町を駆け抜ける少年たちの足音と大きな声。
その後ろを、赤髪のツインテールを大きく揺らしながら必死でついて行った。

「待つッス!! 私を置いてくなッス!!!」

幼い頃から、この口癖と性格はすでに出来上がっていたようなものだ。同い年の女の子が花を手に取り花冠を作る一方で、私は木の枝を手に取り男の子と戦士ごっこをする。男勝りな性格と個性的な口癖、そんな私を彼女たちは『変な子』の一言で片付け近づくことすらしなかった。
『私の事を分かってくれない』
これがトラウマとなり、その日以降同性と関わるのを拒むようになった。


アレンと出会ったのは17歳の頃。
どうやら彼の間で“何か”があったらしく、その表情は無に等しかった。それでも何度か接するうちにアレンは私に対して心を開くようになり、会う度に段々と口数が増えていった。
今日も同じように会話が弾んでいたが、その途中で誰かが彼を呼ぶ声がした。
「アレン、ここにいたのね。父さんがご飯出来たって。」
「・・・うん。」
アレンよりも年上らしきショートヘアーの女性。
その人を見る彼の目は、少しばかり暗い色に見える。
「あ、初めまして。私、アレンの義姉のジェルメイヌ。」
「・・・シャルテットッス。」
彼女につられて私も挨拶をする。だが、この人は女性だ。昔の嫌な記憶が蘇り、初めて会ったにもかかわらず苦手意識を感じてしまう。
「あの、もしよかったら今度私も一緒に遊んでいいかな?女の子の友達あんまりいなくて。」
唐突な彼女の提案に一瞬戸惑った。本音を言えば嫌だったが、『アレンのお姉さん』というのもあり、渋々だが了承した。
どうせこの人も私の性格を知ったら近づかなくなる、そう勝手に決めつけていた。


それからは彼女とも時々遊ぶようになった。
よく食事や買い物にも連れてってくれたが、それでも心を開くことが出来ない。『嫌い』なのではない、『怖い』のだ。
(普通の女の子ってどうやって話すんだっけ・・・)
私にはそれすら分からない。
私のその思いは明らかに態度に出ていた。彼女もきっと気づいてるかもしれない。それでも、彼女は何故か私から遠ざかろうとはしなかった。

そんな関係が1年近く続いた時、ある事件が起こった。
森の中に遊びに行き、私は帰る途中に盗賊団に捕えられてしまった。だがここで死ぬわけにはいかない、必死に説得したおかげで男たちは奇跡的に改心してくれた。
これで助かるとホッとした瞬間だった。突然扉が勢いよく開き、そこから二人の少年少女が剣を構えてこちらを見ていた。
「その子を離しなさい!!!」
少女の一喝が室内に響く。

その細腕で剣を握り、男たちに立ち向かおうとする彼女の姿は、とても勇ましくかっこよかった。

男たちから解放され、私は彼女に手を引っ張られながらその場所を後にする。
森を出てからは、私たち3人は無事に帰って来れたことに安堵した。
「あの・・・ありがとうッス・・・助けてくれて。」
「ううん、シャルテットが無事でよかった。」
「でも・・・どうして二人とも、私なんか。」
「当たり前でしょ!!大事な友達をほっとくわけないじゃない!!ね、アレン?」
「うん、無事でよかった。」
アレンと彼女・・・ジェルメイヌは危険を承知の上で私を助けに来てくれたのだ。二人の言葉を聞いて、私の目から涙が零れた。
そしてそれと同時に、私のジェルメイヌに対する恐怖心は憧れへと変わっていった。

それからはあの時の後ろめたさが嘘のように彼女と接するようになった。
「アネさん!!次あっちのお店行くッス!!!」
「はいはい、ほらアレンも早く。」
「待って・・・荷物重い。」
私はあの日から6つも年下の彼女を『アネさん』と呼んでいる。助けてくれた感謝と今までの罪悪感、そして何より初めて女の子の友達が出来たという嬉しさから彼女を慕うようになった。

あの時アネさんは私を助けてくれた。だから今度は私がアネさんを守ってみせる。そう心に誓ったのだ。





「・・・・懐かしいッス。」
過去の出来事が頭の中を駆け巡っている。
しわが増えた手に握られるのは布で包まれた一つの鋏。
あの日、守ると誓った彼女はどこかへと連れ去られてしまった。明日、ついに決戦が行われるのだ。
昔みたいに大剣を振り回す腕力なんてない、死ぬ覚悟だって出来ている。
それでも、あの正義感溢れる彼女をもう一度取り戻したかった。
「アネさん、やっと会えるッスね。」
数十年ぶりに会う彼女はどんな姿なのか。
好奇心と覚悟を同時に背負い、私は静かに眠りについた。

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アネさんと慕う理由

シャルテットのアネさん呼びの理由を少しだけ考えてみました。
一部悪ノ間奏曲や悪ノ叙事詩を参考にしてます。

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投稿日:2018/09/27 11:09:56

文字数:1,886文字

カテゴリ:小説

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