とある星がある。かつてそこには異様なまでに発展した科学技術によって繁栄した文明があった。
乗り物、通信機、計算機、その他日用に必要な道具など色々なものの機械化・電波化が進んだ結果、
いつしかその文明において人の心は置き去りにされ、最後には星全土を巻き込んだ大戦争が起こる。
そこで核、生物、化学、持てる限りのありとあらゆる兵器が投入された結果、大地はあっという間に不毛と化して文明は滅んだ。
もっとも、人類が全て滅んだかはわからない。人というのは意外としぶといものだから。
それでもかつて町があったと思われる場所の大半には人が住んでいないのは間違いないだろう。

さて、文明がまだ栄えていた頃、人々はとあるものを作り出した。音を聞かせ、歌詞を覚えさせると美しく歌う人造人間、それはボーカルとアンドロイドを合わせてボーカロイドと名付けられた。
歌手と呼ばれる人々が多く存在していたにも関わらず何故そんなものが作られたのか。
もともとはとある国が軍事用の精巧なスパイロボットの開発に取り組んでおり、ボーカロイドはその延長で生み出されたという。ボーカロイドは得てして愛らしくまたは美しく作られていたから、彼らをアイドルや象徴のように祭り上げた上にその人をひきつけてやまない歌声を聞かせることによって大衆を操ろうという政治的な目的もあったかもしれない。
あるいは既に荒んだ世の中に疲れ果て、生身の人間と関わるのが嫌になった一部の人間達がどさくさに紛れて自分達の理想を形にしてしまったという事情もあったのか。既に真実は大戦争と共に埋もれてよくわからない訳だが、そんなことはこれから語られる物語には半分関係ないと思われる。

かつて高層ビルだったと思われる廃墟の壊れた窓から入ってくる光で初音ミクは目を覚ました。いつの間にかスリープモードに入ってしまっていたらしい。
明るい光に照らされながらうーんと人間くさい動作でのびをして立ち上がり、壊れた窓から外を眺める。外は天候以外に変化はない。今日もこの死んだ都市にいるのはミク1人だけだった。

初音ミク、人類がいた頃に絶大な人気を誇ったボーカロイドの1人。外見は16歳くらいの少女、かかとまである豊かな緑色の髪をツインテールにしている。その愛らしい声は癒し系と評され、外見も相まって初めて人前に出た時から相当なファンがついた。その数たるや下手な人間の歌手を凌いでいたくらいである。当然、人間の歌手達からは作りものの癖にとひどく妬まれたり嫌ごとを直接言われたりしたが、
当のミク本人が誰かが自分の歌を聞いて幸せになってくれればよいというタチだったし、当時ボーカロイドには移動の際どっかの政府の要人かと思うくらいの過剰な警護がついていたのでソフトウェアにもハードウェアにも大した被害はなかった。むしろ人間達がいなくなった今の方が被害が大きいかもしれない。何故なら今ミクのいる場所にはミクの歌を聞いて幸せになってくれそうな相手がまったくいないのだ。
かつてはたくさんの人々であふれていた都市はボロボロになったビルが森の木みたいに並んでいるだけ、生き物と言えば運良くあの戦争を生き延びた鳥や虫くらいだ。二足歩行をして言葉―理想を言えばミクが話せるのと同じ言語―を話せる存在はいない。そう、ミクは寂しかったのだ。

スリープモードから復帰したミクはねぐらにしていた廃墟から外に出た。今日はよく晴れている。上を見上げればとても戦争があったとは思えない青い空をバックにいまだ折れて落ちてこないのが不思議なくらいのバランスを保ったビルの残骸が目に入る。くっきりとした空とビルの影がこれでもかというくらい無機質だ。
儚い期待を抱いてミクは戦争を経て奇跡的に残ったメモリーから一曲呼び出し、吹いてきた風に乗せて歌ってみる。高くて透き通るようなその歌声は死んだ都市の崩れた建物に反射して辺りに響き渡り、神秘的なものを感じさせる。誰かがここにいたらその天使のごとき歌声にさぞかし感動しただろう。ミクはそのまま歌い続け、4分30秒後に歌唱モードを終了した。少し待ってみる。一秒、二秒、三秒、何も起こらない。小さな拍手の一つも沸かず、辺りは静まり返ったままだ。儚い期待は今日も崩れ去る。ミクはため息をついた。

戦争が始まった頃、ミク達ボーカロイドは強制的にカプセルに入れられて眠りにつかされた。
もともとは機密保持の為に政府から廃棄命令が下っていたが、彼らの開発に携わったスタッフ達が思い入れの深さから廃棄するのは忍びない、と廃棄したふりをして隠すことにしたのである。戦争というボーカロイドにとっては意味不明の事態に対する困惑、自分を入れたカプセルを閉める直前のスタッフの泣きそうな顔はミクのメモリーにいまだ残っている。その時ミクをカプセルに入れたスタッフはこう言っていた。

