シーカーに頼まれたのは、今日の夕食の買い物だ。
「んー・・・」
メモを睨みつけながら、僕はリストの1番上にあったパンを買うべくパン屋のドアを潜った。
シーカーは買う物の横にどの店に行けばいいのかを書いていたから、僕は迷う心配だけはいらなかった。何がいるのか読めない時は、店の人にメモを読んでもらう。
ただ、店の人達の反応は奇妙だったけど。
「あ、あの・・・『捜し屋』さんのお使い・・・?」
最後にシーカー愛飲の紅茶(僕にはあの渋い液体のどこがいいのかわからない)を買った時も、売り子の人に軽く引かれていた。シーカーが買い物をした時も妙に避けられていたが・・・一体何をしたら、代わりに買い物に来た僕までこんな反応をいただくんだろう。
本人に聞いても、絶対に教えてくれないだろうな。
買い物を終えた僕は、重い上にかさばって視界を塞ぐ荷物に苦戦しながら歩いていた。
これはぶつかるかもな、と危機感を抱いた直後、案の定誰かにぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「そちらこそ大丈夫かな?」
こうしてぶつかって妙な因縁をつけられる事は多い。
箱の中からも、よくそうして殴られる人を見ていた。
僕が殴られないかと恐る恐る顔を上げると、穏和そうなおじいさんがにこにこと笑っていた。
「少年、そんなに荷物を抱えて重かろう。休憩がてら、この老いぼれと話をしてくれないかい?」
「少年、君は恋をした事はあるかい?」
「ぇ・・・ないですが・・・」
冬だからか水が凍っている噴水の縁に腰掛けて、僕とそのおじいさんは話をしていた。
シーカーに買い物を頼まれていた事は気にしない。
堂々と僕の後ろをついて来ていた黒服黒マントの男に気づかないほど、僕は馬鹿ではないからだ。
「ふぉっふぉっふぉっ! 少年、いずれ君にも分かるじゃろうて。ここは一つ、ワシの昔話を聞いて愛しのお嬢さんが現れた時の参考にしてもらおうかの」
「聞きたいです!」
胡散臭いシーカーの話よりは、百倍益になるだろう。
「今から50年は昔の話になるかのぅ・・・これが、ワシが心底惚れておったお嬢さんじゃよ」
おじいさんがそう言って出したのは、色褪せてセピア色になった写真。
そこには、一人の女の子が映っていた。
色が分かりにくくなっていても、僕には彼女がどんな色だったのか、なんとなく分かっていた。
髪は金髪のはずだ。瞳は蒼いはずだ。
「シーカーに、そっくり・・・」
―――その少女は、驚くほどシーカーによく似ていたのだから。
「少年はあの『捜し屋』を知っているのかい?」
「はい、僕を置いてくれています」
おじいさんは驚きながらも、他の人達のように避ける事なく、むしろ楽しそうに笑った。
「少年は『捜し屋』のお弟子さんか!」
「弟子って言っても、精々二週間前からのですがね・・・それより、僕はその女の子の話が聞きたいです」
僕がそう言うと、おじいさんはまた笑った。
そして、おじいさんは僕にほろ苦い思い出を話してくれた。
【白黒P】捜し屋と僕の三週間・12
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