籠の鳥

 ある住宅街に、3人の帰宅途中の学生がいた。
 3人は共通のセーラー服を着て、かしましく会話をしながら夕焼けで橙色に照らされる歩道をゆっくり歩いている。それはとても和やかで、日本の治安の良さの証明でもある。
 ただその中で1人、談笑の合間をついて薄い溜め息をつく少女がいた。髪は艶のある黒色で漆黒の双眸によく似合う。ただ肌は青白く、あまり健康的なものではない。体躯も小柄で、病弱な雰囲気だ。
「あ、私ここだから」それでも女子高生らしい笑顔で、眼の前の家を指差す。2階建ての一軒家で、一般家庭の比較的標準に値する家だ。
「そっか。優希、また明日!」
「じゃーねー」
 優希と呼ばれた少女は、2人の友達と家の前で別れた。相変わらずかしましく話す2人を横目に見ながら、少女はまた溜め息をつく。ただ、もう少女は笑っていなかった。
 少女は玄関の鍵を開ける。扉を開く直前で、扉の向こう側でどたたたた、と音がしたが無視して、扉を開けた。
「マスター!お帰りなさーい!」
 そこにはマフラーを揺らす、長身の青年が立っていた。
 髪は空より深く海より淡い、人工的な青色。瞳も髪にならい青色で、人形を連想させる。外見は20歳前後だが、大人びた顔つきとは矛盾した無邪気な笑みが、印象を幼く感じさせられる。
 青年は優秀な犬以上の反応で走ってきたせいか、額に汗をかいている。そんな事にも構わずに、青年は満面の笑顔で優希を出迎えた。
 マスターと呼ばれた優希はそんな青年に、鞄を投げつけた。
「ぶふっ!?い、痛いですマスター!」
「・・・カイト、晩御飯は?」
 優希は先ほどとは想像もできない無表情さで、玄関を通り抜ける。カイトと呼ばれた青年は後ろから優希に追従する。鞄を持って付いていく姿は執事のよう、と言いたい所だが、残念ながら笑顔で後ろを歩く姿は犬にしか見えなかった。
「出来ていますよ。今日はシチューでー、なんとお肉が半額だったんです!」
「あっそ。・・・後で食べる」
「・・・にょろーん」
「五月蝿(うるさ)い」
「マスター、ぐれていいですかっ!?」
「・・・勝手にすれば?」
「うっ、それは卑怯ですようマスター・・・」
 台所、リビングを通り抜け、2階に上がりすぐ左の部屋に入る。部屋にはシングルベッド1つとPCが載った学習机、脇にタンスがあるだけの、物が無い部屋だ。優希はベッドに寝転がる。
「マスター、制服のままじゃシワになっちゃいますよ」
「・・・カイトに関係ない」
「そのままじゃ風邪引いちゃいますよー」
「・・・・・・・・・」
 仰向けのまま、優希は眼を閉じる。それをしばらく見守っていたカイトは、鞄をPCの隣に置いて、タオルケットを優希にかぶせる。返事もしない優希の頭を撫で、部屋を出ようとして、
 ぐい、とマフラーが引っ張られた。
優希は右手に掴んだマフラーの端を引き寄せ、顔に当てる。結果的に引き寄せられたカイトは、ベッドの傍(かたわ)ら、優希の隣に座る。
「マスター、どうしたんですか?」
「・・・あいつら、」
「はい?」
「ぐちゃぐちゃ話して、何が楽しいんだ・・・」
「・・・・・・」
「馬鹿な話しして、どうでもいい話しして・・・早く帰りたいのに・・・、・・・あいつらは何であんな話題ではしゃげるんだ・・・馬鹿じゃないのか・・・・」
 カイトは静かに、優希の愚痴を聞いた。ぽつぽつと溢(こぼ)される怨嗟(えんさ)は、マフラーでくぐもっているせいでより聞こえ辛くなっている。
「これだから女は嫌いだ・・・」
「マスターも女じゃないですか」
「・・・五月蝿い。・・・人類とか滅亡したらいいのに・・・」
「マスターも人類じゃないですか」
「・・・死にたい」
「マスターが死んだら寂しいです」
「・・・・・・カイト」
「はいっ!何ですかー♪」
「・・・歌え。」
 マフラーを右手で握りながら、優希は半身を起こす。カイトは「何がいいですか?」と問い、体育座りに姿勢を正した優希は「任せる」とだけ答える。その返事にカイトは満面の笑顔で返して、
 伸びやかに歌いはじめた。
 伴奏も手拍子も無い、ただの独奏は十分に部屋に満ちてゆく。幅がある音域を自在に操るカイトの傍(そば)で、優希は静かに耳を澄(す)ませ、マフラーを弄(もてあそ)んでいた。
 歌は部屋からは溢れずに、ただただ2人を包んでいた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

籠の鳥

えー、見て頂いた通り、小説です。KAITOがヤンデレになる時もあるなら、マスターがヤンデレになってもいいよね!と言うコンセプトで書いていたはずですが・・・何が起きたのでしょう、『コレは病んでるだけでは』と言う発想が頭を駆け巡っています。初投稿で右も左も分からないヒヨッコなので、何か書いてくださると感激です。

ここから下↓は説明です。
・優希…外では猫被って暮らすヤンデレ女子高生。かなりストレスが溜まってそうです。カイトで鬱憤を晴らす日々。
・カイト…歌って料理もこなすボーカロイド。若干バカイト気味。なぜPCから飛び出しているのか、作者にも謎です。優希の鬱憤を晴らわさされる日々。

実はまだこの作品、続きを書こうかどうか迷っています。皆さんの批評を聞いてからにしようというたいしたチキンハートなのです私。どうかご意見下さい!m(_ _)m
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

閲覧数:299

投稿日:2008/11/17 21:22:35

文字数:1,802文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 秋徒

    秋徒

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    >Raptor1さん
    ご意見ありがとうございます!まさかこんなに早く読んでくださるとは思いませんでした、至福の限りです(T-T)
    これからもちょくちょく更新出来るように頑張ります。
    Raptor1さんも、ミクの小説楽しみにしてます!

    2008/11/18 18:50:03

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