――――――――――つんでれ☆どっぐちゃん。それが、あたしの名前。



変な名前でしょ? Turndogが何を考えたか、こんな名前つけたのよ。……まぁ、せっかくつけてくれた名前だし、悪い気はしないけどね?



かるーくあたしのこと、おさらいしよっか。



あたしの正体は、Turndogから分離したあいつの精神体に、『愛犬胡桃』とか『幼女』とか『ツンデレ』とか……そう言った数多のプログラムを組み込んで実体を形成させたもの。簡単に言えば、電子精神統合型生命体、ってとこかしら? もっとわかりやすく言えば、『人間にあらざりし者』ってとこね。え、難しい? もうっ、だらしないわね!





まぁ、いいや。あたしがどんな存在かなんて、大した意味ないだろうし。





そう。私の存在がどうとか、そんなことはどうでもいいの。





あたしには仲間はいても―――――存在まで気にしてくれる、友達なんていないから。





……っと、なんだか湿っぽくなっちゃった。いけないいけない、明るくいかないとね。





さて、今日もがんばろっと。










《ズドゴンッ!!!!》



豪快な音がして、Turndogとあたしが住む201号室の扉がちょっとだけ開いた。

ああ、またか―――――そんな感じの呆れた表情でTurndogが立ち上がり、扉を開ける。

そこには四つん這いで頭をさすっている、お隣に住むゆるりーがいた。週に一回ぐらいは、盲目的愛のあまりあたしに向かって突撃してくるバースト少女だ。

因みにこれでもだいぶマシになった方なのよね。半月前ぐらいまでは週に5回は『バーストモード』とやらになって突撃してきてたから。


「あーあーあー……またかいゆるりーさん……」

「あいたたたた……なんだか扉が開かなくて……」

「突撃しようとしたって無駄だよ。こないだのリフォームで頑丈になった上重量増してるんだぜ? 下手に突撃すると頭打つことぐらいわかってるっしょ?」

「いつもの調子で、つい……」


今までなら簡単に扉が開いたため、あの突撃で扉を粉砕することもなく入ってこれたのだけど、今の扉は頑丈+重量倍のため開きにくくなっている。

今まで通りのテンションで開けに来たら、そりゃ頭打つに決まってんじゃない……。



「ほらゆるりー? ちょっとこっち向いて」

「へっ?」



あたしがゆるりーの前にしゃがみ込んで無理やりこっちを向かせると、案の定額に血を滲ませていた。


「全くもう、受験生が聞いてあきれるわね~! 頭打ったらバカになるじゃない、これ以上バカになってどこに受かるつもり!?」

「え、ちょ、ひどい!!」

「おまけに女が肌に傷作ってどーすんのよ! ……ったくしょーがないなー、特別にネル特製の塗り薬塗ったげるから、ちょっとじっとしてなさいよ!!」


スカートのポケットから塗り薬を取り出し、ゆるりーの額にぐりぐりと塗り付ける。因みに今あたしはいつものワンピではなく、ノースリーブシャツ一枚とミニスカートを履いている。

なのでこの体勢だとゆるりーにスカートの中が見えそうなんだけど……良くも悪くも彼女は思考がそっち方向に行ってないようで。


「どっぐちゃんが……どっぐちゃんが私の心配を……!!」

「んなっ……べ、別に心配なんかしてるわけじゃ……そ、そう!! かなりあ荘の一つ屋根の下で暮らす仲間だから仕方なくやったげてるだけなんだからね!!」

「きゃあああああああああああああああああああああどっぐちゃん心配かけてごめえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」

「ふみゃあああああああああああああああああああ離れんさ―――――――――――――い!!!!!!!」


のしかかるような勢いで抱き付いてきた。あ、暑い! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!!!! あたしは体温が3℃上がったら死ぬんだよー!!!!


