「おや、これはこれは。まさか貴方が勝っちゃうとわねぇ・・・・・・。」
ミクオが鋼鉄の怪物の上から笑いかける。
「ミクオ、貴様、何が目的なんだ!!正気か?!」
「フッ・・・・・・ククククク・・・・・・ハハハ・・・・・・!!!」
俺がボルトガンの銃口を向けると、ミクオはミサイルサイロ全体に響き渡る声で笑い出した。
「アーッハハハァァアッ!!!」
「何がおかしい!!」
ミクオのイカレた行動にはいい加減我慢の限界だ。
「いやー面白い見世物でしたよ。まさか弾をくれてやっただけでシクちゃんに勝っちゃったんだぁ。結構強いと思っていたのに。まぁいいや、良かったですねぇタイトさん。一緒に死んでくれる、殉死者が一人増えて。」
何・・・・・?
まさか!!
「タイトさん。その出来損ないと一緒に死んでください。」
「なんだと!これはお前の部下じゃなかったのか!」
「部下ぁ?ロクに装備も持っていない貴方に、フル装備でも負けたようなザコ何ぞその時点で部下でもなんでもないカスですよ。」
そのとき、傍に倒れていた苦音シクの体が、僅かに揺れ動いた。
「ただ負けただけで、部下を見捨てるのか!!」
「あーそうですよ!僕にはそんなヤツより、感情とか感覚とか余分なものは一切持っていない、完璧な部下たちが山ほどいるんだから!!」
「黙れ!!」
腐ってやがる・・・・・・!!!
一瞬、俺の指先が激情に操られ、引き金を引いた。
ミクオめがけて電流が一閃するが、ミクオが一瞬ぶれ、電流がヤツの体をすり抜けていった。
『ミクオ。いつまでもお喋りをしている時間はない。最後の仕上げがあるんだろう?それなら早く実行したまえ。いい加減こんな下らん君の趣味に私をつき合わせるな。』
突然、怪物から拡声器越しの声が響き渡った。
コックピットにもう一人いるらしい。
しかしこの声は、女か?
「アーはいはい。分かったっての。」
ミクオはコックピットに手を伸ばし、白く光る何かを掴み上げた。
グリップ状の・・・・・・スイッチか?
「タイトさん。この施設全域に、プラスチック爆弾のセムテックスをたーんまり仕掛けました。このスイッチを押せば、施設全体が数分後に完全に吹き飛んでお終いです。」
爆弾だと!!
「ま、それまで念仏でも唱えててください。シクちゃんがいるから悲しくないですよね。まぁ、それがいやだったら・・・・・・。」
ミクオの親指がスイッチに圧し掛かった。
「逃げたい者は逃げるがいい!!!!」
その瞬間、大地を揺るがす振動が俺を突き飛ばし、サイロ全体が崩壊を始めた。
「くそッ!!」
ミクオの姿がコックピットに消え、怪物はその鳥類にも似た脚を持ち上げ、立ち上がった。
そのとき、天井の大穴からあの量産型アンドロイドが次々と飛来し、怪物の後ろにある大型アンドロイドをワイヤーで掴んだ。
まさか、持ち上げるつもりか?!
案の定アンドロイドの十数メートルの巨大な体が宙に浮き、一瞬で夜空に消え去っていった。
『さーて、僕らもそろそろ退散しますか。』
どうする・・・・・・どうする・・・・・・どうする!!!
真上から絶え間なくコンクリートの破片が降り注ぎ、真下からは立っていることさえままならない振動が俺の体をなぶり続けている。
とっさに俺は、苦音シクの持っていた二つの大型拳銃を予備パックに納め、そして、シクの体を抱き上げた。意外と軽い。
・・・・・・まだ起きるな・・・・・・まだ・・・・・・・。
『アッハハハハハ!!!』
怪物の外部スピーカーから、禍々しい笑い声が撒き散らされた。
『タイトさん。貴方どうする気ですか?その出来損ないをどうするというのです?!貴方こそ気が狂ったか!!!面白い!!』
出口を探そうにも、今来た道は既にコンクリートの瓦礫に塞がれている。
どこか・・・・・・どこかに出口が・・・・・・!
あった!非常口だ!!
俺はその非常口に、瓦礫をかわしながら全速力で突進していった。
『やはり貴様も馬鹿だな!!!』
さっきの女の声が、俺の背中を殴った。
そして、その怪物は一瞬身をかがめると、次の瞬間、その姿が天井の大穴に吸い込まれていった。
何という跳躍力だ・・・・・・!
非常口を抜けると薄暗い廊下が数十メートル先に伸びていた。
彼女の体を抱えたまま、その廊下を駆け抜けていていくと、突然背に身が焦げるほどの熱風が押し寄せた。
「うわぁぁああッ!!!」
熱い・・・・・・!!
