悪のストーリ
この物語は、昔々のお話です
あるところに、
悪逆非道の王国と呼ばれる黄色の国がありました。
その国の頂点に君臨していたのは、
十四歳の「リン」という名の王女様。
王女様は人々からは嫌われていましたが、
一人だけ、仲のよい召使がいました
ではまず、召使の視点で見てみましょう。
~第一幕~ 悪の召使
僕らは期待の中で産まれた。
祝福するのは教会の鐘。
けれども、大人たちの勝手な都合で僕らの未来は二つに裂けた。
僕が僕の姉弟に会えたのは十三歳の時だった。
かわいい姉弟は「リン」という王女様。
僕が王女様に会えたのは僕が王女様の召使になったから。
「王女様、僕があなたの召使になるレンと申します。」
僕が言う。王女様は目を見開いたかと思うと
「まさかね。」
と、小さくつぶやいた。
僕らが離れ離れになったのは、ちょうど五歳の時。
だから僕は王女様のことを覚えていた。
王女様は僕のことを覚えているのだろうか?
当時、王女様が好きだったブリオッシュを、おやつの時間に持っていくことにした。
「王女様、今日のおやつはブリオッシュです。」
王女様の前にブリオッシュを出す。
僕が、ブリオッシュを出した理由にはもう一つあった。
僕は小さなころからお菓子や、デザートを作るのが好きだった。
そんな僕が初めて作ったのがブリオッシュで、一番最初に食べてもらったのが王女様だった。
王女様がブリオッシュを口にしてから数分。
「レン。」
「何でしょう。」
「私とずっといなさい。あと、ため口で話してほしいな。」
僕には少し、意味がわからない。王女様は続けて
「私にさ、五歳まで弟がいたの。弟の名が「レン」。あなたと一緒だったの。でも五歳の誕生日に、私はここへ、レンは・・・弟は殺されたって聞いてたの。でもあなた、レンは私と同じ年で、しかも私の弟と同じ名だったから、レンが生きていたのかなって・・・・違うよね?」
こう言うと王女様は僕に笑いかけた。
リンが王女になってから初めての笑顔だったという。
王女様と隣の国へ出かけた時、その街で見かけたあの美しい緑の髪の少女。
僕は、初めて恋に落ちた。
けれども彼女の隣にいるのは海の向こうの王子様だった。
僕らが昔、よく遊んでもらっていたカイトという名の王子様だ。
そして王女様が少し前から好きになってた男でもあった。
城に戻って数日間、王女様はずっと悩んでいた。
何を悩んでいるのかはわからない。
「レン。」
「何でしょう。」
「緑の国を滅ぼしなさい。」
王女様はあの子がうらやましかったのだろう。
僕はあの子が好きだ。
だけど、王女様があの子のことを消せというのなら、僕はそれに答えよう。
緑の国へ行きあの子の家に行く。
ドアをノックするとあの子が出てきた。
「あら?あなたは」
「黄色の国の者です。少しお話があるので来て頂けませんか?」
つらい感情を抑えて笑顔で言う。
「いいですよ。」
彼女は僕についてくる。
僕は彼女を井戸に連れて行く。
何分か経ったころだろう、僕はナイフを握りしめた。
でも、震えて手が動かない。
すると何を思ったのか、彼女は僕の手をやさしく包んで彼女自身の胸へと突き刺した。
「ありがとう。」
これが彼女の最後の言葉だった。
「うぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
僕はいつのまにか叫んでいた。
数日後に城に戻り玉座へ上る。
僕を見た王女様ものすごく驚く。
驚くのもわかる。
僕の服が血まみれだったからだ。
「驚かせてすみません。ご命令どうり、緑の国を滅ぼしてまいりました。すぐにおやつの用意をしますのでお待ちください。」
僕はこう言うと部屋を出た。
部屋を出て緊張が解けたのか涙が少し出てきた。
だが、その涙は、部屋で着替え終わるころには大粒の涙になっていた。
どうして?
自分でもわからなかった。
お菓子を作り、王女様の元へと持っていく。
「今日のおやつはブリオッシュだよ。」
王女様は無邪気に笑う。
けれども、僕にとって幸せな時間が崩れ落ちる出来事が起きた。
外を見るとこの国の国民たちが城にむけてせまって来る。
少し前に「城の者は逃げよ。」と王女様の命令が下された。
兵士と僕以外は逃げたようだ。
だが、兵士などでは、怒りに狂う国民に勝てるわけがない。
もしこれが報いだというのならば僕はそれに逆らおう。
王女様の服を着て王女様の元へ。
「レン!何をしているの!早く逃げなさい!」
「いいえ、逃げません。王女様が逃げてください。ほら、僕の服を貸してあげる。これを着てすぐにお逃げなさい。」
王女様に僕の服を着せて
「大丈夫。僕らは双子だよ。きっと誰にもわからないさ。」
けれども王女様は逃げない。むしろ僕の手をつかんだ。
「王女様・・・・・。あなたはいつもどこかで笑っていてください。世界の全てがあなたの敵になろうとも、僕だけがあなたの味方です。」
「っでも」
僕は王女様の手を振り解き
「この、無礼者!」
と、王女様の声で言いながら王女様を部屋から出してドアを閉めた。
数分後、赤い鎧の女剣士と青の王子が部屋に入ってきた。
青の王子が僕の首へ剣を突き出す。
そのとき、僕の目に映ったのは、ドアの向こうからは入ろうとしている王女様の姿だった。
「この、無礼者!」
王女様の声で言う。
王女様はどこかへと走って行く。
「この、悪魔!」
青の王子が剣を落とす。
王女様のことを悪だというのならば、僕だって同じ血が流れてる。
そんなことは僕は気にしない。
処刑の時間が決まった。
僕らが生まれた時間、午後三時の教会の鐘がなる時間だ。
今、王女と呼ばれている僕は一人牢屋の中で、思い出をふりかえる。
「・・・リン、・・・・・ごめんな・・・・・・。」
ついにその時はやってきて、終わりを告げる鐘の音。
僕のかわいい姉弟は民衆の中に混じって僕を見ていた。
もしも生まれ変われるならば、また双子がいいね。
もしも生まれ変われるならば、また遊んでね。
「あら、おやつの時間だわ。」
王女様の声で、
王女様の口癖を言う。
これが僕の最後の言葉だった。
みなさん、どうだったでしょうか?
次は、緑の髪の少女
緑の娘の視点で見てみましょう。
緑の国のある一族では、
生まれもって未来が見えるという能力がある子供が生まれました。
その一族に、きれいな緑の髪の「ミク」という娘が産まれました。
けれども、ミクは成長に合わせて笑顔がなくなってゆき、
とうとう十六歳の時になった今では、
心から笑うことなどなくなってしまいました。
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