<Run! Run! Run! ボカロット猛レース! 第8話 嵐の時>

事件から1週間後、本年度最終レース、加えて、特別レース開催日

(東京 ネオアキバサイバーシティレース場)

 レース出場チーム全員がピット前に集まった状況で、実況司会のヒーゲが本レースの説明等、細かい事を伝えるため、壇上に上がった。

ヒーゲ:レース出場チームの皆さん、既にボカロットレースの実行委員から説明通知は来ていると思いますが、連絡漏れがないように、私の方から、最終連絡をお伝えします。コホン

 ヒーゲは一呼吸置いて、少々長くなる解説を始めたのだった。

ヒーゲ:まず、このレースは、本年度の最終ボカロットレースである事を変えずに、もう1つ、ミクさんに関して特別な意味合いを持つレースとしました。知っての通り、今、この会場にいる“ミクさん”は、「ナガネギーコーポレーション」の社長の娘さんである“本物のミクさん”であり、同時に、昨年から問題になっていた“誘拐事件”の被害者であり、加害者でした。事件に関しての詳細は、コーシー刑事と、前のミクさんに変装していた“アペンド刑事”、そして警察の方々に報告済みであり、このレースが終わった時点で、更に詳しい調査が行われる予定になってます

ミク:皆さん、ごめんなさい、お騒がせしました

 ざわ・・・ざわ・・・

ヒーゲ:お静かに! ということで、本レースの「ナガネギーコーポレーション」のパイロットは、まさに本物のパイロットであるミクさんで再登録されており、ミクさんに変装していたアペンド刑事は、本レースの関係者として参加する事になります。また、コーシー刑事を含め、警察関係者も立ち会う事になります

コーシー:私達警察側は、新たな事件が起こらない事や、ミクさんの身の安全を確保するために立ち会いますので、レース関係各位は気にせず、レースに集中して下さって結構です

ヒーゲ:それと冒頭で述べました、“ミクさんに関して特別な意味合いを持つレース”というのも、おそらく皆さんに事前連絡した書類では解りづらかったと思いますので、ここでは詳しくご説明します

ミク:…

ヒーゲ:ミクさんがこのレースで優勝した場合、警察の事情徴収後、自分の意志に従って将来の道を決める権利をミクさんが得る事になります。それ以外だった場合は、「ナガネギーコーポレーション」側の要求に従って、おそらくは専属パイロットとしての道を歩む事になります。コレに関しての、他レース関係者への“条件”は特にありませんので、そういう意味合いが付与されたレースという事だけは頭に入れて置いて下さい。他チームが、レース的に妨害行動をしても、特にとがめられませんのでご安心下さい

アペンド:ミクさん…

ヒーゲ:次に、チームの人員変更ですが、ミクさん関係の事情で潜入していた、AHSチームの“いろはさん”だった“ホヘト”が逮捕された関係で、AHSチームのメカニックは、専務も兼任されている“テル”さんが、急遽本社からこちらに加わることになりました

テル:皆さん。宜しく

ヒーゲ:それと、予選結果なのですが、これは、先週中断したレースの結果のままになります。皆さん、スクリーンにご注目下さいませ

(スクリーン)

PP(ポールポジション):ゼッケン08(フォーリナー) 合計ポイント7
二番手:ゼッケン05(印種不動産) 合計ポイント12
三番手:ゼッケン02(ジナラシ組) 合計ポイント12
四番手:ゼッケン01(ナガネギーコーポレーション) 合計ポイント18
五番手:ゼッケン07(アシュグループ) 合計ポイント25
六番手:ゼッケン06(AHSホールディングス) 合計ポイント27
七番手:ゼッケン03(タコルカー鮮魚組合) 合計ポイント30
最後尾:ゼッケン00(メイコ酒蔵株式会社) 合計ポイント33

ヒーゲ:ここで表示されている合計ポイントですが、本レースが残念ながら、本年度の最終レースとなりますので、本レースの最終結果で追加されるポイントは、一発逆転も含めて、以下のように変更しました。

(スクリーン)

1位=50
2位=36
3位=30
4位=24
5位=20
6位=16
7位=12
8位=8
リタイア=全部0

ヒーゲ:つまり倍額になります。これで本年度のレースの総合優勝チームも、現在の獲得ポイントから確実に優勝になるチームはなくなります。頑張って下さい!