背中が、一瞬炎に包まれた。
その衝撃で大きく転倒し、シクの体が目の前に転がった。
俺は腕に力を入れて立ち上がろうとしたが、腕に力が入らない。
「ぐぁッ・・・!」
腕だけじゃない・・・・・・熱風がたたきつけられた背、足、腰、全てが激痛によって縛られたように動かない。
もがこうとするほど、激痛は更に俺を締め上げる。
そして、背後からは深紅の業火が迫ってくる。
死が・・・・・・・死が迫ってくる。背後から!
今度こそ、俺を生きては帰さない!!
こんなことで・・・・・・こんなことで俺は死ねない。
生きて還ると約束したんだ・・・・・・大佐に、ソード隊のパイロット。
世話が焼けて命令無視をしても、可愛らしくいつも笑顔を振りまいてくれた、彼女にも・・・・・・。
無口で、冷たくても、俺や仲間のことをいつも思ってくれている、彼女にも・・・・・・。
ミクに博貴博士・・・・・・。
そして、もう一度君を抱きしめると・・・・・・約束した・・・・・・!
キク・・・・・・絶対にまた君を離さないから!!
「ウゥォオオオ・・・・・・!!!!」
体を縛り付ける激痛を振り払い、俺は今一度立ち上がった。
「俺はまだ死ねない・・・・・・絶対に!!」
そしてシクの体を抱き上げると、足を引きずりながら更に廊下を突き進んでいった。
僅かに動くだけでも激痛が走る。
歩こうとすれば地獄の痛みが容赦なく俺を締め付ける。
それでも俺は、歩くのをやめない。
しっかりと、シクを抱いて。
次第に炎が俺の背に触れ始めた。
スニーキングスーツに、火が燃え移り始める。
炎が、背中から俺を侵食していく。
それでも、俺は・・・・・・。
ああ・・・・・・意識が・・・・・・。
目の前が・・・・・・揺らぐ・・・・・・。
あと少し・・・・・・出口が、あれで・・・・・・外に・・・・・・!
俺は、非常扉を抜けた。
その瞬間、全身から力が抜け、俺はその場にしゃがみこんだ。
シクの体を雑草の上に寝かせると、俺もその場に倒れこんだ。
もう裏口のほうなのか、コンクリートではなく草でよかった。
ああ、もう意識が遠のいて・・・・・・。
どうする・・・・・・ここで気を失ったら・・・・・・。
誰が助けてくれるというんだ・・・・・・。
絶望・・・・・・的だ・・・・・・。
もうダメだ・・・・・・クソ・・・・・・!
なぜ、なぜこんなことに・・・・・・俺は、もう・・・・・・。
せめて、君に、一目でも・・・・・・・・。
・・・・・・・みんな・・・・・・キク・・・・・・・。
君との約束は、守れなかった・・・・・・・。
ごめん・・・・・・本当に・・・・・・ごめん・・・・・・・!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『タイトさん?!何があったんですか!!!応答してください!!一体何が起こったんですか!!応答してください!!タイトさん!!タイトさん!!!タイトさん!!!!』
貴方が死んでしまったら、残されたみんなはどうなるのです。網走博士も、キクさんも、他の皆も・・・・・・!
「本当にこれでよかったのか。」
「あーもちろんさ。ちょっとした楽しみもあったし、例の兵器のほうも手に入った。でも、君にはもう一仕事してもらう。」
「これで終わりといいたいところで、まだ私に何か押し付けるつもりか。」
「それでも断らない君のそういうところが、僕は好き。あと、その体も。奥の奥まで。」
「一言二言余計だ・・・・・・で、何だ。言ってみろ。」
「ストラトスフィアに戻ったら、これとあの兵器と一緒に、日本のとある基地に向かってほしい。」
「とある基地・・・。」
「僕らの本拠地だよ。」
「そんなことをしてどうする・・・・・・。」
「なぁに、いくらなんでもストラトスフィアの中にあんなものは置いてられないからね。僕の起こした行動の証拠になっちゃう。だが、あそこにあれば、安心だ。君の顔も結構利くんだろ?このハデスも結構場所とるから、向こうにやっちゃってよ。」
「君はそういうことに関してはさしずめ馬鹿でもないんだな。」
「君からほめ言葉が出るとは珍しいねおネェさん。」
「ふん・・・・・・。」
「そうだ、あの人に僕からご報告をしておこう。あの人も是非気に入ってくれるかもしれない。君も向こうでお会いすることがあったらよろしくね。」
「あの人とは、君を造った人間か。」
「そう・・・・・・網走さん・・・・・・だよ。」
この人・・・・・・。
どうして・・・・・・シクを助けたの・・・・・・。
どうして・・・・・・わからない・・・・・・。
この人は、もう撃たなくていい・・・・・・。
ミクオが、シクのマスターでなくなったから・・・・・・。
そう言ってたから・・・・・・。
だれか・・・・・・だれか・・・・・・。
シクを・・・・・・この人を・・・・・・見つけて・・・・・・。
助けたいの。この人を。
シクを助けたから。
だから、今度はシクが助ける・・・・・・。
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