「頭が高い、跪きなさい!!この愚民!!」
「王女様!!」
「今の私は王女…では無い、女王なのです!!…これ以上、そやつの顔を見続けるのは不快ね…台にかけてしまいなさい!!」
「………承知いたしました。」
「女王様!!ど、どうか御慈悲を」
「問答無用。早々に送りなさい。」
「女王様………!!」
いきなり叫んだのは、元は親王国と呼ばれていた『イエロヴェラ』の現女王、『カリン・アノマニア』
彼女の代になって…いや、彼女に代代わりする僅かに前から、イエロヴェラは崩れていきました。
きっかけとしてはこう…………。
あ、ちなみに。
先程台にかけられ……処刑台に送られてしまったのは、普通の一市民。よくある、税が重くてそれを軽くしてくれ、と言う進言を直接したようです。
それが、リン王女の癪に触れたがゆえに、送られてしまいまいました。
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「剣王陛下、そして皇后…念願の御懐妊、おめでとうございます。」
「うむ、誠にめでたい事だ。」
「えぇ、本当に。」
先程、リン王女が市民を送ったのと場面は変わって、先代の頃。
ちゃんと、親王国『イエロヴェラ』として知られていた時代。
謁見の為の、場内大広間にて国王夫妻の前に跪き、懐妊を祝ったのはこの国御付の魔法使い…観測者と呼ばれる職位にいる『アマネリオ・ソラ・エンテリクス』。
長ったらしいので、アマネと略されそれが愛称となっています。
「うむ、祝の言、しかと受け取った。面を上げぃ。
……しかしアマネよ、いつまで儂を剣王と呼ぶのだ。剣をとっていたのは随分と前の話ではないか。」
「そうね…あと私も、皇后て呼ばれ方は好きではないの。まぁでも立場上、呼び捨てさせる訳にはいかないから、旦那はロヴェラ、私にはラエラに様を付けて呼びなさいな。」
「それが私の性分なのですが…お二人から直々に言われては仕方ありませんね、善処いたしましょう。」
国王夫妻…王は『イエロヴェラ・アノマニア』。国民からは親しみを込めて、ロヴェラ様と呼ばれ、妃は『ステラエラ・アノマニア』。こちらも、ロヴェラに習い愛称に様を付け、ラエラ様と呼ばれています。
それ故か、アマネに陛下、皇后と呼ばれるのは好きでは無いようです。
どうやら、律儀に陛下、皇后と呼んでいるのは国内ではアマネだけの様ですね。
先程、ロヴェラに剣王の称が付けられていたのは、更に以前に依る事の話なので、割愛としましょう。
「とまぁ儂らからの話はこれくらいにして…アマネよ、何か話があって、儂らの前に参ったのだろう?」
「察して頂けるとは話が早い。実は…」
跪いていたアマネは、かしわ手を一つ。するとアマネの手が光を持ち、そして直後に足元に手を付けると、その手中心に幾何学模様と文字列の描かれた光輝く陣…所謂魔法陣が、それなりの広さで展開されました。
「こちらを…っ、私と…私の祖国からの祝品、そして親睦の証として、贈らせていただきます。」
そして、魔法陣に着けたままの手を引き上げると、金と銀の箔が上下に別けて張られ、それらが接するだろう中央では、馴染まされ見事なグラデーションになった、簡素ながらも素晴らしい出来だと見て取れる姿見鏡が、アマネの手の動きに連動し、魔法陣の中から引き上げられてきました。
「まぁ、随分と立派な……♪」
「お二方は派手な物を好まないと思われましたので、こちらの鏡を贈らせていただきます。」
引き出された鏡を見るなり、ラエラは少し盛り上がりました。でも一人。
「しかしアマネよ、お前の事だ…ただの姿見ではあるまいな?」
「流石は陛…ロヴェラ様。御察しの通りです。」
あまり盛り上がらないロヴェラの指摘に促され、アマネは鏡に手を掛けました。
……すると、一枚だけに見えた鏡が、両側に1枚づつ、鳥が翼を拡げるように開きました。
「ご覧の様に、三面鏡となっております。」
「その薄さで三面とは…やはりそちらの技術には恐れいる。」
「恐縮です。」
「……本当に、見事な鏡ね…何処に飾ろうかしら。」
三面鏡となった姿に、ラエラはすっかり見とれてしまっています。
「古来より、鏡はと銀は魔除けの物として重宝されていた…と言うのを聞いた覚えがあります……なので、お子様に与えられる部屋に置かれては如何でしょうか。」
「……そうね、この鏡にも、我が子を…そしてこの国を守ってもらいましょう。」
「恐縮です。」
鏡を気に入ったラエラは、アマネの説明から、鏡を後の子供に宛てる部屋に置くことに。
「では、この鏡は後で騎士長に子供部屋へ届けさせよう。」
「ぜひそうされてください。………では、今日はこの辺りで下がります。」
「うむ。」
「では。」
ロヴェラが鏡を置かせるのを確認した所で、アマネが起立。一礼の後、大広間を後にしました。
………その、広間を後にしたアマネの顔には、黒い笑みが張られていました。
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