カイト王子と、隣国の姫君の結婚式が今日に迫った。

 人魚姫は何もできず、震えていた。
あの日の自信はどこえやら、とうとう【死】が迫っていたのだ。

 あの人に気持ちを、想いを伝えることができないまま、自分は死んでしまうのだと。
笑えるほどに実感していた。

 時刻は1時を過ぎたころ。

 今日の日が昇れば、人魚姫は泡だ。


 『海を……見に行こう……』


 何とか落ち着こうと、人魚姫は城の中で海の見える展望台のようなところへ足を運んだ。
王子の城は海の近く。
外へ出ると、人間の世界が何ともちっぽけなものに見える、壮大な海が広がっていた。

 波がひとつ、またひとつと押し寄せるたびに、後悔が揺れる。



 『ああ……自分は、なんて馬鹿なことを……』



 涙がこぼれた。




 そんな時だった。




 「…姉様! ルカ姉様!!」


 波の隙間から、懐かしい声が聞こえた。


 月に照らされて美しく輝く金色の髪、蒼い瞳。


 『……リン…………』


 「姉様! 話は聞いてるわ! 細かいことはいいから、これを受けとって!」

 リンはそう言って、ルカに布切れに包まれた何かを投げた。
ルカはそれを戸惑いながらも受け取る。

 布をはがすと、そこには月光に不気味に光る―――ナイフがあった。


 リンの言いたいことが理解できずに、訝しげにリンを見つめる人魚姫。
リンは少し間をおいて、まっすぐに言い放った。




 「それで―――王子を殺しなさい―――」





 『!』




 二人の間に沈黙が続いた。
聞こえるのはさざ波だけ。


 「……そのナイフで王子を殺せば、姉さまは死ななくてすむ。だから、お願い……生きて……」


 『……リン……』



 人魚姫は、リンに踵を返し、城の中へ戻った。


 向かうのは―――王子の寝室。






 『あなたが、他の誰かと結ばれるのら―――いっそこの手で―――』






 指の節が白くなるほどナイフを握りしめて。

 とうとうその手で、王子の寝室のドアを開けた。










 よほど城の者たちを信頼しているのか、鍵は掛けていない。
その寝顔は、今の人魚姫には、憎かった。








 『さようなら――――王子様――――』













 そうして人魚姫は、静かに王子に向かってナイフを振りかざした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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ボカロと愉快なボカロたち。

次ラストです。

閲覧数:174

投稿日:2013/07/07 09:51:51

文字数:1,012文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • つかさ君

    つかさ君

    ご意見・ご感想

    お、王子!!
    ルカさん待ってくださいってー!

    ラスト楽しみですw

    2013/07/07 10:13:46

    • イズミ草

      イズミ草

      シリアス展開は得意だから書いてて楽しいんだけど
      やっぱり辛いよ……(´・ω・`)

      2013/07/07 19:36:15

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