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「あなた、俺になにを期待していたんですか? ここ数日、俺の行動は、なんに意味があったんですか?」

「行動? そんなの訊いてどうすんだい?」

「単なる興味ですよ」

 ジウワサ アタナと、コイツと。俺になにをさせようとしていたのか。なぜ架空の妹を探させたのか。

「それくらい教えてくれてもいいでしょう?」

「まーーーーあ。それくらいなら、いいか。あ、でも、その前に」

 その瞬間、俺の後ろにあった穴が消えた。

「…………」

「退路くらい、絶っとかなきゃな」

 男性が、抜いたLANケーブルを見せてくる。俺はパソコンの画面からそちらをみているが、その範囲にも限界がある。男性は、完全に死角からそれを行っていた。

「こうすれば、お前はにげられないんだろう?」

 俺は答えない。男性は気を良くしたように笑う。

「で、さっきの質問の答えだったよな。あれは、さっき言っただろう? 人殺しのためだ」

「……最初から、ジウワサさんを殺すつもりだったんですか?」

「ああ? 違うよ。それは、あれだ。単なる成り行きだ。最初の計画では、あの女じゃなくて、別の奴を殺すつもりだったんだよ」

 男性がタバコを吹かす。

「所謂共犯ってやつだな。二人で計画してたんだ。で、お前の役割だったなよな。アリバイ作りだよ」

「…………」

「気付いたのは、あの女だったな。『丁度いい奴がいる。うまく使えば、私があの部屋にいたことになるかもしれない』。お前、このパソコンをある程度いじれるんだろ?」

 俺は肯定する。

「妹探しと称して、たくさんのサイトにアクセスする、そうすれが、このパソコンの履歴が残る。さらに、メールを打てば送信履歴が残る。しかも、お前が操作した証拠はないってわけだ。実に便利。最高だね」

「そいつはどうも。でも、俺はそのために生まれたわけじゃないんだけど」

「道具がなにを言ってるんだ?」

「…………」

「道具の使い道はこっちが決める。それは当たり前のことだろう? 本来の使い方なんて知ったこっちゃない。なんでそんなわけのわからないルールに縛られなきゃいけなんだい?」

「……『なぜ、人を殺しちゃいけないんですか?』」

「あ?」

「いえ、ちょっと思い出しただけですよ。そんな面白い質問があったなって。あなたをみていると、その質問が浮かんできました」

「あー。確かにあったたな、そんなもん。殺しはいけません。そんなわけのわからんルール。お前はどう思う?」

「さあ。俺たちはお互いを殺しあったりしないので、なんとも」

 ミクの顔が浮かぶ。でも、それだけだった。

「なら、お前がその第一人者になったらどうだ?」

「遠慮します」

「そうか。で、その質問だが。人を殺しちゃいけない理由は、俺ならこう答えるね」

 男性は言った。

「『逆に訊くが、お前はどうして俺のオモチャを壊す権利があると思ってるんだ?』」

 オモチャ。

 玩具。

 楽しませるためのもの。

それは、確かにそうなのだろう。俺もそれを否定しようとも思わない。

けれど、こいつの言うオモチャという単語には吐き気を覚えた。吐くものも、胃もないのに。

「うーん」とよくわからない感情に腹が立ち、力任せに頭をかく。正直、理解したくもなかった。「それでいえば、俺もあなたのオモチャなんですね?」

「ああ。お前を殺す方法も、あいつから聞いてる」

「そうですか」

「慌てないんだな」

「残念そうですね。命乞いでも聞きたかったですか?」

「いや、そういう奴がいてもおかしくない」

 俺は質問を続ける。

「あなたはどうして、俺に妹探しを続けさせたんですか?」

「ん?」

「ジウワサさんを殺した後ですよ。どうして、すぐに俺を壊さなかったんです?」

「さっきから訊いてばっかだな」

「じゃあ、俺の推理を言います」

 男性の顔が初めて歪んだ。

「まだ、ジウワサ アタナを生きてると思わせたかったんじゃないですか?」



13


「私の考えでは、おそらくジウワサ アタナは生きていないね」

「どうしてさ」

「キミの前に別人が現れたからさ」

「簡単すぎない?」

ミクは口だけで笑ってみせる。「人というものは、簡単な生き物なんだよ。勝手に難しくして複雑に解釈してるだけさ。いや、難しい生き物にしたいだけなのかもしれないがね」

「それで、殺されているとして、どうしてまだ俺は妹探しを続けてるのさ」

「妹探しじゃないだろう」

「……ん?」

「最初は確かにそうだった、だが、偽物に変わってからは明らかに内容が変わっているだろう? もうそいつは妹探しに興味ないのさ。そいつはキミに動いて欲しいんだ。たくさんのボーカロイドにあって、話して欲しいのさ」

「…………」

「私がなにを言いたいのかわかるかい?」

「ジウワサ アタナが生きてると思わるため、俺は利用されたってことだね」

俺は、ジウワサ アタナの命で動いていると思っていた。名前をだして、ボーカロイドを人探しを依頼した。そのボーカロイドは、俺の後ろにジウワサ アタナを見たことだろう、生きてると思ったことだろう。別人がいるとは、思ってもないだろう。

そして、そいつはもうひとつ先まで、それを読んでいたに違いない。

「そいつの目的は、ネットから、現実への、情報操作だ」

俺たちは特殊な存在だ。人から見えず、非現実な存在。だが、俺たちを信じている人は、いる。

マスターと、ボーカロイド。

見えない、触れられない、いるかどうかすら曖昧な俺たちを信じ、愛し、好いてくれる。

それを利用しようとした。

「偽物からキミへ、キミから別のボーカロイドへ。そして、ボーカロイドから人間へ。又聞きとは恐ろしいものでね。意外と信じやすいのさ。さらに、信じているボーカロイドからの情報だ。なにも疑わないさ」

情報を広めるためには書き込みなどの方法はあるが、それだとアシがつく、だが俺たちを使えばどうだ? 警察が噂を辿ろうとしても、その先は俺たちに行き着くだけだ。マスターも、そう簡単に俺たちの存在を公にしないだろうし、もし知れても、認めるまでに時間がかかる。

信じられないことを信じることは難しい。信じていることを疑うことも難しい。

「キミのここ数日間の行動は、ジウワサ アタナが生きてることを広めただけに過ぎないのさ。実によくできているよ。そいつはなにもしなくても、噂は広がっていくんだからね。ネットの中なら、日本中の人が知れるだろう。いいかい? 日本中の人がジウワサ アタナを生きてると思い込むんだ」

「……でも、今はニュースで」

「行方不明なだけだ」

ミクは語気を強めた。

「行方不明はまだ死亡じゃない。生死がわからないだけだ。だからキミたちが役立つんだろう? キミが動けば、ジウワサ アタナは生きていることになるんだ」

「…………」

「そいつは、死体を水にでも浸けているんじゃないだろうかね。そうすれば、死亡推定時刻を曖昧にすることができると聴いたことがある。幅ができるわけだ。そこに、キミからの情報だ。死んだはずのジウワサ アタナは、数日、まだ生きていることになる。証言者は日本中にいる。そいつは、その分捜査を撹乱できるわけだ」


ーーその鏡音レンは、奮闘する その6--

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

その鏡音レンは、奮闘する その6

掌編小説。
『その鏡音レンは、奮闘する その7』に続きます。

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投稿日:2016/09/14 22:52:06

文字数:3,052文字

カテゴリ:小説

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