ツネノヒニアラズ。
-----
私立神威学園高等学校。【神威】から想像できるように、俺の親が経営している高校だ。
まあ成り行きで俺はここに入学したわけで。中学では『神威家の御曹司』って扱いだったけど、この学園は金持ちの奴らか、異常に頭がいい奴らかの二種類しかいない。
これまでみたいに色眼鏡で見られる心配はしてなかった。だけど。
「あの人、カッコいいね!へぇ、神威くんって言うんだ」
「神威くんってここの理事長の息子さんでしょ?すごく金持ちじゃん」
「結婚したら玉の輿で、毎日左団扇だね」
こんなことなら、海外の高校に行っても良かった。
毎日毎日、通り過ぎた後に囁かれる『玉の輿』。正直、入学3日で退学したくなった。
でも、今は違う。
「おはよ」
「うん」
「今日も無愛想だな」
「こんなのが1人いてもいいじゃない?」
俺の斜め前の席にいる、異常に頭がいい女子。名前は巡音ルカ。
帰国子女らしいけど、そんなん知ってるのは俺だけ。
そして、俺がチヤホヤされるのにウンザリだってことを理解してくれるのも巡音だけだ。
「巡音は俺のこと嫌いだよな」
「そうね」
「なあ、今日の放課後さ、ヒマ?」
「えぇ」
「遊ぼ」
「おk」
巡音は化学のノートを取り出して勉強し始めた。いつもこんな感じ。
そっけない態度が俺には新鮮で、でもなんだかんだ言って相手してくれるから、巡音のそばは居心地が良かった。
-----
金持ちの奴らはお迎えが来てさっさと帰るから、放課後の学園はほとんど人がいない。
だから、シャワールームの鍵を拝借して、コトに及んでいても見つかるなんてことは無い。
「……んっ…」
「ルカ…声、出していいよ」
「はずかし、ぁんっ…がくぽ、や…ん」
なんとなくの連続、毎日は無味乾燥だった。
巡音にも、俺にも恋人はいる。ただし、頻繁にとっかえひっかえするけど。
カラダだけの関係。そんなカラッポの関係、意味がないって思われる。
でも俺たちは、自分だけではどうにもならない寂しさを、埋めようとしてるんだ。
そんな、お互いの欠如を補い合ってるうちに、巡音はある意味で俺の特別になった。
巡音との時間は楽しいし、良いことづくし…ではないかも。巡音を狙う男に絡まれたりとか、あるし。
-----
ある土曜日の保健室にサボりに行ったら、クラスメートがソファに転がっていた。
頭に手をやり、苦しそうな表情をしている。
巡音だった。巡音は目を開いて、掠れた声を絞り出した。
「神威…」
「巡音、具合悪いの?」
「ちょっと熱」
「そっか」
「うん…っ」
短いスカートからすらりと伸びた白い脚がやけに目について。
病人に発情するとか、俺も末期だな。
「巡音、歩ける?ベッドに寝ろよ」
「襲うつもり?」
「んなわけねーだろ」
四割くらい正直に答えた。
好きな女と、しかも保健室で2人っきりで、邪なことを考えないはずがない。
巡音は立ち上がったけど足元が覚束ない。
今にも倒れそうだけど、意地っ張りだから歩こうとしてるんだろうな。
「フラフラじゃん」
「しょうがないじゃん、熱あるんだも、んっ!?」
俺は巡音に脚払いをかけて、倒れるところを受けとめて抱きかかえた。
「あっぶな…ちょっと、なにすんのっ」
俺は巡音をお姫様抱っこして運び、奥のベッドにぽいっと落とした。
あんまり丁寧に扱うと、巡音は警戒態勢に入るから。
「いった!投げないでよ…あんた、これ女の子の扱い方じゃないよ?」
「大丈夫大丈夫、お前だからなんともない」
ブツクサ文句を呟く巡音に毛布をかけたり、ブレザーを畳んでやったり。
「お母さんみたい」
「お前を産んだ覚えは無いな」
そこ、お父さんじゃないか?俺の性別は男のはず。
俺は体温計を救急箱から拝借してきた。
そばのイスに座って、巡音が襟元を緩めて脇に体温計を挟むのを見つめる。役得だ。
「神威ってイイヒトだったんだね」
「は?どこが」
弱ってるお前を好色な目で見てるってのに。
「優しいから…でも、タラシだよね」