Turndogがゆるりーさんを抑えてくれなかったら、あたしは今頃気絶していたかもしれないな、とふと思った。





「ふあああぁぁぁ……つっかれた~……」


その日の晩。Turndogが布団に潜り込もうとしている隣で、逆にあたしはむくりと起き上がって外に向かって歩いていた。


「……どっぐちゃん」


不意にTurndogから声がかかる。


「……何よ? あんたが許したんじゃない、夜なら一人で部屋の外に出てもかまわないって」

「ああ。それを止めるつもりはないさ。……だがお前、毎晩毎晩ふらふらと歩き回って……寝ろよ、ちょっとぐらい。俺が起きた時にいないことすらあるじゃねーか」

「朝帰りの旦那待つ奥さんかっての。それにあたしは寝なくたって死なないわよ」

「それとこれとは話が別―――――」


「自由にできるときぐらい自由にさせてくれたっていいじゃないっ!!」


叫んでからはっとした。しまった。何やってんだあたし。

言い方こそきついけど、Turndogはあたしのこと心配して言ってくれてたのに……………。


しばらくの沈黙の後、Turndogがポツリとつぶやく。


「……そうだな。ちょっと干渉しすぎたか。ゴメン」

「あ……」

「だけど……さ」



「毎晩酷く寂しそうな顔して外に出ていくのは……やめてくれ。俺まで苦しくなるから……」



「………っっ」


何も言えないまま、あたしは部屋の外に飛び出した。





あたしには友達がいない。

正確にいえば、誰かの事を心の底から友達だと思ったことがない。

ゆるりーやその友達の雪りんご、その他かなりあ荘の面々だって……仲間であることは間違いないけど、心の底から友達だと想えたことがない。

……ホントは友達だと思いたい。だけどなぜか、どうしても思えない。

一体どうして。いったい……あたしはどうしたら…………。



「……ん?」


廊下の真ん中に、ぼんやりと光る影を見つけた。

リボンで結った黒髪に、ツユクサ模様の袴。そしてその袴の先は淡い光を放ちながらうっすらと透けている。


「……清花?」

『!……どっぐさん……』


そこにいたのは、このアパートに憑りつく幽霊・清花だった。

彼女は100年ほど前に結核でその命を散らした少女。生前友人と交わした『自分自身の物語を完成させる』という約束をいつか果たすため、今もこのかなりあ荘に憑りついて生活しているらしい。

あたしと話す時はいつだって楽しそうな清花……そんな彼女が、目を真っ赤に腫らしている。ひどく……泣いていたみたいだ。


「……何か、あったのね?」

『……はい……』

「……あたしでよければ、話してみてよ」

『………はい………!』


彼女は涙をこらえながら、ポツリポツリと話し出した。




『先日……私は下の共有部屋で、誰もいなかったのでうとうと眠ってたんです。そうしたらそこに、しるるさんがやってきて、何かを悶々と考え込んでたんです。しばらくしたら今度はつかささんがやってきて、二人で話し出したんです』

「ああ、あのボクっ娘ね……それで、二人は何について話してたの?」

『……何について話し出すつもりなのか、ちょっぴり興味があって耳を傾けてみたんです。……そうしたら、その瞬間耳に飛び込んできた言葉が……』



《私、いくらかわいい子でも、お化けは怖いよ―》



「………っ!!!」

『……一発で私の事だってわかりました。そしてもう、そこから後は何も耳に入らなかった……その日の晩、しるるさんはあの変な機械を付けて私の前に現れて、私があの時の話を聞いていたとわかった瞬間に、いろいろ褒めちぎって取り繕おうとしてきました。……もうどうでもよかった。私は『もう一人でいい』とだけ言って……その日以来しるるさんに干渉するのをやめたんです』


心を縛るような悲しみが伝わってくる。これはあたしが精神体だから? ……それとも、清花の悲しみが、怒りが周りに影響を及ぼすほど強いから……?


