ミクとの胃に穴が開きそうなお茶会の後、俺は思い立ってレンに電話をかけた。部活が無しになったから、今日は昇降口で別れてからはレンに会っていない。後になってみると、俺のやったことは色々と不味かったわけだし、一言詫びを入れるのが筋だと思ったからだ。
 コウをけしかけたことを謝ると、レンは「自分も言い過ぎた」と言ってきた。レンの方でも気にしていたらしい。早目に謝っておいて良かった。用事はこれで終わりなんだが、俺は気になったので、レンに巡音さんのことをどう思っているのか訊いてみることにした。だってさ……どう見てもただの友達とは思ってないだろ。
 しばらくあれこれ話をしていると、レンは次第に混乱し始めたようだった。……自分で気がついてないのか、おい。
 俺は「良く考えろ」と言って、電話を切った。とりあえずこれは妨害にはならないだろう。もしレンが自分で考えて「巡音さんとはつきあえない」と判断するとか、あるいは告白してはみたけれど、巡音さんの方が断ったとかなら、もう俺の関与するところじゃないしな。つーか繰り返しになるけど、くっつくんならとっととくっついてくれよ。そうすればもう煩わされることもないし、ミクも上機嫌になってくれるだろうからさ。


 ミクは英会話部に所属していて、何故か部長だったりする。部員数人の弱小部だから、他にやる奴がいないんだろう。もっとも英会話部なんてのは名ばかりで、実際のところはほとんど遊んでいるだけのようだ。……気楽なもんだ。こっちは毎日じゃないけど、走りこみにストレッチに筋トレに発声に……と結構大変なメニューこなしてんのに。演劇っていうのは、実際のところ身体が資本なんだよ。舞台の上を走り回るのってかなり体力がいるし、特に男子はどうしても重いものを運ばされるしな。
 さて、そんなミクは昨日、突然俺の部屋にやってきて、今日の部活は休みにすると宣言しやがった。理由を訊いてみると、巡音さんがレンの手伝いをしたいので部活を休ませてくれ、と言ってきたんだそうだ。ミクはそれを快く了承し、ついでに部活自体を休みにすることにしてしまった。部長だから自分の権限で決めるのだそうだ。部長なら、自分に厳しくないといけないんじゃないのか。
 そんなわけで今日の放課後、俺はミクに喫茶店に引っ張り出されていた。……まーた作戦会議かよ。要するに俺が暇なので作戦会議をすることにし、その為に部活を休みにしちまったらしい。全く勝手な奴め。
 ちなみに、巡音さんはレンと脚本の手直しをしているらしい。レンの奴、脚本の手直しにかこつけて、二人きりになりたいだけなんじゃないのか。……今頃手でも握ってたりして。なんか想像したら腹が立ってきた。いやそりゃ、あの後で刺激するような電話をかけたけどさ……。
「リンちゃんが来ないと部活、暇なのよねえ」
「巡音さん以外にも部員、いるだろ」
 注文したホットのコーヒーを飲みながら――ミクはホットココアだ――俺はそう言ってやった。
「ほとんど幽霊だもの」
 こいつのやってる部活動に意味はあるんだろうか。
「で、今度はどうするんだ?」
「そのことなんだけど、しばらくは静観でいいかなって思ってるのよね」
 じゃあこの作戦会議は何の為にやってるんだよ、おい。つくづくミクの発想はよくわからん。
「だったら作戦もいらないんじゃないのか」
 正直に思ったままを口にすると怒るので、こう言うことにする。放っておけばいずれはカップルになるってのならさ。
「いいからわたしの話を聞いてよ」
 ミクは自分の生徒手帳を取り出すと、カレンダーのページを開いた。
「作戦開始が十月でしょ。この時、リンちゃんと鏡音君はただのクラスメイトだったわ。でも、今じゃすっかり仲良くなったわ」
 んなことは言われなくてもわかってるよ。ついでに言うなら、街もすっかり様変わりしたな。最近では涼しく……というか、寒くなりつつある。あの時はまだ暑いぐらいだったんだけどなあ。
「で、十二月に入ると期末テストがあるでしょ。テストが終わると、冬休みは目前。そして、冬の大イベントがやってくるわけよ」
 季節の移り変わりに思いを馳せている俺を無視して、言葉を続けるミク。冬休みか……。親父とお袋が日本に戻ってくるので、俺はジョンを連れて一緒に実家に帰って、そっちで正月を過ごす。ちなみにミクの方では二年に一度は家族旅行に出かけるのが恒例で、今年は確か出かける方の年だ。俺も一緒にどうかと言われたが、年末ぐらい実家でのんびりしたいので、丁重に断った。
