1974年に実用的なパソコンが登場した際,パソコンと言えば25個程度のテンキーで7セグLEDを点灯させるだけだった。
それから数十年,LED点灯しか出来なかった頃の当時からは全く想像できないほど高機能・高性能に進化し続けた。
また,それを実現していく過程で特定のグループでしか使用できなかったパソコンが広く一般に普及・浸透していった。
そしてその進化は止まるところを知らなかった。
一旦定着しつつあったパソコンの概念を崩したものの先駆けが,『入力方法』の革命だろう。
長く続いたキーボードによる入力方法は声や目線などといったものに置き換えられ,思考→入力の間の1クッションが簡略化されることでより円滑・高速化を実現していった。
そしてそれらを突き詰めることで登場したのが,パソコンと人間の『脳』のリンク。
これによりパソコンでの思考→入力という順序は省かれ,思考=入力が実現した瞬間だった。
さらにこれはブラックボックスだった人類の脳というものが解析されたことと同議であった。
その時代にあっても脳は世界最高の演算機である。思考=入力とはすなわち,脳の演算能力を間借りできることである。
それは今までのパソコンでは不可能だったリアリティの再現であり,人間が睡眠中に見る『夢』具現化の実現可能を示していた。
一昔前の3Dなど問題にならない五感にさえ訴えるリアリティと,構築できる世界の多様性,またインターネットとの接続によるコミュニティの拡大。
発売当初から,BL(Brain Link)機能搭載型パーソナルコンピュータ『Basket』の登場は革命的で,その噂と話題性から近年類を見ない販売率を誇った。
しかしいつの時代も新しいツールの登場は必ず不具合が付いて回った。
以下は当時の新聞記事を抜粋したものである。
<BL機能搭載パソコンで意識不明者続出。メーカー、被害者へ補償金制度を適用>
<BLパソコンに囚われる使用者続出。その現実的過ぎる虚像に危機感の声>
その意識不明状態も一時的なものであり発生件数が少数,また具体的な後遺症などもなく,PC革命に浮足立った世間の人気の後押しもあり,その事件は被害者への補償と原因根絶の厳重注意に収まった。
BLのその中毒性についても,当初はメーカーやメディアからの注意喚起,中毒性に関するドキュメントの放送など比較的軽い反応だったが,ついに政府が重要視し法律を制定。
BL機能の制限。具体的には五感の制限,時間制限(時間が来るとBLが切れ,目線などによる操作に切り替わる)などがメーカーには義務付けられた。
余談だが,制限機能解除,または機能追加の違法ソフトがネット上に広まり,規制と悪用のイタチごっこに陥ったのは言うまでもない。
しかし,やはりこの先の悲劇を想うとこれらの対応は楽観的だったのかもしれない。
西暦2○39年3月7日その事件は起こった。
≪US_JAPON集団昏倒事件≫
大阪の人気巨大アトラクション施設US_JAPONで,BL搭載型パソコンを用いた超人気アトラクションに参加中の100人の意識が一斉に途絶えたのだ。
その悲劇の要因が,コンピュータウイルス。
その脅威は普及が始まる前から叫ばれていた。BL中でのPCのウイルス感染が人の脳に与える影響が危惧されたのだ。
そのために早くからウイルスソフトの徹底や公共施設でのBL搭載型パソコン使用時の外部とのネットの隔離など,予防策が講じられてきた。
しかしその網の目を突破したウイルスがついにその脅威を発揮し,事件へと発展した。
網の目を突破し,事件を起こした最初のコンピュータウイルスこそ
『Black Apple』
これが人類有史以来初の電子感染。今でも犠牲者回復の目処はたっていない。
ここで余談だが,この事件が起こった後,AIワクチンプロジェクトが執行された。
拡大するウイルスへの脅威,またBL搭載パソコン普及に伴うウイルス対策の重要性の増大に対し,人的捜査・対策・対応の限界が問われた。
そのため政府はAIワクチンソフトによるウイルスへの対抗,その根絶を考えた。
次々と種類・数ともに増加していくウイルスに対し即座に対抗・適合はもちろん,その出元を特定するための追跡性能を持たせるにはAIによる学習機能が手っ取り早かったのだ。
先に述べた『脳』の解析はAIの進歩を格段に促進させていた。
AIワクチンプロジェクトはその更なる躍進も視野に入れた政策だったのだ。
忠 熊五郎著『パーソナルコンピュータの発展の陰』より抜粋
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