『……わかってたんです。所詮私は幽霊。現世の人に干渉していい存在じゃないんだってことぐらい。……でも……!!』


ぎりりと拳を握りしめて、苦しそうに吐き出した言葉―――――



『寂しかった……!! しるるさんに……拒絶されたことが……こんなにっ……苦しいなんて……!!!!』



ぼろぼろとこぼす涙が、光となって消えていく。

肉体という器を持たない、文字通り剥き出しの心に、偶然とはいえしるるさんの言葉はさながらナイフの如く突き刺さったんだ……。


『……どっぐさんも気にかけてくれなくてもいいんですよ。私は所詮幽霊なんですから……』


俯いて沈んだ声でつぶやく清花。あたしはすっと立ち上がって―――――





「……バカ言ってんじゃないわよ」





すこん、と清花の頭に軽いチョップを喰らわせた。


『……え?』

「今自分で『寂しい』とか言っといて、何あたしまで突き放そうとしてんのよ。結局あんたは、もう一度突き放される恐怖を味わいたくないがために、先に自分から突き放そうとしてるだけじゃないの!!」

『う……あ……でもっ……』


袖の裾をぎゅっとつかみ、またも俯く清花。まったく、ホント手間がかかる……。


「……ねぇ清花。あんたはいったい何?」

『え……私は……幽霊―――――』

「違うでしょ。……前に言ったわよね。あたしはあたしを作ったやつの精神体が実体化しただけだって。あんたと同じようなもんよ、幽霊に近いわよ。だけどね……!! あいつらは……ゆるりーも雪りんごも……幽霊苦手なしるるさんでさえも、あたしが非人間であることを忘れて、一人の『つんでれ☆どっぐちゃん』として扱ってくれてるんだよ……!! あんたも同じ。あんたは幽霊じゃない。あんたはただの『清花』!! 例え現世の人間じゃなくても、あんたは人間の『清花』!! 幽霊であることなんか忘れて、もう一度現世の人間と向き合いなさい!!」


一気に言葉を吐き出して、そして大きく息をついた。なんだか今日のあたしは変だ。Turndogにあんな言い方したり、清花に対してこんなに熱くなったり……。

清花は目を丸くしてあたしの事を見つめている。呼吸を整えて、もう一度あたしは口を開いた。


「……あんたの心の準備さえ整ったら、あたしが今の時点であんたに会えるやつのところに連れてってやるよ。……そして! なんか辛いことがあったら、今日みたいに思いっきりあたしに吐き出しなさい!!」



「だってあたしは、あんたのと―――――――――」



そこではっとした。今あたし―――――何て言おうとした?


『……私の……?』

「……ふふっ、あんたの話し相手なんだからねっっ!!」

『……はい!』


涙をためながらも、清花は精一杯の笑顔を浮かべた。よかった、やっと笑ってくれた。


それにしてもあたし……さっきなんて……?



―――――友達って、言おうとしていた……?





翌朝。

Turndogの忠告もむなしく、あたしは結局完徹して清花と話してた。

そして部屋に戻ってみると……案の定あいつはすでに起き上がって待っていた。


「……ごめんなさい」

「気にすんな。それより、清花ちゃんはどうだった?」

「! あんた、夕べのこと知って……!?」

「まーな。なんせ完徹してたから」

「ふぇ!?」


まさかあの後、一睡もしてないっていうの!? あたしに付き合って……!?


「……清花は、まるで人間を信用してなかった感じで……でもすごく寂しがってた。誰かと……話したい、一緒にいたいって気持ちが溢れてた」

「そっか……。……ははっ、まるで昔の俺……そして昔のお前だな……」

「え?」


どういうこと? 昔のあたしって?


「いい機会だ、お前の秘密について明かしてやる。昨日説教かましちまった詫びだ」

「え……」




「……お前のために切り離した俺の精神体……ありゃあ、俺の一番どす黒い部分だったんだ」




……………っ!!!?


