「ターンドッグさん、ネルちゃん呼んでくだs」

『あたしならここにいるよちびボカロね!?』

「え、えっ!?　な、なんでわかったの!?」

「カマかけてみた!!!!」

「……おい」



この間、俺の部屋の扉が開かれてから3秒間のことである。少なくとも俺はこれ以上速い改造受注のシーンをこれまでに見たことがない。





「なるほどなるほど、リリィのちびをねぇ。……で」

「なんですか?」

「この注文書の『腕相撲ができる程度の腕力』って……」


ネルが珍しいものでも見るかのような目つきですぅさんを見つめる。

ここまで注文されてきたちびめーちゃん(メイコ)、ちびゆかりん(結月ゆかり)、るぅちゃん(巡音ルカ)の3体は、皆腕力に関しては体格に見合ったレベルの物を希望されていた。

勿論異常なまでの怪力にすることもできる……というか、一応『ヴォカロ町の世界の金属や技術を使ったメカ』なので、むしろネルほどの腕前でなければ非力なお人形さんなんぞにはできない代物。即ち怪力乱神なちびボカロこそが本来の姿ではある―――


のだが。

当然ちびなボーカロイドはフィギュアや人形みたいなもの。怪力なぞそうそう求められるものではない。

そんな中のこの腕相撲注文だ。珍しい目で見られても仕方ない。


「……ダメかな?」

「いやいや、むしろこの方が楽よぉ。正直今までの皆の分で時間がかかってたのは改造の過程で発生する怪力を抑え込むためだったと言っても過言じゃないもの!」


今の発言を既にちび達を受け取った面々が聞いたらどう感じるのだろうなんて考えてみたが、2/3～1/3ぐらいの確率で俺に責任が回されそうな予感がしたので考えるのをやめた。これ以上いらん責任を抱え込むのは勘弁でございます。


「30分もあれば出来上がるから、適当に雑談でもして待っててよ」

「30分……!　やっぱりシルルスコープの時より長いんですね……」


材料を抱え時空転移用PCに飛び込んでいくネルの後ろ姿を見ながら、その時間の『短さ』に驚いている。


え?　字を間違えていないかって?



前回から1時間半も短縮しておいて『長さ』なんて言葉はつかえませんよ。





30分後。


帰ってきたネルは、肩で大きな息をしながらすぅさんにバスケットを手渡した。……疲労度もどんどん少なくなっていやがる。

ワクワクしながらすぅさんがバスケットを開くと―――――



『……(にっ)』



無言で悪戯っぽい笑みを浮かべるリリィが立っていた。

途端にすぅさんの動きが止まる。

３秒後―――――満面の笑みでこちらを振り向いてきた。


『くぁあああああああいいいいいいい!!!!　ターンドッグさん!!　めっちゃくぁあああああああああいいいいんんんですが!!!!!』

「お、おうよかったなぁ」


あれ、なんかデジャヴ……。


「要求通り、それなりの怪力にはしてあるから注意ね。あと、怪力リリィと言うことでついつけたくなっちゃったんで、ヴォカロ町の世界のリリィの愛刀・大鉾『鬼百合』1/100モデルを付属させてあるわ。まぁ、持ちたがったら持たせてあげて」

「くぁあああああいいいい子をありがとネルちゃん!!」

「あんた話聞いてた!?」


ハイテンションが収まらないすぅさんはそのままバスケットを抱きかかえて自分の部屋へと帰って行った。


「お疲れさん」

「ふー……ふふ、どんどん精度が上がっていくなぁ。しるるさんには悪いけど、ちびメイコの時と比べたら格段にうまく出来るようになったわ」


精度向上。時間短縮。疲労軽減。


ちびボカロの作成を始めてから、こいつの技量が加速度的に上がっている。





なんというかもう、笑うしかねえなぁ。