後―――――》



「ま……まさかほんとに今日中に仕上げちゃうなんて……!!」


ルカさんが恐れ戦く前には、新品同様の輝きを放つ800本以上の鞭が置かれていた。

全身汗だく……まぁ、それだけの価値はある改造だったけどね!


「水銀を中心としてねじれに強い合金を作って、それを溶かしたやつを塗り込んでからもう一度鍛えなおしたの。触感が変わらないように革のつなぎ方も微調整を繰り返して改造前と近づけたつもりよ。これなら少なくとも、【蛸足滅砕陣《破音》】5発分は耐えられるわ」

「すごい……やっぱあなたサイッコーよ!! すごいすごい!!」

「な、なによ……褒めたってなにも出ないんだからね!!」


あのルカさんがここまで褒めちぎるって……天変地異でも起こるんじゃなかろうな。


……でも、悪い気はしない。当然よね。喜んでもらって嬉しくない人なんかいないもんね。





【17:30 閉店】
閉店時間もなるべく早め。超高速で依頼を片付ける代償として、いろんな部品の破片や欠片が飛び散ってるから、早いとこ片づけなきゃいけない。

毎日毎日たくさんの人の依頼をこなして、喜んでもらって。

それはとっても嬉しくて。もっともっとそんな笑顔を見てみたいと思って。



―――――でも、もっと改造もしたいと思って。



改造と、感謝。両立できる方法があればいいのに―――――。





――――――そう思っていた、その時だ。



目の前の空間に突然穴が開いた。

一瞬驚いたけど、こんなことが起きる場合その穴から出てくるのはたいてい『あの子』だ。


『……ネルさん!』

「どっぐちゃん!!」


この世界の創造者・Turndogの分身、つんでれ☆どっぐちゃんだ。この町にいる時、大抵の場合は映画監督『ツンデレーラ・ドッグ』の姿をしている彼女だが、今日は原身でのご登場だ。


「どうしたのよ、突然」

「今ね、かなりあ荘で面白いことになってるの!!」


かなりあ荘って確か、今Turndogが住んでるアパートよね。袴姿のカワイコ幽霊ちゃんが出るって噂の。こないだあいつに幽霊が見えるスコープの試作品あげたんだけどちゃんと有効利用してんのかしら。


「で、面白い事って?」

「えへへ……実はね……」





「『改造専門店 ネルネル・ネルネ出張版』を作ろうって話が上がってるの!!」





「……え?」



ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!?


「え、ちょ、ひゃみゃえう!!?」

「ネルさん落ち着いて!! 要するにね、大家のしるるさんからもらう家具が余ったら、それを使って面白いアイテムをネルさんに作ってもらおうっていう感じの出張店をやってほしいの!!」


説明がハチャメチャだ。言ってることもハチャメチャだ。

……でも言いたいことはわかった。



「好きなように改造して、みんなに喜んでもらえってことでしょ!!?」

「そゆこと!!!」



渡りに船とは……このことだ!


「『Turndogの世界』に……かなりあ荘に連れてって!! その話、もっと詳しく聞いてみたい!!」

「おっけえええ!!いこ、ネルさん!!」





改造するのも大好き。

でもそれ以上に、みんなに喜んでもらえることも大好き。

どっちも大好きだから、両立できるならあたしはどこへでも行く。



さぁ、今日はどんな改造ができるかな。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【亞北ネル】ネルネル・ネルネの一日【改造専門店へようこそ!】

ヴォカロ町の天才美少女修理師、ネルちゃんの一日です!
こんにちはTurndogです。

リンちゃんのヘッドセットに破壊音波をくっつけてブタ箱にぶち込まれたネルちゃん。
カイト暴走の時は10分で発電機を作り上げ大病院を救ったネルちゃん。
特別な場合だけこうなのかって?
いえいえ、いつもこうなんですw

こんなネルちゃんがかなりあ荘まで出向いて改造やったらどうなるか?
『改造専門店 ネルネル・ネルネ出張版』、ただいま店舗準備中ですw

閲覧数:127

投稿日:2013/06/20 21:20:41

文字数:4,368文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • しるる

    しるる

    その他

    ネルちゃんとどっぐちゃんの性格、だいぶ似てるんだねw

    あ、ネルちゃん主人公の話かいてみようかな……このネルちゃんじゃないよ?w

    【ターンドッグはカーテン(5)を手に入れた】
    カーテン:これがあることで朝、寝坊しそうになると清花ちゃんにシャーされる←

    2013/06/20 22:58:16

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      まぁ、同じツンデレ娘だからねwww

      目が!!目がああああぁぁぁぁぁぁ(しるるさんの二の舞

      2013/06/20 23:00:18

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