互いの背中が触れ合い、タイト背後を任せながら、俺は神経を知り巡らし奴の気配を探った。
重音テッドと名乗ったあの男は、俺達の前に姿を現したかと思うと異常な跳躍力で森の中に紛れ込んでしまった。
だが今のところ、奴がどのような攻撃手段を講じてくるのは不明だ。
「デル。俺はこの二人を安全な場所に退避させて、援軍を急がせる。すまないが、奴の相手は頼む。」
タイトが俺に告げる。
確かに、この二人をここに居させるのは危険すぎる。
彼女達だけで逃げさせても、いつ奴に狙われるか・・・・・・。
それに、先の戦闘はよほど体力を消耗したのか、キクは虚ろな瞳のままで、まだ意識が混濁状態に思える。真っ先に奴の攻撃を受けるかもしれない。
「分かった。任せろ。」
「気をつけて・・・・・・。彼は恐らく、ゲノム兵でも強化人間でもないわ。」
栄田道子が告げた。
「何だって?」
「まさかと思うけど・・・・・・。」
彼女が言いかけた瞬間、その足元で土が吹き飛んだ。
「きゃッ!!」
どうやら、奴もライフルによる狙撃を敢行してくるようだ。
ここは開発を途中放棄された不毛の大地。俺達は見通しのいい場所にいる的のようなものだ。
「ここにいるとまずい!!は早く森に!!」
俺の言葉でタイトは二人を引き連れて林の中に姿を消した。
俺は近くの倒木に身を隠し、銃を構えた。
「ハハハハハッ!!!」
向こう側の森から、重音テッドの高笑いが鳴り響く。
「さっきの・・・・・・お返しだッ!!」
叫び声と共に、俺の耳朶を何かが掠った。
背後で、また地が舞い上がる。
今のは銃弾・・・・・・だが、銃声は聞こえてこなかった。
最初の銃撃もだ。
サイレンサー付きとは・・・・・・。
「そこにいるのは分かっているぞ!!!」
奴の声と共に背後で鈍い音が鳴り始めた。
「チィッ!!」
反射的に倒木をすり抜けた瞬間、爆音が鳴り響き倒木が粉々に吹き飛んだ。 だが、そこには火薬の匂いがしない。発火もしていない。
奴の武器は、何だ?
それを考えている暇はなく、俺が走る足元には銃声のない弾丸が幾つも着弾し、土煙が舞った。
岩に身を隠すと、今度は違う方向から弾丸が降り注ぐ。
どうなっているんだ?!
「ハハハァアッ!いいぞ!!逃げろ逃げろぉ!!!」
高笑いのする方向に銃を向けるが、月明かりしかないこの暗闇では、到底奴の姿を捉えることが出来ない!
「なかなか素早いようだな!!ならば、これでどぉだ!!!」
何かと思い岩から顔をのぞかせると、眼前はに巨大な岩が迫っていた。
「うぉぁあああッッッ!!!!!」
間一髪で回避したものの、次から次へと岩が降り注いでくる!!
俺は走り続けた。
「く・・・・・・!!」
立ち止まれば、間違いなく岩に押しつぶされる。
この広場で戦うことを諦め、俺は茂みの中に身を隠した。
「ん~どうした?さっきまで威勢はどこへ行った?!」
いずれにせよ、あと十数分で援軍が来る。隠れながら時間を稼ぐ手もある。
だが、奴らの手にはPiaシステムがある。
それを起動すれば、俺達は勿論、援軍も含めた殆どの戦力が以上をきたす可能性がある。
恐らく奴はそれを踏まえて俺と戦っている・・・・・・奴はあれだけの味方をキクに殲滅されたのに、それでもまだ俺達を攻撃してくる。
それは、万が一にも不利な状況になればすぐにでもシステムを発動させ、一発逆転を狙えるという自信の表れなのか?
いくら考えようにも、俺の状況が好転することはない。
今は、耐えねば!
「出てこないつもりだな・・・・・・ならば、こちらから行くぞぉ!!!」
来るか・・・・・・。
視線の先、あの大地の上に、重音テッドの体が舞い降りた。
「来い!!」
奴の指先が俺を手招きする。
掛かってきな、という意味か・・・・・・。
それとも、罠か。
俺は雑草に身を伏せ、ライフルを構えると照準を奴の胸部に合わせ、引き金を引いた。
だが発砲音と同時に奴の体が横にぶれ、弾丸は空を突き抜けただけだった。
避けられたか・・・・・・奴は一体・・・・・・?
出血していた以上アンドロイドではない。
だが、ゲノム兵でも、強化人間でもないという。
では何者なんだ?!
「そこに居たか!!!」
奴が高く跳躍し、完全に俺の頭上に位置した。
そのとき、奴の腕が異常な形状をしているように見えた。
「ぬぅあッッッ!!!」
「フンッ!!!」
俺はバク転し、林から抜けると広場へと奴を誘った。
その瞬間奴の影が林の中から飛び出し、俺に飛び掛った。
「はぁッ!!!」
奴の右手には、何か刃物のようなものが握られている。
「ハッ!!シュッッッ!!!」
それは、一閃、また一閃と光の軌跡を空中に描きながら、次々と俺に繰り出されてくる。視認することすら、ままならない速さで。
手にしているライフルで受け止めるたびに目の前で火花が飛散する。
俺は奴の方に一発発砲し、奴がひるんだ隙に大きく間合いを取った。
だがそのとき奴の手にある刃物が、というより奴の腕そのものが眼前に迫り、俺の鼻先に振り下ろされた。
姿勢を立て直し、奴の姿を捉えると、そこには異形としか言いようがない、重音テッドの姿があった。
「き、貴様は・・・・・・一体・・・・・・?!」
「見ての通り・・・・・・アンドロイドでも人間でないといったろう?」
そう語る制服の袖からは、おぞましい形をしたグロテスクな触手が伸び、その先にある刃、いや、歪に変形した鍵爪が、月明かりに照らされ、鈍い輝きを放っていた。
「・・・・・・新種の寄生虫と、数々の生物の遺伝子を掛け合わせた、クリプトンのジーンテクノロジーによって生み出された新型生物生気の実験体。俺はその胎内から生み出された。言わば合成獣、キメラだ!」
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