-第三十一章-
 まるで風があせりや不安を代弁するかのように、大きく木々を揺らして青々としたまだ若い葉を落としていく。街路樹がシンクロするように皆かぜに合わせて不安を大きくさせるように『ザァァァァアアアア』と音をならしていた。
「――大丈夫、だな」
 そう、メイトが緊張した面持ちで呟いた。
「そうですね。作戦決行時間は、十一時」
 反応するようにルカが言った。
「後、三分だよぉ…」
 時計を見て、ミクが不安を募らせる。
「どうしよう、私、緊張してきた!」
 そういいながら呼吸を整えているメグ。
「手に三回『人』って字を書けば、緊張しなくなるらしいぞ?」
 緊張したそぶりも見せず、神威が自分の妹にそんなおまじないを教える。
「それ、絶対、効かないよ。ね、リン?」
 馬鹿にしたように笑うレンがリンに問いかけた。
「…」
 しかし、リンは石のように固まったまま、答えなかった。
「はは、一番緊張しているのは、彼女のようだな」
 今度、笑ったのは神威のほうだった。
「当たり前!だって、帝国相手だよ?何で皆は緊張しないの?怖くないの?」
 訴えかけるようにいったリンの言葉を、レンがとめる。視線の先では、メイトが少し悲しそうに微笑みながら、
「怖い、よ」
 といった。
 その雰囲気からリンも何かを感じ取り、思わずうつむいて、
「す、スイマセン…」
 しかし、何故メイトがそんな反応を示すのか、何を知らないリンにはそれがわからず、どうしていいのか迷っていると、レンがこっそりと耳打ちをしてきた。
「メイト兄は、元・帝国関係者だから。帝国軍、陸上第一部隊隊長。今でも帝国側に知り合いが多いんだ。昔の仲間を裏切るみたいで、罪悪感があるんだよ。メイト兄、正義感、強いからさ」
 そういったレンの表情は、先ほどの困ったように笑うメイトの顔とよく似ていた。そこで、やっと気づく。
 帝国関係者の兄がいるにもかかわらず、帝国に乗り込んでいったレンは、メイトに対して負い目を感じているのだろう。わざわざ『元』をつけていることは、既にメイトは帝国関係者ではないということであり、その理由は帝国の反逆者といえる弟を持つものを、身内においておくことは自殺行為であると、帝国が判断したのだ。帝国といえば、いつもながら身内や身内関係者が問題を起こすと、その身内を何のためらいもなく依願退職にしたとか、処分をしたとか言っているのだ、メイトの件についても、依願退職ということにしてクビにしたのだろうことは、容易に想像できる。そんなメイトの性格からして、職場でも、同僚や上司、部下からも信頼が厚かっただろうことはわかる。そんなメイトがいきなりクビにされたことを気にしている者も少なからずいるかもしない。そんな昔の仲間たちを、自分たちの生活を守るためとはいえ、裏切りとも思えることをするということは、リンは勿論、この場にいる誰よりもメイト自身が一番、恐れているのではないのだろうか。
「…気にしなくていい。別に、どうでもいいから。昔の職場に仲間なんていなかったし」
「ごめんなさい…」
「大丈夫、メイトはそんなことでやられる奴じゃない」
 そうやって、『可愛い物好き』の神威がリンの頭をなでた。
 ふとリンが周りを見ると、守護者たちは案外リラックスしているように見える。これから帝国に乗り込んでいくとは思えない和やかな雰囲気で、緊張するとはいうものの、笑顔が出ているということはそれなりに余裕があるということに違いない。
 これが、守護者としての力の証明だろうか。
「…時間です」
「ああ。皆、『なるべく』死ぬなよ」
「はい、わかりましたぁっ!」
「おっけー!」
「勿論だ」
「…うん」
「は、はいっ!」
「行きましょう」

