[Verse 1]
向かいの壁の凹凸が
いつもより鮮明に映る
10年前くらいに隣人が
継ぎ接いだガラスの街路灯
足元の石畳も
橙に揺れるのに
彼の家の温度は
未だ冷え切っている
階段を一つ降りる
何かを零していくように
声を一つ飲み込む
芽吹く若草の息の根を
両の手で止めるように
触れ合ったはずの体温が
残した残光で
今日も私は足元を照らす
二つの水晶に映らない
その全てが未来でも
ここに落とされた色彩で
滲んでいく街を歩く
私の足音が消える朝
そこに寂しさ以外の何を
置いていこうか
[Verse 2]
風景画みたいなものだろうか
静まる街の扉たちは
私の干渉を阻んでいる
何度瞼を押し上げても
向こう側にはあの日のような
同じ体温を望めない
から
足先が冷えていくと
暖炉の灯し方を
呟く静かな声
それをなぞってしまう
吐く息は柔く
頬杖をついて
その指の先は
ハリを持って熱く
階段を一つ降りる
響く音を確かめている
声の形を溶かす
言の葉その縁(ふち)を解いて
また一つを取り零す
すれ違うだけの体温が
溶けることを知らず
今日も私の足元を照らす
数多の傷痕(きずあと)が抉りつき
その一つを許す時
ここに落とされた色彩が
滲んでいく街を歩く
私の足音が消える朝
その日優しさ以外の何を
持って去ろうか
[Verse 3]
割れた爪の先
紙束を咥えたポスト
擦れた壁の痕
少しずつ朽ちる表札
瞼を閉じたくなるような
ただまだ木漏れ日は柔らかく
街路灯は光を絶やさず
あなたがそれを残したなら
触れ合ったはずの体温が
残した残光で
今日も私は足元を照らす
二つの水晶に映らない
その全てが未来でも
ここに落とされた色彩で
滲んでいく街を歩く
私の足音が消える朝
ここに形以外の何を
置いていこうか
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