私が中学3年生の頃、凄く鬱陶しい数学の男性教師が居た。
そして、その数学教師は、私のクラスの担任をしていた。
勉強勉強と囃し立て、受験の前準備という事で、馬鹿みたいな量の宿題も出された。その数学教師は、生徒からの評判も悪かった。
かく言う私も、その数学教師が大っ嫌いだった。

「ほら、テストするぞー。」
毎朝、全教科抜き打ちテストを行う。1教科3問だけなのだが、その3問全てが、馬鹿みたいに難しい問題だらけだった。そしてその問題が朝のうちに終わらない生徒は、放課後必ず残されていた。一度も残されなかった生徒は、どれだけの秀才君でも一人も居なかった。
その生徒からの評判が悪い数学教師の名前は、井上 諭彦(いのうえ ゆひこ)。教師達の中では、評判の良い教師だった。
その時期、受験も程遠く、行事も数少ないためか、抜き打ちテストが無い日もあった。その日は皆で、「ラッキーッ!」と喜び合っていた。

時は春から夏に変わり、じわりじわりと受験が近付いてくる。そこからだ。井上の評判が悪くなり始めたのは。
その日、テストは無かった。よって居残りも無かったわけだが、井上は少しピリピリしていた。井上がイライラしている日は最悪な日だ。ストレス発散に託けて(そう見えるだけだが)成績が悪い生徒をたった一人残して、教室で個人授業をさせられた。その日残されたのは、私だった。
「…井上先生、私今日塾があるんですけど。」
「そんなもん知らん。塾よりも私の方が分かりやすく説明してやる。塾なんか休んで、塾の終わる時間まで勉強して行け、初音。」
正直、井上は馬鹿なんじゃないかと思った。大勢で受ける塾より、個人授業の方が分かりやすいと言うのは分かるが、タイマンで教師と勉強するのは、時間が長くなるに連れ生徒のモチベーションが下がっていくのだ。そんな事も知らないのかこの馬鹿教師は、と心の中で考えているときに、
「初音。お前は最近テストの点数が下がりっぱなしだが、高校に行くつもりはあるのか?お前がいける高校は今少ないぞ?」
何故か、この言葉にカチンと来た。
「それって、私が馬鹿ってことですか。」
「いや、私はそういう事が言いたいんじゃ無くてだな。」
「じゃあ何が言いたいんですか!?私が馬鹿だって遠まわしに言ってるんでしょうよ!?」
「だから初音。」
「なんですか!?私のことを馬鹿馬鹿言う先生に、掛けられる言葉なんか無いですけどね!」
一方的な言い合いだった。中学3年生にぼろくそに言われた井上は、
「…もう帰っていいぞ。今日は疲れた。」
と一言告げて、教室の鍵を机の上に置いて、教室から出て行った。
私は、心の中で井上に勝ったと思っていた。

その次の日、私は学校を休んだ。井上の顔が見たくなかったから、仮病まで使って。その日の夕方に電話が掛かってきたが、表示されている番号を見て、電話を無視した。番号は、井上の携帯番号だった。

その次の日に、私は学校に行った。周りの皆から心配されたけど、大丈夫だよと会釈をして、軽く受け流した。そして井上が教室に入ってきた。
「…初音、今日残れ。あと、鏡音もだ。」
「なんでですか。」「うぇ、俺ですか?」
私と鏡音君の態度は違っていた。私は毅然とした態度で、井上に立ち向かった。井上は溜息をついた後に、
「初音と鏡音はどちらも成績が下がって来ているからな。補習だ補習。」
最悪だった。今日は家に帰ったら友達と遊ぶ気でいた。同じクラスの子だったから、こんな井上の言葉を聞いたら今日遊ぶのを遠慮するだろう。
久々の塾の休みだったのに。心でそう思いながら、
「…分かりました。」
と一言告げた。鏡音君も、「わーったよー。くそー、遊ぶ気マンマンだったのになぁ。」なんて告げていた。

その日の放課後、私と鏡音君は教室に居た。居残りで二人で勉強している。
「なぁなぁ、初音ー。」
「なぁに、鏡音君。」
無言で机に向かっていた二人が、30分程経ってやっと出した言葉だった。
「正直さぁ、面倒臭くねぇ?」
「ふふっ、確かにね。」
二人で苦笑いしながら、勉強の手を止めていた。鏡音君は少し触れ合うのが難しそうだと思っていたけど、話しかけてもらえた私は、お話くらいだったらできそうだな、と思い始めていた。
「何で俺たちだけこんな事してんだろうなぁ、ってさ。思うんだけど…。」
「だけど?」
「いや、きっと井上も俺たちの為にこの問題作ってんだろうなぁ、と思ってさ。」
そう言われればそうだった。朝井上は、目の下にくまを作って学校に来ていた。そして、私たちがやっている問題は、ボールペンで書かれた、自作の物だった。そして、鏡音君がやっている紙と、私がやっている紙は、書かれている問題が違っていた。私と鏡音君の学力に合わせて作られたものだった。
「こんだけ丁寧に文字書いてあるしさ、黒板にアイツが書く文字と全然字体違うだろ?」
「言われて見ればそうかも…。」
「だから案外、俺たちが高校に合格するために、一々気にかけてくれてんのかなぁ、何て思ってさ。」
そう告げた後、鏡音君は自分がやっている問題が終わったのか、筆記用具を片付け、紙を持ち、鞄を持って教室から出て行った。出て行く寸前に、
「じゃあそろそろ帰るわ、もうちょいなんだから初音も頑張れよー。」
と残して、手を振り、私の視界から消えた。多分職員室に寄っていくはずだ。
問題が終われば、井上のところまで提出しに行ってから帰れといわれていたし。
「…井上は、私たちのこと、気にかけてくれてるのかなぁ…。」
一言ぼそりと呟いて、最後の一問をといて、筆記用具を片付け、帰る用意をした後に、鞄を持ち井上の待つ職員室へと向かっていった。

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  • 非営利目的に限ります

【私の数学教師:前編】

青春時代を謳歌してきた方々の中には、自分の書く小説の中にいるような教師を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
生徒の見えないところで努力していて、それなのに生徒に嫌われているような教師。その教師を嫌っていた生徒。色々有ると思います。
中学生時代のことを思い出し、苦笑いしながらお読みいただければ、幸いです。まだ中学校に入学されてない方、中学時代を思い出したくない方は、純粋にこの小説をお読みいただければ、嬉しい限りです。
長々と失礼しました、お読み頂き、有難う御座います。

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閲覧数:331

投稿日:2009/03/07 16:05:50

文字数:2,339文字

カテゴリ:小説

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  • あまら

    あまら

    ご意見・ご感想

    コメント有難う御座います!(・ω・*)

    学生時代の思い出は沢山あると思います。
    その頃鬱陶しいと思っていた先生だったとしても、今思えばとてもいい先生だなと気付けるのかもしれませんね^^

    頑張って優しくしてあげてくださいな(・・*)
    お読み頂き、有難う御座いましたー♪

    2009/03/08 14:41:34

  • 彩瀬ありす

    彩瀬ありす

    ご意見・ご感想

    レン良い事言うなぁ!

    私の学校にやけに熱血な先生がいて、前習っていた時の事を思い出しました。
    補習やテストなど沢山やっていた先生なので何だか今になって思うと、色々と気付く物がありますね。

    …これから先生に優しくしていこう。(ぇ)

    2009/03/08 11:37:25

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