 メイトによって、大体の部屋の配置はわかっている。
 手元にあるのは、ミクが裏ルートで手に入れた怪しく黒光りする小型の小銃があり、中には銃弾が一発分、こめられていた。もう片方の手には、レンより少し小さなリンの手がぎゅっと強く握り締められていた。――勿論、リンの手だけではなく、ちゃんと体もある。
「レン、大丈夫?顔、赤いけど…」
「…平気。でも、ちょっと頭がぐらぐらするかな…」
 顔が赤くなっているだけではない。そう長く走っているわけでも大きな動きをしているわけでもないのに、いつものレンなら余裕でやってのける程度の運動しかしていないというのに、既に息が上がっていることは、後ろからレンを追うようにしているリンにもよくわかる。朝、体温を測ったときには、体温は三十八度を越えていたが、やはり作戦日時を変えるわけには行かなかった。と、いうのも、今は丁度、帝国軍の半分以上が戦に出ている。
 近年この帝国は急激に勢力を拡大しており、周りの国から恐れられている存在である。
 そんなこともあり、ここ最近はこの帝国と隣国などとの戦争が耐えない。それはすべて、こちらの帝国側が領地を増やすために動いているわけで、今回の戦争は特に大規模であり、帝国側も今まで以上に力を入れているため、今は帝国内への警戒が手薄なのである。
 確かにそれを証明するように、長い廊下を走っていくリンとレンの目にはたった一人の帝国関係者もうつることはない。
 何度かめまいがして、壁にもたれた。
「レン、少し、歩こう。やっぱり、今無理すると、危ないよ?」
「…いや、大丈夫だから。行こう。リンは、大丈夫?」
「私は大丈夫だけど…。少しペース、落とそう?」
「…う、うん…」
 少し休んだ後、レンはもう一度呼吸を整え、歩き出そうとする。しかし、体は重くなっていき、一瞬、目の前が真っ暗にすらなった。
「…本当に、大丈夫?」
 そういいながら、リンの指がレンの頬に触れた。ひんやりと冷たい細く白い指はレンの火照った頬の上で一層冷たく思えた。
「…やっぱり、熱、上がってるよ。ゆっくり行こう」
「リン、手、冷たい…」
「え?ああ、でも、手が冷たい人って、心があったかいんだよ?」
「…うん、そうかもね」
 ふざけたように言ったリンに微笑んで応え、レンはまたゆっくりと歩き出した。目指すは、帝国王がいるはずの、大広間。
 他の守護者たちと別れ、別々のほうから帝国城を攻める作戦となっている。
 その作戦の主軸、帝王付近の幹部や上層部を攻めるのは、リンとレンの役目であった。

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真実のガーネット 32

こんばんは、リオンです。
えぇと…書くことがないので、守護者さんたちに代弁してもらいましょう。
リ「そういえば、どうしてメイトさんは守護者になる前の記憶があるんですか?」
メ「え?守護者になる前から日記、つけてるから」
レ「それも、絵日記だよね」
コメントをもらって出来上がってきたダメイトから発展したこの状態です。
きっと、レンもそんなこと慣れっこだから、ゲームとかしながらメイトが絵日記書くために
「今日何あったー?」
とか聞いてくるのに、的確に答えてると思います。
それでは、また明日ッ!

閲覧数:218

投稿日:2009/10/24 23:04:22

文字数:2,629文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    こんにちは、お久しぶりです!
    メイトは超律儀にそういうことやってるとおもいますよ。
    でも、絵日記の絵は小学校低学年のちょっと上手い子ぐらいの画力でしょうけど(汗)
    あ、ダメですよ。ちゃんとしたメイトはダメイトじゃないです。
    真のダメイトはうちの子だけですから♪

    その部分についてはですね、書いている途中に、
    「あ、これ、手だけじゃね?マジホラーだわ」とか言いながら、忠告のために書きました。
    いやあ、手が冷たい人はどうのこうのって話は何かで聞いたんですよねぇ。
    何でしたっけ?(知るか)
    レンは健気に頑張っていてくれればいいです。悪ノシリーズのレンは、最高です。
    熱だしまくってればいいよ。敵に捕まって上目遣いになっていればなおいいよ(←変態)。
    レンからね、「俺、助けられてばっかり、ヤダ!」と苦情が来たのです。
    何、言ってるんですか!レンだって成長してますよ!発売されてから、0.01cm位伸びてますよ!
    きっとリンは0.9cm位伸びてるとおもいますが(笑)。

    それでは、私も、この辺で!

    2009/10/25 12:32:09

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