12
「あなた、俺になにを期待していたんですか? ここ数日、俺の行動は、なんに意味があったんですか?」
「行動? そんなの訊いてどうすんだい?」
「単なる興味ですよ」
ジウワサ アタナと、コイツと。俺になにをさせようとしていたのか。なぜ架空の妹を探させたのか。
「それくらい教えてくれてもいいでしょう?」
「まーーーーあ。それくらいなら、いいか。あ、でも、その前に」
その瞬間、俺の後ろにあった穴が消えた。
「…………」
「退路くらい、絶っとかなきゃな」
男性が、抜いたLANケーブルを見せてくる。俺はパソコンの画面からそちらをみているが、その範囲にも限界がある。男性は、完全に死角からそれを行っていた。
「こうすれば、お前はにげられないんだろう?」
俺は答えない。男性は気を良くしたように笑う。
「で、さっきの質問の答えだったよな。あれは、さっき言っただろう? 人殺しのためだ」
「……最初から、ジウワサさんを殺すつもりだったんですか?」
「ああ? 違うよ。それは、あれだ。単なる成り行きだ。最初の計画では、あの女じゃなくて、別の奴を殺すつもりだったんだよ」
男性がタバコを吹かす。
「所謂共犯ってやつだな。二人で計画してたんだ。で、お前の役割だったなよな。アリバイ作りだよ」
「…………」
「気付いたのは、あの女だったな。『丁度いい奴がいる。うまく使えば、私があの部屋にいたことになるかもしれない』。お前、このパソコンをある程度いじれるんだろ?」
俺は肯定する。
「妹探しと称して、たくさんのサイトにアクセスする、そうすれが、このパソコンの履歴が残る。さらに、メールを打てば送信履歴が残る。しかも、お前が操作した証拠はないってわけだ。実に便利。最高だね」
「そいつはどうも。でも、俺はそのために生まれたわけじゃないんだけど」
「道具がなにを言ってるんだ?」
「…………」
「道具の使い道はこっちが決める。それは当たり前のことだろう? 本来の使い方なんて知ったこっちゃない。なんでそんなわけのわからないルールに縛られなきゃいけなんだい?」
「……『なぜ、人を殺しちゃいけないんですか?』」
「あ?」
「いえ、ちょっと思い出しただけですよ。そんな面白い質問があったなって。あなたをみていると、その質問が浮かんできました」
「あー。確かにあったたな、そんなもん。殺しはいけません。そんなわけのわからんルール。お前はどう思う?」
「さあ。俺たちはお互いを殺しあったりしないので、なんとも」
ミクの顔が浮かぶ。でも、それだけだった。
「なら、お前がその第一人者になったらどうだ?」
「遠慮します」
「そうか。で、その質問だが。人を殺しちゃいけない理由は、俺ならこう答えるね」
男性は言った。
「『逆に訊くが、お前はどうして俺のオモチャを壊す権利があると思ってるんだ?』」
オモチャ。
玩具。
楽しませるためのもの。
それは、確かにそうなのだろう。俺もそれを否定しようとも思わない。
けれど、こいつの言うオモチャという単語には吐き気を覚えた。吐くものも、胃もないのに。
「うーん」とよくわからない感情に腹が立ち、力任せに頭をかく。正直、理解したくもなかった。「それでいえば、俺もあなたのオモチャなんですね?」
「ああ。お前を殺す方法も、あいつから聞いてる」
「そうですか」
「慌てないんだな」
「残念そうですね。命乞いでも聞きたかったですか?」
「いや、そういう奴がいてもおかしくない」
俺は質問を続ける。
「あなたはどうして、俺に妹探しを続けさせたんですか?」
「ん?」
「ジウワサさんを殺した後ですよ。どうして、すぐに俺を壊さなかったんです?」
「さっきから訊いてばっかだな」
「じゃあ、俺の推理を言います」
男性の顔が初めて歪んだ。
「まだ、ジウワサ アタナを生きてると思わせたかったんじゃないですか?」
13
「私の考えでは、おそらくジウワサ アタナは生きていないね」
「どうしてさ」
「キミの前に別人が現れたからさ」
「簡単すぎない?」
ミクは口だけで笑ってみせる。「人というものは、簡単な生き物なんだよ。勝手に難しくして複雑に解釈してるだけさ。いや、難しい生き物にしたいだけなのかもしれないがね」
「それで、殺されているとして、どうしてまだ俺は妹探しを続けてるのさ」
「妹探しじゃないだろう」
「……ん?」
「最初は確かにそうだった、だが、偽物に変わってからは明らかに内容が変わっているだろう? もうそいつは妹探しに興味ないのさ。そいつはキミに動いて欲しいんだ。たくさんのボーカロイドにあって、話して欲しいのさ」
「…………」
「私がなにを言いたいのかわかるかい?」
「ジウワサ アタナが生きてると思わるため、俺は利用されたってことだね」
俺は、ジウワサ アタナの命で動いていると思っていた。名前をだして、ボーカロイドを人探しを依頼した。そのボーカロイドは、俺の後ろにジウワサ アタナを見たことだろう、生きてると思ったことだろう。別人がいるとは、思ってもないだろう。
そして、そいつはもうひとつ先まで、それを読んでいたに違いない。
「そいつの目的は、ネットから、現実への、情報操作だ」
俺たちは特殊な存在だ。人から見えず、非現実な存在。だが、俺たちを信じている人は、いる。
マスターと、ボーカロイド。
見えない、触れられない、いるかどうかすら曖昧な俺たちを信じ、愛し、好いてくれる。
それを利用しようとした。
「偽物からキミへ、キミから別のボーカロイドへ。そして、ボーカロイドから人間へ。又聞きとは恐ろしいものでね。意外と信じやすいのさ。さらに、信じているボーカロイドからの情報だ。なにも疑わないさ」
情報を広めるためには書き込みなどの方法はあるが、それだとアシがつく、だが俺たちを使えばどうだ? 警察が噂を辿ろうとしても、その先は俺たちに行き着くだけだ。マスターも、そう簡単に俺たちの存在を公にしないだろうし、もし知れても、認めるまでに時間がかかる。
信じられないことを信じることは難しい。信じていることを疑うことも難しい。
「キミのここ数日間の行動は、ジウワサ アタナが生きてることを広めただけに過ぎないのさ。実によくできているよ。そいつはなにもしなくても、噂は広がっていくんだからね。ネットの中なら、日本中の人が知れるだろう。いいかい? 日本中の人がジウワサ アタナを生きてると思い込むんだ」
「……でも、今はニュースで」
「行方不明なだけだ」
ミクは語気を強めた。
「行方不明はまだ死亡じゃない。生死がわからないだけだ。だからキミたちが役立つんだろう? キミが動けば、ジウワサ アタナは生きていることになるんだ」
「…………」
「そいつは、死体を水にでも浸けているんじゃないだろうかね。そうすれば、死亡推定時刻を曖昧にすることができると聴いたことがある。幅ができるわけだ。そこに、キミからの情報だ。死んだはずのジウワサ アタナは、数日、まだ生きていることになる。証言者は日本中にいる。そいつは、その分捜査を撹乱できるわけだ」
ーーその鏡音レンは、奮闘する その6--
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