「あら。貴方がお客様ね?」

 ミクはびく、っと身体をふるわせて後ろを振り向いた。

「初めまして。私、ルカと申します」

 にこりと微笑する、ロングスカートの女性は会釈した。うっとりするような美人だ。ミクもこんな大人っぽくて綺麗な人になりたいと羨ましく思ったが、些か自分と彼女では胸の大きさに…――いや。きっと、もっと年を重ねれば大きくなるはずだと希望を胸にしまい込む。
 その側にあの子供達がいる。
 どうやら、ミクは彼女がこの部屋に居ることに気づいていなかったらしい。そうぽーっと思いながら笑っているルカは「顔に何かついてるかしら?」と首を傾いだ。

 しまった! うっとりし過ぎちゃった!

「い、いえ! その、私! ミクと言います! 森で迷っちゃって、その…――」
「そう。可愛らしいお名前ね。どうぞ、かけてくださいな」

 慌てたままお礼を言ってフカフカのソファーに身体を沈める。今まで座ったことのないソファーの座り心地に「おぉ」と声がもれた。

「お客様なんて久し振り。何処から来たの?」
「この近くにある、トンプソンという村です」

 「あぁ、知ってるわ」とルカはぱんっと手を合わせた。

「ワインの美味しい村! 父がここのワインが美味しいからってコッチまでワザワザ引っ越してきたのよ?」
「そうなんですか? ウチの母みたい」
「あら、どんなお母様なの? うふふ。きっとミクのように可愛らしいお母様なのでしょうね」
「そんなことないですよ。私の母は…──」

 ミクは母を話をしながらルカをじっと見ていた。
 顔、性格、出るとこ出ているスーパーウーマンだ。
 羨ましい…──。
 そう思いながら、弾む会話の中で、ミクの視線の先はルカのふくよかな胸に向けていると部屋の外からグミの声がした。他に、男の人と女の人の声が聞こえる。
 扉が開かれると、そこに現れた男の人と女の人にルカが「お父様、お母様」と駆け寄った。
 青い髪の男に、赤いドレスの美しい女性。
 ミクは改めてソファーから立ち上がった。
 グミがお盆を手に持ったまま先にその二人を通し、最後に入って扉を閉めた。
 「お茶を召し上がれ」と立ち上がっているミクの後ろにあるローテーブルに置いた。

 ミクは自分の両親より若い2人をパチクリ見つめた。ぱっとみたら、自分の兄とそんなに変わらないきがしたのだ。

「こんにちは。私、この家の当主をしております、カイトと申します。此方が私の妻、メイコです」

 メイコと紹介された女性がドレスをつまんで会釈する。
 見るからにお金持ちの一家だ。何故自分は知らなかったのだろうと不思議でならない。ワインが好きで来たのなら、自分も知っていそうなものだ。だって、ミクはワインを出荷している仕事を手伝っているのだから。
 そんなことを、ぼーっと考えていたらいつの間にか家の住人達が笑みを浮かべてミクを取り囲んでいた。
 ミクは自分がまた、うっかり考え事をしていることに気付いて、心中で大層慌てた。

「わ、私、ミクと言います! 近くのトンプソンと言う所に住んでいるんですけど…迷ってしまって家に帰れないんです」

 なるほど、とカイトは頷いた。

「こうして会うのも何かの縁でしょう。本日は夜も遅いですし…――」
「ナラ、ぱーてぃ」
「パーティ!」

 主人の言葉を遮り、幼い二人は万歳して跳び跳ねる。ミクの周りをぐるりぐるりと回って、跳び跳ねながら部屋を出ていってしまった。
 夜も遅いのになんて元気なんだろうとその後ろ姿を見つめていると、メイコはすみませんね、と眉尻を下げた。

「あの子達は、カラクリ人形なの」
「人形なんですか!?」

 ビックリしていると外で「ぱーてぃ、ぱーてぃ!」とはしゃいでいる二人の声が耳に飛び込んで来た。今の今まで人間だとばかり思っていたから衝撃的だ。あんなに人間みたいなのに!
 すごいでしょう、とグミが腕にしがみついた。