「驚いてるみたいだな。……小中時代、身を斬られるようないじめを受け続け、最後まで信じてた幼馴染にすら裏切られた俺の、一番黒い部分。人間を信用していなかった。滅びてしまえとも願った。だけど心のどこかでは……仲良く話せる友達が欲しかった。そんな感情を、俺はなくしたかった。表裏のない人間になりたかった。……お前を作り出す時、俺は無意識のうちに切り離した精神体にその人格を押し込めていたんだ。プログラム『ツンデレ』をインストールしてなかったら、今頃お前は唯の下衆な奴になってたかもな。……今更言えたことじゃないが、すまなかった」


そこまで言って、Turndogはあたしが呆気にとられていたことに気が付いたようだ。


「……どっぐちゃん?」



そうか。そうだったんだ。


全部わかった。全て理解できた。


あたしがゆるりー達の事を友達と想えなかったのも。清花のことを友達だと想えたのも。


全てはこの人格のため。だからゆるりー達を拒み、清花を受け入れようとしてたんだ―――――。


全く、ホントなんてことしてくれてんだか。



だけど―――――


「……今日だけは、あんたに礼を言ったげる」

「……???」


Turndogはさっぱり理解していないようだったけど、まぁいいや。


「ど―――――っぐちゃあああああああああんっ!!! おっはよ―――――!!」


元気な声がして扉が開かれ、ゆるりーが飛び込んできた。二日連続『バーストモード』!!しかも朝からですか。


ほんっと、騒がしいなぁ……。



でも。ふふ、運がいいね。今のあたしは機嫌がいい。


「ゆるりー」

「ふぇ?」


ゆるりーの前で、腰に手を当てて仁王立ちしてみる。


あたしも少し、前に進んでみようかな。





「特別にあんたのこと、友達って認めてあげる!! 感謝しなさいよね!!」





この後、ゆるりーがどんな行動をとったか、そしてあたしがどうなったかは想像にお任せする。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【つんでれ☆どっぐちゃん】どっぐちゃんと清花

とうとう……とうとう……っ!!
どっぐちゃんが主役に……………!!!
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!!!(お前はゆるりーさんか
こんにちはTurndogです。

最初はただの性転換キャラだったどっぐちゃん。
いつの間にかキャラ付けができてきたどっぐちゃん。
受験生活の中でなぜかイラストまで出来上がったどっぐちゃん。
受験が終わるころには背も胸(←!?)も大きくなったどっぐちゃん。
そしてとうとうTurndogと同じ部屋で生活を始めたどっぐちゃん。

ああ、とうとうここまで来たね……(うるっ)

一応おさらい。どっぐちゃんはスコープを使わずとも清花ちゃんが見えます。人外特権ですよw
御蔭でどっぐちゃんと清花ちゃんはいい話し相手になっておりますwこれは薄い本が出るな……(出ねえよ
そして清花ちゃんは案の定超落ち込みモード。偶然とはいえしるるさんの一言はナイフの如く突き刺さっていたようです。
これは黒いゆるりーが出るな……(……それは出るね
あとしるるさん曰くシャーされなかったそうなので干渉をやめてもいたんじゃないかな。
(今ふと思ったけど、清花ちゃん霊体なのにどうやって朝ごはん作ってたんだろう……)

そしてどっぐちゃんの設定に何か寂しいものがくっついてしまった。ですがこの設定は割と初期からありました。
初期はそんな寂しい心から生まれたため、一緒になりたいけどつい突っぱねちゃうという設定でした。どっぐちゃんごめんよぅ。

とりあえずどっぐちゃんからあんなこと言われたらゆるりーさんはどうなってしまうんでしょうね?
ゆるりーさん視点で書いてほしいかも、これw
(どうでもいいけど、LOVEの方向性が常駐のどっぐちゃんのせいか雪りんごさんよりも圧倒的に出番が多いんだよねーゆるりーさん……カイトも常駐させるかなぁ、主に雪りんごさんの部屋に←)

因みにどっぐちゃんは目上と判断した者以外基本呼び捨てキャラ。例えみんなが嫌がってもこれだけは絶対に譲れない!!(まさに身勝手

閲覧数:161

投稿日:2013/10/06 22:32:40

文字数:5,870文字

カテゴリ:小説

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    そうなんですよねー
    清花ちゃんの話、かいてはみるものの……今の私には

    いずれかならず書きますが……

    2013/10/09 18:43:08

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