「タラシじゃねーよ。まぁ知っての通り××××は上手いぜ」
「…はいはい。いろいろありがとう」
そう言って巡音は手をひらひらさせた。
あっち行って、の意味だろう。任務完了だってことか。
「…巡音」
「は?」
俺は巡音の細い手首をつかんで、空いた手で顎を持ち上げた。
「……っ」
巡音は一瞬、驚いたような顔をしたけど、すぐに目を閉じた。
あと、3㎝…2㎝…すんでのところで体温計の電子音が鳴った。
「お、鳴った。何度?」
内心は体温計をへし折りたい気分で、俺は巡音から離れた。
巡音は仏頂面で、38.9℃と表示された体温計を俺に渡した。
「残念。巡音とキスしたら風邪、伝染るかもな」
「そもそも病人に手出すなよ、女タラシ」
巡音はそっぽを向いて毒づいた。
俺は巡音のおでこをビシッとつついた。
誰のせいだと思ってるんだ。
「痛いって!」
「でも巡音さ、さっき眼瞑ったじゃん」
「あれ、諦めの境地」
「…ふーん。あ、巡音、俺って巡音とほぼ毎日ヤってるけどベッドでヤったことは無いよな」
「え?うーん、そうだけど何?てかあんたヤることしか考えてないね」
「そうでもないぜ?」
「例えば?」
俺が考えることって言ったら、巡音が好きな色、巡音がお気に入りのコーヒー、巡音と話す口実。
「…巡音の男は振られたかなーとか」
「え、すごい、なんでわかったの?」
「そーなのか?冗談だったのにマジか」
「うん、あんまり楽しくなかった」
俺と遊ぶのをやめないってことは、俺といる時は楽しいってことなんだな?
「俺もね、別れたんだ」
「ふーん」
「ホント興味無さそーだなお前」
「他人の恋愛だからね」
「妬けるね」
巡音は怪訝そうな顔をした。俺だって言うつもりじゃなかった。
でも、いい加減に我慢ができない。
「俺がなんで巡音に声かけたか、わかる?」
巡音の上に、のしかかる。2人分の重みがかかって、ベッドが軋む音がした。
巡音は無言で首を横に振った。
「巡音が、俺に少しも色気使わなかったから」
「は?」
「俺に興味持たない女なんて、身内以外じゃ初めてだから、俺はお前が気になった」
巡音はわからないって顔をしてる。俺もお前の「気になる人」になりたかった。それだけ。
俺だけが思い悩むなんて不公平。そんな、子どもっぽい理由で。
「そういうことで巡音、俺とつきあって」
返事は唇を塞いで言えなくした。巡音は、俺を拒まなかった。
それをいいことに、巡音のカラダを貪った。
今までの関係を終わらせたかったのは、巡音も同じだろ?
翌日は、2人とも熱が上がって学校を休んだ。
-----
放課後の教室で机にのさばってだらけている巡音と、どうでもいいような話。
このあいだのことは、まだどっかでモヤモヤしていた。
「ねぇ、チャーハン食べたい」
「チャーハン?なんでまた」
「んー…なんとなく」
「つか…あ、ごめん電話来た」
画面を見ると、この間までつきあってた女。かけてきた理由はだいたい予想がついた。
俺はその女との会話を聞かれたくなくて、教室を出て、廊下の窓から中庭に出た。
「なんで電話したんだよ」
「だって…」
「俺はお前と別れたんだけど」
「どうしても、戻ってきてくれないの?」
「……」
「なんで?なんでよ。あたしは神威くんの…」
俺は電話を切った。巡音が、廊下で数人の女子に囲まれてる。
「巡音?」
明らかにリンチだろ、あの状況。俺はすぐに走り出した。
「…あんたとぼけてんじゃないわよ!!」
振り上げられた手。俺は間一髪で巡音とその女子の間に入り、巡音を背中にかばった。
『バシッ』
「って!」
左頬に、一撃食らった。…爪を伸ばしてる女は嫌いだ。
「…5対1は卑怯だろ?」
女子は、俺を殴ったことに動揺しているみたいだ。
「か、神威くん!?あっあたし…」
「いいから、もう行け」
「ご…ごめんなさい!」
女子たちはバタバタと走り去る。
全員いなくなってから、呆然としている巡音を振り返った。
「神威…」
巡音は殴られた左の頬に手を伸ばす。体温が低いその手は少し気持ちよかった。
