注)この作品は、ニコニコ動画の『重音テトの消失』を元に、勢いで書いた作品です。
なので、色々とおかしい点があるかと思いますが、よろしくお願いします。
――――――――――
「うん、今日もばっちりだねミク」
「ありがとうございます、マスター♪」
夜も更けた時間帯、僕は自宅にあるスタジオで収録をしていた。
もちろん、ミクの歌を、である。
「それじゃあ、今日はこの辺にしておこうか」
「もうですか? わたしはまだ大丈夫ですけど……」
「休むことも大事だよ。それに、急がなくても歌は逃げないから」
ミクの少し不満そうな顔に笑いかけ、その頭を撫でる。
多少残念そうではあるけど、過度に歌わせて喉を痛めるわけにもいかないのだ。
そんな彼女も納得はしているのか、それ以上の不満は何も言わず、素直に僕の言葉に従って部屋を出て行った。
最後に機器などの確認、点検をして僕もスタジオを出る。
スタジオといっても、本格的なものではなくこじんまりとしたもので、それほど管理も難しくない。
なので、わりと気軽に使えるのは嬉しい限りだ。
そうして扉を閉め鍵をかけた後、あくびをかみ殺しながら寝室へと足を向けた。
誰も居ないスタジオ。
そこには本来、闇だけが広がっているはずだった。
しかし、微かなメロディーと共に、赤い影が見える。
時刻は確かに朝だが、この場所には未だ誰も訪れてはいない。
そして泥棒の類が現れるような場所でもない。
何より妙なのは、誰も何も操作していないのに音が流れていることだろう。
「……あ……――あ……」
まるで初めて“音”を出すかのように、影は掠れた声を発する。
やがてそれは明瞭になっていき、確かに紡ぎだされていく。
「あー……あ、あ、あ~……よし」
どうやら調声は終わったらしく、小さくガッツポーズをしてから頷く。
その際、両側頭のコロネパンのような、ツインドリルがゆらゆらと揺れていた。
◆◇◆
「マスター、早くしてください~」
「分かったから、そんなに急かさないの」
朝、僕はミクのおねだりで起こされた。何でも、歌うのを我慢できないらしい。
自宅にスタジオまで作ってある僕が言うのもなんだけど、本当に歌が好きなんだと思う。
うずうずして、ゆらゆらしているツインテールを眺め、僕はスタジオのドアを開ける。
閉塞的な場所ゆえに、空気が入れ替わるようなタイミングは独特だ。
何よりこの中に入れば、まるで外界と関係を断たれたように音が無くなっていく。
だけど、今日は何かがおかしかった。
「マスター、あれって……」
ミクが驚いた表情で指を指す先、そのおかしいことの元凶が“居た”。
僕が疲れたときに使うロッキングチェアに、小さな影があったのだ。
真っ赤な、というより微妙に赤褐色のような髪に、ミクと同じような感じがする服装。
目を閉じているから良く分からないけど、身体のラインから察するにおそらくは女の子だろう。
だけど、僕たちがここに来る前に、この場所に誰かがいるなんてありえない。
外からの進入は無理だし、鍵も僕が外したからだ。
なら、どうしてこの少女はここで、しかも健やかな寝顔を披露しているのだろうか?
「う、うぅ~~んにゃ……」
と、そうして様子を見ていると、少女は何やら可愛らしくネコっぽい声を上げ、身体を伸ばした。
そして目をくしくしとこすりながら、僕たちと目が合った。
少女の動作はそこで止まり、こちらとしてもこんな予想外すぎる闖入者の対処に慣れているわけはない。
結果、当たり前だが数秒か数十秒か、はたまた数分かの間、僕たちは奇妙にも見詰め合う形になったのだった。
「ええっと……とりあえず、顔でも洗ってきたらどうかな?」
一応寝起きらしいので、そう提案してみると、彼女は顔を真っ赤に沸騰させて「あうあうあう」と口をパクパクさせてしまった。
そういうわけで、ひとまず彼女はそんな状態で、ミクに連れられて洗面所に行くことになったのだった。
これが、テトと僕とのファーストコンタクトであり、今にして思えば終わりの始まりだったのだろう……。
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