バイトが終わって外に出ると、日が暮れていた。
風が吹いていて、昼間とは比べ物にならないくらい寒くなっていた。
手に息を吹き掛け、暖めようとしたが、全然暖かくならない。

…酸欠になりそうだ…

息を吹き掛けて手を暖めるのは諦め、コートのポケットに手を入れた。

…こうすると、姿勢が悪くなるんだよな…
…ま、誰も気にしないけど。

マフラーに顔を埋める。
鼻が冷たい。
たぶん赤く染まってるんだろう。

…早く帰ろう。

しばらく歩くと、電柱の近くに人影が見えた。

…誰だろうか。

近付くと、啜り泣くような声が聞こえた。
無視しようかと思っていると、その人影が振り向いた。
緑の髪を2つに結んだ少女。
と言っても、俺と同じくらいの年齢。
どこかで見た顔だ。
それなのに、なかなか思い出せない。


…………あぁ、隣のクラスの初音だ、初音ミク。
そう言えば、俺と名前が似てる奴だったな。

………でも、それだけだったっけ?


「……ミ、ミクオ君っ…」

俺の姿を見ると、初音は慌てて目を擦った。

…こういう場合って、ハンカチとか渡した方がいいのか?

ポケットを探ると、ハンカチが出てきた。
でも、これは…、
…俺のお気に入りのやつ。

ちょっと迷ったけど、ポケットから出して、初音に手渡した。


「…あのさ…、目、擦らない方がいいんじゃないか?」

マフラーで声が少し聞こえずらいかと思ったが、大丈夫なようだった。

「……ありがとう…」

初音はそう言って、ハンカチを受け取った。


しばらく経ってから、初音が口を開いた。

「……そういえば、ミクオ君って何でこんな所にいるの?」

「………バイト帰り…」

「そうなんだ…」


………さて、どうしようか、この状況。
初音が泣いていた理由には、取分け興味は無い。
だけど、このまま帰ってしまうのは悪い気がする。
もう辺りは暗くなっているし、……ハンカチは洗って返して欲しいし。

迷っていると、初音が話し始めた。

「あの、私……彼氏に殴られて、逃げて来たんだ…」

「……大変だな…」


こういう時、何を言った方がいいのかわからない。
気の利いた言葉を1つくらい言えばいいのか?
でも、小洒落た言葉でどうにか出来る訳でもないし…

俺が黙って様子を伺っていると、初音と目が合った。


「あ…ご、ごめんね、ミクオ君。関係無い話しちゃって…」


確かに俺には関係無い話だ。
でも、他人の不幸は苦くもないが、甘くもない。
だから、


「俺が側にいるよ。」

「え、」

「初音が悲しい時には、俺に会いに来なよ。」

「ミクオ君…」


安全な距離感で遠巻きに同情するだけなんてしない。
だって初音は………


「俺、思い出したんだ。小学生の頃、親の都合で引っ越しが多くて、なかなか友達が出来なかった俺に、最初に手を差し伸べてくれたのって初音だったよな?」
「覚えてて…くれたんだ…」

「だから、今度は俺が助ける番だ。大したことは出来ないけど、コーヒーくらい奢るし、話だって聞くから。」

「ありがとう…」


小洒落た言葉でどうにか出来るとは思ってない。


だけど、君が悲しい時くらいは―――






fin.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

君が悲しい時には


今回はあわあわP様の「君が悲しい時には」の自己解釈です。

何か中途半端っぽい気が…
これでも頑張ったんですけどね…
次回はもっと頑張ります!

閲覧数:423

投稿日:2012/01/07 23:02:22

文字数:1,349文字

カテゴリ:小説

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