巡音を見ると、なんだかいつもの巡音と違う気がした。
「巡音?」
「…なーんか可愛い」
『可愛い』だ?むしろカッコいいだろ。
「…痛かったぜ?」
「ごめん。ほんっとにごめん」
「謝んなって。お前が殴られるよりマシだろ」
「なんか美味しいもんおごる」
「気にすんな。今から楽しませてもらうから」
「…見直したのに一気にどうでもよくなったよ」
「どうでもよくなられちゃ困るね」
巡音の手をつかみ、誰もいない教室に戻った。
荷物をまとめていると、巡音は俺の後ろで俯いていた。
「巡音」
「え?」
「一緒に帰ろ」
「あ、うん」
巡音はほっとしたような表情を浮かべた。
たぶん教室でヤるのが嫌だったんだろう。
「何、ここでヤりたかったの?」
「は?誰もそんなこと言ってませんけど」
「ははっ…巡音、今日さ、巡音んち行きたい」
「え?なんで」
「巡音と朝まで一緒にいたい」
驚いて俺を見上げた巡音のほっぺをつまんでやった。
巡音は眉間にシワを寄せてその手を払いのけた。
「ダメ?」
「…いいけど」
「マジで!?サンキュ」
「一人暮らしだし、問題ない」
…そういう問題か?
「んじゃ同棲しよう」
「バカじゃないの」
そういうバカな話をしながら、俺たちは校門から出てつかず離れずの距離で歩き出した。
「体力要るよ?俺と同棲ってなると」
「そっすか」
巡音はそっぽを向いている。片方しか見えない頬が、赤いような気がした。
「…ルカ、好きだ」
「…そっすか」
巡音の左手を捕まえた。色々順番間違えたけど、これでいいかな。もう、大丈夫。
「がくぽ」
「ん?」
「好き」
「ん」
もう、寂しくない。
fin...
コメント0
関連動画0
オススメ作品
あっ ああ
古臭いあなたの
そう
全てのスタイルが
今の流行とか..少し媚を売るとか..考えないの?
むしろ時代錯誤甚だしくて
笑うしかないわね
貴方の大好きなHEROたちは殆どみんな
嗚呼
お爺ちゃんだから...ロック好きな爺さんは疲れて眠る
txdHIROSI
A1
幼馴染みの彼女が最近綺麗になってきたから
恋してるのと聞いたら
恥ずかしそうに笑いながら
うんと答えた
その時
胸がズキンと痛んだ
心では聞きたくないと思いながらも
どんな人なのと聞いていた
その人は僕とは真反対のタイプだった...幼なじみ
けんはる
彼女たちは物語を作る。その【エンドロール】が褪せるまで、永遠に。
暗闇に響くカーテンコール。
やむことのない、観客達の喝采。
それらの音を、もっともっと響かせてほしいと願う。それこそ、永遠に。
しかし、それは永久に続くことはなく、開演ブザーが鳴り響く。
幕が上がると同時に、観客達の【目】は彼女たちに...Crazy ∞ nighT【自己解釈】
ゆるりー
いったいどうしたら、家に帰れるのかな…
時間は止まり、何度も同じ『夜』を繰り返してきた。
同じことを何回も繰り返した。
それこそ、気が狂いそうなほどに。
どうしたら、狂った『夜』が終わるのか。
私も、皆も考えた。
そして、この舞台を終わらせるために、沢山のことを試してみた。
だけど…必ず、時間が巻き...Twilight ∞ nighT【自己解釈】
ゆるりー
Love song ー 巡音ルカ
きみの存在がくれる
ぬくもりに毎朝支えられてる
きみのその声がくれる
感情にどんな時も助けられてる
だから僕は笑顔を
覚えていられる
だから僕は今もこの先も
生きてゆける
花束のようなLove song...Love song ー 巡音ルカ
NI2
さあ
船出を祝って旗を揚げよ
御囃子に合わせる手拍子
渡り鳥が示す楽園
ずっと
描きたくて
見つめるだけの画用紙が今や
地図となっている
さあ
舞台を見上げて光灯せ...六拍子御囃子 / MEIKO KAITO 初音ミク 鏡音リン 鏡音レン 巡音ルカ
IMO
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想