「ちょっとクオ、わたしの話、ちゃんと訊いてる?」
 ミクにむっとした声で言われて、俺は我に返った。……危ない危ない。ミクの逆鱗に触れたら、俺は今度こそ命が無い。
「というわけだから、クリスマスにちょっとしたランチパーティーでもやろうと思うの」
 幸い、ミクは細かく追求するようなことはしなかった。……クリスマスパーティーねえ。それにレンを呼べって言いたいんだな、こいつは。巡音さんの方は、ミクが誘えばやってくるだろうし。
 あれ、ランチパーティー?
「ランチってことは昼間か? こういうのって夜にやるもんじゃ?」
 夜の方がオーソドックスじゃないのか? 真っ暗な外、降りしきる雪――東京ではこの季節には雪は降らねえけど――暖炉には火が燃えていて、その前のソファに二人並んで座って火を眺めながら……。
 ……俺、今、何を考えたんだろう。自分の考えたことに、なんだか全身がむずがゆくなってきたぞ。でも、ミクの好きな映画のワンシーンって、多分こんな感じだよな。
「リンちゃんは門限があるから、夜は無理」
 もはや毎度のことになりつつある台詞を口にするミク。でもさあ……。
「泊まってもらったらどうだ。どうせ冬休みだろ」
「お泊まりは基本的に禁止だし、リンちゃんも承諾しないと思う」
 あ、そうなんだ、ふーん。そういや巡音さんが、泊まりがけで遊びに来たことってなかったっけ。ミクの部屋に泊まって、犯罪に巻き込まれるとは思えないんだがな。
「で、それにレンを誘えと」
「そのとおり!」
 予想どおりの返事が返ってきた。クリスマスという雰囲気が背中を押すことを期待、とでも考えているんだろうなあ、ミクは。けど。
「『ミクん家でクリスマスパーティーやるからお前も来いよ』なんて言って、あいつが来るかねえ」
 かなり強引だと思うぞ。
「多分もう、リンちゃんを呼んだって言えば来るわよ」
 巡音さんは餌かよ。……俺は少しだけ、巡音さんが気の毒になった。多分また、ミクは何も知らせずにおく気だろう。
「鏡音君が渋るようなら、来ない時は人数あわせの為に、他の男の子に声かけてみる気だって言えば、まず間違いなく二つ返事で飛んでくると思うのよね」
 この世に絶対に敵に回してはいけないタイプの人間がいるとすれば、それは今俺の目の前にいる奴だな、うん。にこにこ笑顔でなんつーこと言うんだ、こいつは。
「で、要するに、俺はレンを誘えばいいんだな?」
「ええ。あ、もし鏡音君が悩んでるみたいだったら、その時は相談に乗ってあげてね。で、もし、リンちゃんのことを訊かれたら、褒めちゃダメよ」
 ……は? 相談に乗ってやれって言うのはわかるが――あいつが相談してくるとは思えないが――その後のは何だ?
「褒めちゃダメってどういうことだ?」
「クオがリンちゃんのこと気にしてるって誤解させたくないもの」
 そんなところまでよく気が回るなあ。心配しなくてもあの子に興味はないし、レンもそのことは知ってるよ。ま、そう言われたんなら、褒めるのはやめよう。ちょうどよかった。巡音さんみたいな、ろくに知らない相手のことを褒めるのは苦手なんだ。
 で、作戦とやらはこれで決定か。じゃ、クリスマスまでは暇ってことだ。……いいことだよな?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ロミオとシンデレラ 第四十一話【クオの意見】

 クリスマスですね。
 ですがこの創作の中ではまだ十一月です。すいません、進行が遅くて……。
 ちなみに現在全日本フィギュアスケート選手権開催中ですので、私の頭の中の五割はスケートのことで埋まっています。
 残りの四割は創作が占めています。
 ……駄目じゃん。

 しかしジュニアの子ってのは、一年ぐらいでめざましーく成長するなあと、この時期は毎年しみじみ感じてしまいます。えっ去年はもっと子供子供してたのにって思っちゃうんですよね。

 そしてフジテレビはいい加減、あのうっとうしい実況を追放してくれないものでしょうか。あいつが出てこなくなったら、フィギュアスケートファンの九割は祝杯あげるのは保証します。

閲覧数:745

投稿日:2011/12/24 23:28:25

文字数:3,215文字

カテゴリ:小説

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