第二回目の出撃。
その任務開始から既に十時間ほど経過したところだろうか。
そしてこのVTOLの操縦桿を握り締めて三時間が経つ。
自体は思わぬ方向に発展したものの、俺とタイトは任務を遂行することができた。
が、現在の状況が絶望的であることに変わりはない。
Piaシステムの作動により、日本軍の機能は完全に停止した。
一切の、武器兵器が使用できなくなったのだ。
もはや俺達には、おのテロリストに対抗する術は持ち合わせていない。
もしあったとしても、それ以前に・・・・・・。
『デル。こちらの燃料がそろそろなくなってきた。どこか着陸に適した場所はないか?』
「いや、ここで着陸しても、救出してくれる保証はない。」
『そうだな・・・・・・。』
俺の乗る機体も既に燃料が底を尽き始めていた。
良く飛べても、後二十分。
キャノピー越しに眼下を見下ろすと、既に陸地を離れ、俺達の緊張などまるで気にしないように穏やかな海が波打っている。
現在、俺達の体内にあるナノマシンは完全に機能が停止している。
だから博士の下へ連絡することもままならず、おまけに向こう側では俺達の位置が特定できない。
救援などは来るはずもなく、ただ一人を抜いて全員のバッテリーが切れるのを待つだけだ。
先程博士からの無線を最後に博士側に通信が繋がらなくなり、今はタイト側と繋がっているのみ。
あのアンドロイド部隊の追撃を受けただけに機体の損傷が激しく、各部に異常が見られ始めていた。
この機体もそろそろ持たない。
安心して着陸のできる、運がよければ友軍の基地に着陸したいところだ。
レーダーに一つ、大きな光点が見つかった。
ストラトスフィアではない、海上で停止したままの反応。
船?しかしこの大きさは・・・・・・。
『デル、あれを見ろ!』
突然上がったタイトの声で前方を見つめると、海の上に得意な形状をした船が見えた。
低く平面的な甲板には、何機かの航空機が見える。
『雪峰だ。』
「雪峰・・・・・・。」
聞いたことはある。日本海軍が所有する新型空母艦だ。
低被発見性に特化したあの形状は、資料で目にしたとおりだった。
『もう選択の余地はない。デル、あの艦に着艦しよう。』
「ああ。」
向こうはもうこちらの姿が見えているだろう。
だがシステムの影響で無線に到るまで停止状態なのだろう。
機体を空母上空に接近させると、甲板の上から発炎筒の煙が上がりクルーの一人がそれを振っている。
着艦を許可する、という意味なのだろう。
エンジンの推力方向を少しづつ垂直方向に下げ、ゆっくりと機体を下降させ、甲板に着地する寸前でスラスターを吹かし衝撃を和らげながら着地した。
続いてタイトも甲板に機体を着艦させた。
それを確認すると、俺は操縦席のシートを倒してカーゴベイの中を覗いた。
そこには兵員座席に座る、ワラとシクの姿があった。
「二人とも、大丈夫か?」
「ええ。デルさんのおかげです。」
「うん・・・・・・ありがと。」
シクはそう言って小さく頭を下げたが、ワラはどこか顔色が悪い。
「ワラ。どうした。具合でも悪いのか?」
「ううん・・・・・・何でも、ないよ・・・・・・。」
そう言い、小さく微笑みを返した。
その微笑に安らぎを得たのか、俺の意識から緊張感が抜け、ふと両肩の力が抜けた。
「そうか・・・・・・よかった。運よく味方の空母に着艦できたんだ。さあ、ここを出よう。」
カーゴベイの壁にあるハッチの開閉装置を操作しハッチを空けると、目の前には小銃を抱えた警備兵らしき二人の男が立っていた。
その後ろでは何人ものクルーが機体を取り囲んでいる。
「ようこそ雪峰へ・・・・・・だが、まずは所属と、そちらの状況を言ってくれ。」
語調柔らかく、兵士の一人が尋ねた。
だが、その顔つきは尋問に相応しい、怪訝そうなものだ。
「陸軍特殊部隊のアンドロイドだ。陸軍技術開発研究所占拠の犯人であり、この事態を招いたクリプトン・フューチャー・ウェポンズの潜伏場所の情報収集任務の途中、ウェポンズの襲撃に遭い、駆けつけた援軍のVTOLで離脱した。」
俺がそう言うと兵士は納得したように頷いた。
そのとき兵士の胸にある無線機がアラームを発し、兵士は耳にあるマイクロフォンに指を当てた。
「ええ・・・・・・はい・・・・・・そうです・・・・・・陸軍特殊部隊の、アンドロイドだと・・・・・・はい・・・・・・そういっています。」
無線に頷きながら兵士が俺の顔を一瞥し、後ろにいるワラとシクの顔を覗き込んだ。
どうやら、俺達のことが言われているらしい。
「あ・・・・・・はい・・・・・・はい・・・・・・了解しました。すぐにお連れします。」
兵士が通話を終えると、もう一人の兵士に何かを耳打ちした。
するとの二人は怪訝そうだった態度を一転させ、両足をそろえると俺達に向けて敬礼した。
「ご無礼をお許しください。今から、本艦内のブリーフィングルームに向かってもらいます。そこで艦長がお待ちです。お取次ぎいたします。」
「どうも。」
兵士の背を追いながら甲板を見渡すと、どうやらタイト達も似たような状況になっていたらしく、警備兵はすぐに退散して行った。
俺達が乗っていた二機のVTOLは、クルーが操作してエレベーターの上に搭載され、そのまま下降した。
タイトとミク、キクと栄田道子が警備兵の後に続き、俺の隣に並んだ。
「そっちも何とか上手く行ったようだな。」
「まぁな。この艦には昔世話になっているからな。」
タイトが得意げに言う。
多分空軍に所属していたときのことだろう。
「これで全員ですね。ではご案内します。」
兵士の後に続き、俺達は雪峰の艦内に足を踏み入れていった。
ブリーフィングルームで艦長が待っているというが、何のことだろうか。
とにかく、状況が少しでも好転してくれる事を願うしか、今の俺にはできない。
「ねぇシク。あいつさ・・・・・・。」
「なに?ワラさん。」
「ほら、デルだよ。」
「デルさんがどうかしたの?」
「みんなが苦しみだしたあの時・・・・・・あいつ、自分が苦しむことなんてお構いなしに、あたしに注射を打ったんだ・・・・・・一人分しかないのに。」
「・・・・・・。」
「どうして・・・・・・そんなことしたのって聞いたら、君の苦しむ姿を見たくはないって・・・・・・それって、どういう意味なんだろ。」
「それは・・・・・・きっと、ワラさんのことが大切で護ってあげたい存在だから、じゃないかなぁ?」
「それって、つまり・・・・・・。」
「一目ぼれ・・・・・・ってことも、あるかもしれないよ。」
「やっぱり・・・・・・かな・・・・・・。」
「でも、もうちょっとだけ様子見てみたら?」
「そ、そそ、そうだよね。あいつがただお人よし名だけってこともあるし、ねぇ?」
「そうじゃない可能性も、あるんだけど。」
「ん、もうシクがそんなこと言うから、なんだかさっきより・・・・・・どきどきして・・・・・・。」
「ん?どうしたワラ。お前さっきから具合悪そうだが・・・・・・。」
「な、ななな!なんでもないったら!!ほら、あたしのことはいいから、ほら、さっさと進む!」
「ふふ・・・・・・ワラさん顔が赤い・・・・・・♪」
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