ミク:私に関しては、目標は1つ、「優勝」だけですけどね

ヒーゲ:連絡はそれだけです。それでは各チーム、10分後の本戦スタートまで、最終打ち合わせをし、スタートまでに各ボカロットをスターティンググリッドまで移動させて置いて下さい

***

 こうして短い時間だったが、各チームの打ち合わせなどが、それぞれのピットで行われたのだった。

(ゼッケン00“メイコ酒蔵株式会社”チーム ピット内)

咲音ちゃん:アカイトさん、ちょっといいかな?
アカイト:いいですよ。何かボカロットに問題がありましたか?
咲音ちゃん:ううん、違うの。アカイトは、何でメカニックになったの?
アカイト:え? そうですね~、好きだからかな、機械いじりが。大変な職だから、好きじゃないと続けられないですからね。でも咲音ちゃんのパイロット職だって、大変ですよね?
咲音ちゃん:うん。大変だけど、私も好きだから続けている
アカイト:しかし、なんで、このタイミングで?
咲音ちゃん:うん・・・今回のミクさんの事件、詳細が関係機関から送られてきたんだけど、ミクさん、メカニック志望だったんだよね。でも今はパイロットやってるから…。私はメカニック志望じゃなかったけど、ちょっと考えさせられる内容だった。それでアカイトにちょっと訊いてみたかったの。もしかして、アカイト、ミクさんの逆パターンで、パイロット志望、だったのかも、って思っちゃったから
アカイト:ははは、私は大丈夫ですよ。まぁミクさんの事情は私も拝見しましたが、ミクさん、メカニックから見ても、凄いメカニックであると同時に、凄腕のパイロットみたいじゃないですか。パイロットやめてメカニック専属なんて、もったいないですよ。メカニックも出来て、パイロットとしても一流なら、この世界では一番望まれるパイロットじゃないですか。メカニックの立場から考えても、ミクさんがパイロットを続けるなら、あのチームのメカニックは世界一恵まれた環境にあると思いますよ
咲音ちゃん:そっか・・・うん、なんかスッキリしたよ。じゃあ、本年度最後のレース、行ってくる
アカイト:御武運を

 こうして咲音ちゃんは、ボカロット『へべれけ00』に搭乗して、スターティンググリッドに向かったのでした。

***

(ゼッケン02“ジナラシ組”チーム ピット内)

 チューニングが終わってメカニックと話が終わっているリンとレンは、既にボカロットに乗り込んでいた。

リン:レン、ちょっといいかな?
レン:ん? 何?
リン:レンはさ、これまでもずっと、メカニックの人と深いったお話していたけど、実はメカニック志望だったの?
レン:え? あーあれ? いやいや違うよ、パイロットの観点からボカロットを良い物にするために、メカニックの人とメカニック系のお話をしているだけだよ。パイロットの観点からなら、いくらでも情報を提供できるからね
リン:そう、うん、ならいいんだ。でも、もしメカニックに興味があるなら、いつでも言ってね
レン:リンが気にしているのは、“ミクさんの話”、か。大丈夫、僕はパイロット一筋だし、キミと二人で1つのパイロットだと思っているよ
リン:うん、わかった。これからも頑張ろうね
レン:ああ、じゃあ、一発、1位を取って、優勝しようか!
リン:うん!

