「――ありゃ。レンとはぐれちゃった。どうしよ、レン、この辺り来た事ないんじゃ…」
 レンの手からはなれ、リンが慌てだしたときにはもう遅く、リンは人のながれに乗ってレンとはぐれてしまっていた。大変だ!いや、普通なら年上でしかも男のレンを心配して後戻りまでしたりはしないのだが、どうも数年前からこの辺り、犯罪が多発しており、すりや万引き、果ては誘拐までもが日常的に起きているというのだから、呆れる。
 誘拐…。一度、リンも誘拐されかけたことがある。そのときは、近くにいた大学生が助けてくれたが、どこかあどけなさの残る少女のようなレンのこと、誘拐されてしまうことがないという確証はない…。
 人の流れに逆らって歩いているうち、リンは何かにぶつかった。どうやらチンピラらしい。
「あ、スミマセン…」

 一体、リンはどこに行ったというのだろう。
 この辺りには来たことがないからあまり勝手に歩くと、むしろこっちが迷ってしまいそうになる。少し歩いてから、レンは辺りを見回した。やはり、リンは見つからない。
 この辺りで待っているのが得策か、しかしリンも同じことを考えていたら、一生であえないぞ…?どうするか…。
 そう思っていたとき、見知らぬ青年が声をかけてきた。肩に軽く手を置かれ、とっさに振り向いて強くにらみつける。
「何ですか」
 妙に落ち着き払った口調と苛立ちを含んだ冷たい瞳。どれほど恐ろしい形相をしていたことだろう。
「あ、いや、さっきチンピラに絡まれていたから、大丈夫かなぁと」
「チンピラに…?」
「ん?あ、人違いだ。悪かった」
 スタスタとどこかに消えていった青年を見送りながら、レンは触られた肩を軽くほろい、考えをめぐらせた。勿論、チンピラに絡まれた覚えなどない。二年前までならもっとやんちゃをしていたから、むしろこちらから喧嘩を吹っかけたかもしれないが、とりあえず今日はそんな覚えはない。つまり、もう一人、自分によく似た誰かがチンピラに絡まれたのだ。そこまで気付けば、その『自分によく似た誰か』は大体検討がついてくる。
 先ほどの青年が歩いてきたほうに、レンは歩を進めた。

「なにするの!痛いじゃない!」
 大きく甲高い声でリンは抗議した。
「だーかーらぁ、ぶつかってきておいて謝りもしねぇのはどうだ、って言ってんだよ」
「謝ってるじゃない!それに、ぶつかってきたのはそっちでしょ!」
 普通なら怯えてしまうような、見た目にも『私はチンピラです』と書いてあるような、チンピラの見本みたいな奴相手にこんなにも堂々と意見できるリンは、正直ものすごいと思う。
「寧ろ、そっちが謝るべきじゃない!?」
「何だと、このガキ!」
 今にも襲い掛かってきそうな巨体を前に、リンは内心ビクビクしていた。ああ、もう、こんなことをしている場合ではないのに。さっさとレンを泣かせるなり怒らせるなりしてしまわなければいけないというのに、何でこんな奴らに絡まれているんだろう!なんだか自分が異様に情けなく思えた。
「な、何よ?殴れるもんなら殴ってみなさいよ!百倍で返してやるんだから!」
 無理やりの挑発に乗った相手はその大根みたいに太い腕を振り上げ、リンに襲い掛か…ろうとした。それを止めたのは、レンだった。
「…」
 何も言わず、きょとんとしたままのリンの手を乱暴に引っ張って、その場を後にしようと歩き出した。しかし、相手もすぐに返してくれるほど優しくはなかった。
「おい、待てよ」
「…」
 振り向く。
「なんか用」
「そいつが俺たちにぶつかってきたんだ。あやまれっつってんだよ」
「…そう。…じゃ」
 ほぼ無視してレンが歩いていこうとすると、レンの肩に手が置かれ、ぐいと後ろへ引っ張られたかと思うと、頬に焼け付くような痛みが走った。唇が切れて血が飛び散る。
「きゃあ、レンっ」
「…リン、ちょっとさ、よけてて。…危ないから」
「レン?」
「ほら、早く。…喧嘩を売られたら、買わなきゃ気がすまない」
 言って軽くリンを押し出すと、血をぬぐって鋭く瞳をぎらつかせながらチンピラたちをにらみつけた。
 息を呑んでリンが見守る中、レンがふらりと動き出す。決して俊敏と言うわけでも、力強いわけでも、鉄壁の防御がなされているわけでもない、本当にふらっと歩き出しただけ、そんなふうだった。しかしながら、どこか怪しげな雰囲気の進み方である。
 すぐに相手も動き出した。
 誰にも分からないように、レンは八重歯を見せながらニィッと笑った。
 襲い来る敵の頭に手を伸ばし、思いきり下に押し付けるようにしながら右足の膝を持ち上げ、すぐに後ろのほうへ投げ飛ばした。その身のこなしはどこかぎこちなくもあったが、やはり慣れたような風にも見える、無駄のない動きだった。
 ぐらりと相手のでかい『図体』が揺らぎ、その場に倒れこんだ。仲間たちが思わずたじろいた。
「ハッ!粋がってるだけじゃ、その内ぼろぼろになるぜ?」
 唖然、呆然。
「人の女にてぇだしてんじゃねぇよ…って言えば、いいのか」
 あまりのレンの豹変振りに、リンは卒倒してしまいそうだった。多重人格者だったのか!
「いい年してさ、女の子にてぇだしてんのは感心しねぇな?」
 また肩を軽くほろって、リンの手をとってその場を離れようとする。後ろから声をかけられる。
「なんなんだ、おまえ…!」
「…鏡音レンだ。…リン」
 軽くリンの手を引き、その場を離れていく。
 名乗ってからレンが黒っぽい笑いを浮かべていたのは、チンピラたちにしか見えないほど短い時間で、その笑みがさらに相手を震え上がらせた。が、それ以上に相手を怯えさせたのは、その名だった。
「おい、鏡音レンだってよ」
「知ってるよな」
「ああ…。今じゃ『族』の中でもトップレベルの『VOICE』の初代ヘッドだぜ」
「なんでも、二年前に失踪して、今のヘッドに代替わりしてるらしいが、今のヘッドですらアレには勝てないといっているらしい」
「何であんな化け物がここにいるんだ…?」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

またいつか、桜の木の下で 9

こんばんは、リオンです。
復活しましたぁぁ!!
お休みしている間にいくつかネタを作っておいたので、少しの間ネタには困らないかと。
テストも無事終わり、あとは結果を待つばかり。
後に残るのは唯一つ、絶望のみでございますです。はい。
本当に社会2の危機を脱しなければPC禁止令が出る可能性が(汗
それでは、またよろしくお願いいたしますー♪

閲覧数:411

投稿日:2010/02/17 22:12:18

文字数:2,478文字

カテゴリ:小説

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  • 流華

    流華

    ご意見・ご感想

    はじめまして!流華というものです♪
    作品が読みやすくて、おもしろいのですごいと思います♪
    これからがんばってください!
    応援してます!

    2010/02/17 22:44:54

    • リオン

      リオン

      はじめまして、流華さん。
      読みやすいですか?ありがとうございます!!
      頑張りますね!
      ご期待に沿えるようにしますよ!

      2010/02/17 22:48:15

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