「私も初めて来たとき、人形だって聞いてビックリしたんだよ? だってあの子達は本当に人間みたいなんですもの!」

 こら、と神威はグミをたしなめる。メイド服の首根っこを掴み、ズルズルと引きずっていく。

「お客様に失礼ですよ。私達は準備です」
「あ。そうだったー」
「いえ。お気になさらずに…」

 泊めてもらうだけで十分なのにそこまではしてもらうのは申し訳ない。しかし、いいえ、と主人はまた優しく笑った。

「久々のお客様ですし、是非歓迎させてくだ…――」
「歓迎シヨウ」「歓迎しよう!」

 いつの間にか戻ってきたカラクリ人形の子供達がミクの腕を引っ張る。

「ぱーてぃ、ぱーてぃ」
「パーティ、パーティ!」

 こら、とこんな夜中でもテンションが高い子供達をメイコが二人を宥める。

「まだ準備は終わってないのよ。それまでは休ませてあげなさい」
「ハァイ」「はぁい」

 二人はぱっと腕を放すと、笑いながらまた「ぱーてぃ、ぱーてぃ!」と部屋を出ていってしまった。
 このあと主人はパーティー用のワインを選びに、婦人は料理の進行状況を確かめに行ってルカと広い居間に二人っきりになった。
 ソファーのそばにある暖炉が、パチパチ燃えている。カチコチと振り子が単調な音を刻んだ。
 それから、あの子達凄いでしょうと笑った。

「リンとレンは、父と母が子に恵まれなくって技師に頼んで作ってもらった双子の人形なの」

 だから何処と無く、顔が似ていたのか。ルカが生まれたのはそれからだと言った。

「あの子達は私にとって、昔は遊んでくれる兄や姉だったのに、今は可愛い弟や妹なの。変な感じね」

 くすりと笑う。

「ルカさんは、お年いくつなんですか?」
「ルカさんなんてよして? ルカで良いわ。私はこの前18になったばかりよ」

 え、と、ついミクはペッタンこの胸を見下ろした。
 いや!
 まだ大きくなるはずだ!
 希望は捨ててはいけないとお兄ちゃんは言っていた!

 プルプル肩を震わせていると、ルカは私ね、と控えめに笑った。

「体が弱くて外に出られないの。だから、貴方のすんでいる村のことを教えてくださらない?」
「え? そんな、大した村じゃないですよ?」

 ヒラヒラと手を振ると、ルカは目を輝かせて「お願い」と懇願した。

 本当にルカは外に出たことがあまりないらしく、ミクの話すことを嬉しそうにきいた。
 時折、質問されてはミクが答えると、夢を膨らませる少女のように沢山、外の話をした。

 夢中で話していると、グミがやって来て頭を下げた。

「準備が出来ました」
「そうなの? 分かったわ」

 ルカはグミにそう言って立ち上がり、ミクはルカに手を引かれて居間を飛び出した。エントランスで「ぱーてぃ、ぱーてぃ!」とはしゃいでいた双子は腕引かれているミクの後を追いかけてやってくる。
 そうしてそのまま追い抜かすと観音開きの大きな扉をそれぞれ片方ずつ担当し、開いた。

 明るい室内に飛び込むと、豪華な食事が並んでいた。七面鳥にケーキ、フルーツが塔のように盛り付けられて、いろんな形のしたパンに、ミクの家では出されたことのないローストビーフまである。

「うわぁ…!」

 眼前に広がる豪華なご馳走にに思わず感嘆の言葉が漏れた。

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Bad∞End∞Night【自己解釈】②~君のBad Endの定義は?~


ひとしずく×やま△

ひとしずく→http://www.nicovideo.jp/mylist/8159174
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やま△
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絵:鈴ノ助
http://www.nicovideo.jp/mylist/14615344
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動画:TSO(とさお)
http://www.nicovideo.jp/mylist/23603649
【ニコニコ動画】

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投稿日:2012/05/13 14:21:02

文字数:2,999文字

カテゴリ:小説

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