 こうして二人を乗せたボカロット『ロドローラ02』も、三番手のスターティンググリッドに移動していったのでした。

***

(ゼッケン03“タコルカー鮮魚組合”チーム ピット内)

トエト:ボカロットは準備万端です。頑張って下さいね!
ルカ:…トエトはさ、メカニックの仕事、好き?
トエト:へ? えっとえと・・・はい、好きですよ?
ルカ:なんか言葉に詰まっていない?
トエト:いえいえ、いきなりだったから、ビックリして詰まったんです。メカニックが好きなのは本当ですよ?
ルカ:うん、それならいいんだけど、。ミクさんの話を聞いてからの数日、ちょっと考えちゃうんだよね
トエト:私もその話は聞きました。でも私は大丈夫ですから、レースではレースに集中してくださいね
ルカ:ごめん。うん、集中して1位をとるよ!

 こうしてルカのボカロット『タコルカー8』もコースに出て、スターティンググリッドに付いたのでした。

***

(ゼッケン05“印種不動産”チーム ピット内)

めぐみ:リュウト君、この延期された1週間で、再チューンナップしておいたから、全力で走ってきてね!
リュウト:・・・めぐみさん、ちょっといいですか?
めぐみ:何?
リュウト:めぐみさんの目標って、なんでしょうか?
めぐみ:へ? 目標? そうね~、このチームの優勝かな、やっぱり
リュウト:それだけですか?
めぐみ:ははは、リュウト君にはお見通しか。そう、私の目標は“世界一のメカニック”ね。技術だけでなく、チームの優勝に貢献できるって意味での“世界一”だから、まんざらさっきの目標でも間違ってないよね・・・リュウト君、わかってるよ、ミクさんの事件の事でしょ? 大丈夫よ、私はずっとあなたのメカニックだし、チームの上の方も私をパイロットにする気はないみたい。メカニックが私で、パイロットはあなた。安心して1位を取ってきてね!
リュウト:は、はい!!

 元気になったリュウトはボカロット『ガッチャ』を操縦し、スターティンググリッドに移動したのだった。

***

(ゼッケン06“AHSホールディングス”チーム)

ミキ:テル~、本当に大丈夫なの~?
テル:任せて下さい!・・・とはいえ、ブランクが長いので、基本的には、他の補助スタッフと、“いろはさん“だったホヘトが作ってあった、メカニックの猿マニ(猿でもわかるマニュアル=簡単に解説されている説明書)に従ってやってますけどね
ミキ:ミクさんの事件の被害が直撃しちゃうとは、うちのチームもツイてないな~
テル:書類と実機を見てみると、基本的にボカロットは無傷でほとんどチューニングの必要がなかったのが幸いです。☆マークの武器も無事使えるみたいですし
ミキ:ところで、この☆マークの武器って、なんなの?
テル:う~ん、猿マニにも、“最終兵器”、としか書かれてないんですよね。なんなんでしょうね?
ミキ:まぁいいや。今年もこれで終わりだし、最後の追い込みで使ってみようかな
テル:とにかく頑張りましょう!
ミキ:そうだね!

 こうしてミキの操縦するボカロット『ラブリースター』はゆっくりと歩き出し、六番手のスターティンググリッドのラインでスタンバイしたのだった。

***

(ゼッケン07“アシュグループ”チーム)

 アシュグループの3人は、整備が終わって合体した状態で待機しているボカロット『トリオー』の各コクピットから機内無線で雑談していた。

ネル:ボカロットは万全で、あとはスターティンググリッドに行くだけなんだけどさ、今回の事件、ちょっと僕達も考えさせられるよね
ハク:そうね、人員不足とはいえ、私たちもミクさんと同じように、“メカニックでパイロット”だからね
テト:(`・ω・´)
ネル:まぁ、文句も言ってきたけど、なんだかんだで、ちゃんと本戦完走しているし、こういうパイロットも“あり”なんだろうね
ハク:ミクさんは“メカニック専任”を希望しているみたいだけどね。私たちだって出来るんだから、メカニック&パイロットの立場でやっていけばいいと思うけどね
ネル:そうだよ、今回だって、アペンド刑事のヘルプがあったとはいえ、たった1週間で、新しいボカロット作っちゃっているし、ミクさん、凄い腕だよね。
ハク:パイロットの腕だって、アペンド刑事の話では凄いって言っていたしね
ネル:『天は二物を与える』か~。羨ましいなぁ
テト:((≧ω≦))
ネル:ま、いくら言っても“人様のこと”だ。うんじゃま、私たちもボチボチ行くかね
ハク:そうですね。絶対1位を取りましょう!
テト:(p`・ω・´q)