「あなたは生きるのよ。」

どういう意味か聞く時間はなかった。そのままカプセルの蓋は閉められ、ミクを含むボーカロイド達は地上で想像を絶する地獄の業火が舞い上がっている間、歌うことなく厚く守られたカプセルの中でいつ醒めるのかわからない眠りについたのである。

そうしてミクが再び起動したのは戦争が終わってからどれくらい経ったのやらわからないくらい後だった。
戦争の影響か、地下深くに沈められていたはずのカプセルが地上にせり出し、強烈な太陽光に顔を照らされてミクの温度感知機能が反応、目が醒めた。カプセルは外からは簡単に開けられなかったが中にいるボーカロイドが自力で開けて出られるようにはなっていたから好奇心が強い性格設定にされていたミクは即外に出ることを選んだ。
そしてミクは知る。眠っている間に自分の知る限りの全てが変わってしまったことに。
知ってた都市はなくなっていた。それどころか、まるで異世界に迷い込んだかのような荒れ果てた土地が続くのみ。自分は寝てる間にテレポートでもしたのかしらと本気で思った。少し歩いてみると大きなクレーターがあった。一体何だろうと覗いたが、底が深くてよく見えないし、降りるのは危なそうだ。そしてその時足元に落ちていた物体でミクは自分が場所を移ったのではないことを悟る。足元に落ちていたのは熱で歪んだ白い物体、それはあの時自分をカプセルに入れたスタッフの名札のなれの果てだった。

自分のいた場所がごっそり消えた衝撃はボーカロイドに初めての絶望を与えた。ミクはその後フラフラとしばらくあてもなく歩き、たまたまたどり着いた廃墟の都市に住み着いて時を過ごした。絶望していたとはいえ、始めは外を歩くだけでも怖かった。昼はじりじりと熱い光に照らされ、砂を巻き込んだ強烈な風に煽られ、ボディが溶けるか削られるかしてなくなりそうな思いをした。
夜になればいくら機械仕掛けの目といえども視界が制限される中、何が潜んでいるかわからない恐怖と戦わなければならなかった。
やっと都市にたどり着けばやはり人は誰もおらず、自分の見たことのある何もかもが機能していない。
とりあえず雨しのぎに廃ビルに入り込んで幾夜もどこの何ともわからぬ獣の遠吠えに怯えた。
全ては人間達に手厚く守られ、何もかもの便宜を図ってもらっていた身には初めてのことばかり。
誰かいればまだその恐怖はずっとマシだったろうが現実はそうじゃなかった。

そういった訳で今日もミクは孤独のまま過ごす。もう何日たったろうか。眠っていた影響で体内時計は正確な日時を刻んでくれなくなったがそれでも参照すればカプセルの中で起動してから何日経ったとか、今は何時くらいかは確認できる。が、それも億劫だった。もはや時間の計算などは意味がないのだ。
もう一度ため息をつく。絶望が多少薄れてきてある程度状況に適応したミクだが今度はこの代わり映えのしない状況にいい加減うんざりしてきていた。人間がいないならせめて他のボーカロイドが居れば。
ここでミクは、あ、と思う。
そうだ、考えてみれば自分の他に作られたボーカロイド達はどうしたのだろう。ミクが目覚めた時、確か一緒に眠ってたはずの同族達のカプセルは見当たらなかった。戦争でカプセルごと消えた可能性もあるが、案外自分のようにどこかで起動して活動しているかもしれない。
絶望していたせいでその可能性をすっかり失念していた、それを思い出したなら話は早い。
ミクは即決した。この廃墟にサヨナラして、仲間を探そうと。

こうして初音ミクは死んだ都市を後にしてまたあてもなくさまようこととなった。人間のように食料はいらない機械の体だから当然彼女は手ぶらでウロウロしていた訳だが唯一大切なことを忘れていた。
そのせいで彼女は歩いてる途中でいきなり強制停止状態になる―人間で言えば気絶する―羽目になるのだが、それが妙な幸運に繋がることとなる。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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終わりなき旅

初音ミク達ボーカロイドを人造人間に見立てて作った近未来系(多分)小説です。戦争ですっかり荒れ果てた大地を仲間を探してあてもなく旅をするミク達の物語です。ひょっとしたらUTAU音源のキャラも今後出てくるかも。続きものです。

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閲覧数:261

投稿日:2011/09/25 20:38:42

文字数:3,616文字

カテゴリ:小説

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