こんにちは!増本慎也です。
写真には、不思議な力があると思っています。
私は仕事柄、多くの人の表情を撮影してきました。
笑顔も、緊張した顔も、言葉にならない感情も、一枚の中にそっと閉じ込めるような気持ちで
シャッターを切っています。
ある夜、撮影データの整理をしていたときのことです。
何年も前に撮影した一枚の写真が目に留まりました。
夕暮れの公園で撮ったごく普通の一枚です。
柔らかな光の中で、誰かが穏やかに笑っている。それだけの写真でした。
ところがその笑顔を見た瞬間、胸の奥で何かが動きました。
「あれ、この表情はこんなふうだっただろうか。」
記憶の中ではもっと控えめな笑顔だったはずなのに、その写真の人物は
まるで再会を喜ぶように微笑んでいたのです。
不思議に思い、撮影当時のデータを確認しても加工の形跡はありません。
翌日もう一度開くと笑顔は元に戻っていました。
夢だったのか疲れていたのか。
それとも光の見え方が違っただけなのか。
理由は今でも分かりません。
けれどその夜以来、私は写真とは「時間を止めるもの」ではなく
「時間の向こう側とつながる窓」なのではないかと思うようになりました。
人の記憶は少しずつ薄れていきます。
声も、景色も、感情も。
それでも写真はときどき忘れていた想いをこちらへ返してくれることがあります。
まるでフィルムの奥に、小さな宇宙が眠っているかのように。
そこでは過去も未来も関係なく、誰かの笑顔が静かに呼吸を続けているのかもしれません。
私は今日もカメラを持ち歩きます。
美しい景色を探すためだけではありません。
もしかするとまだ気づいていない誰かの物語や
未来の自分へ届く小さな奇跡が、次の一枚に写り込むかもしれないからです。
あの夜、消えたはずの笑顔は確かに私の前へ帰ってきました。
それが現実だったのか幻想だったのかは、今でも分かりません。
ただ一つ言えるのは、その日からシャッターを切るたびに
写真は目に見える世界だけを写すものではないと、私は心のどこかで信じるようになったということです。
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