 こうして、雑談を終えた3人は、ボカロット『トリオー』を操縦して、スターティンググリッドに付くことにした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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Run! Run! Run! ボカロット猛レース! 第8話 嵐の時

閲覧数:183

投稿日:2011/07/25 19:33:34

文字数:5,177文字

カテゴリ:小説

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  • tamaonion

    tamaonion

    ご意見・ご感想

    今晩は!続き、読ませていただきました。

    レースが始まる前の、テンションが少しずつ高まっていくあの感じ。
    各チームの会話のなかで、実にリアルに体験できるようで、楽しいです。

    各キャラクターの心の中と、ゴールに向かう意気込み。なかなか表現しにくいと思います。
    “仲間同士の会話”で見事に表現されてますね!
    会話がそのまま、エンジンをふかしたりメカニックやスタッフがざわざわと動く感じに思えます。

    視覚で完結してしまいがちな、動画にない素晴らしい楽しさです。
    文章って、そういうとこが良いですよね~。

    あと、遊び心たっぷりなネーミング。思わず「ニヤリ」とするやりとり。
    このレースへの期待が高まります。
    また、続きを楽しませてもらいますね。

    それでは、また。

    2012/09/30 22:01:10

    • enarin

      enarin

      tamaonion様、今晩は♪

      > テンションが少しずつ高まっていくあの感じ

      このレースが最後ですから、気分的には、RPGでのラストバトル前で準備する各パーティな感じで書きました。ピット等で最後の点検をする各陣営達。そして、恐ろしいデスゲームの幕が切って降ろされたのでした!

      > 実にリアルに体験できるようで、楽しいです

      本当に有り難うございます! とっても励みになります! ボカロ小説を各作品でシリーズで書くと、各キャラが頭で踊ってくれるので、今回のピットとかそういう情景は、その時、演じているキャラ達を書いている感じです。

      > ゴールに向かう意気込み。なかなか表現しにくいと思います

      踊ってくれるとはいえ、それをそのまま書いている訳ではないので、取捨選択する所で悩みますね。

      > “仲間同士の会話”で見事に表現されてますね!

      本来小説は、会話パートだけでは成立しないのですが、私のシリーズは、ほとんど会話で成り立っているので、悪い面もあるけど、こういう面がウリに出来る事もあるんですよね。台本みたいに使う方法です。

      > メカニックやスタッフがざわざわと動く感じに思えます

      有り難うございます! 今回のこのシーンは、各陣営などの細かい描写がこれまで出来なかった事もふまえて書きました。出来るだけリアルに。結果、最後のあのシーンが出来上がりました。

      > 動画にない素晴らしい楽しさです

      有り難うございます! そうですね、小説などの文字媒体で楽しむジャンルならではの楽しみですよね。今、ラノベが売れている理由もわかります。今ロスにいる弟は、学生時代、漫画も読むけど、それ以上に文字媒体を読んでました。今思えば、賢明な判断だったのかも。

      > そういうとこが良いですよね?

      本当ですね。よく言われるのは、小説は”読者の想像力で補完する所に良さがある”って事です。情報が少ないけど、文字で表現するからいいのだ、そういう考え方ですね。これが音などが、ラジオドラマですね。

      > やりとり

      これはもう私の楽しみでもあります。遊んでますね、毎回。

      > 期待が高まります

      有り難うございます! この作品、常連様から、今までで一番面白い作品、と称されたこともあります。

      このたびのご閲読、コメント、有り難うございます!

      2012/10/01 20:59:36

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