野太い声のウサギに泣きべそかく私の背中を擦ってもらい、落ち着くこと数分後。
二本足で立つ姿はこんなにも〔ぷりてぃ〕なのに・・・。
「落ち着いたかぃ?」
「・・・ありがと」
一応人としてお礼は言っておかなければ・・・。相手がウサギだけにアドバンテージは取られたくないし・・。
「はっ!そういえば何でウサギが喋って?!」
「今更かよ」
「というかこんなウサギが存在してていいの?!」
「・・・それを俺っちに聞くなよ・・・。
そうだな、だが譲ちゃん、それは俺っちでなくても問うちゃぁなんねぇことだぜ?
その疑問は言ってみれば、ジュリエットが『あぁロミオ、なぜ貴方はロミオなの?』と問いかけるくらい罪深いものだぜ?」
意味が分からない。
その台詞が罪深いと思うこだわりもそうだけど、そんな名台詞に重ねられるくらい目の前のウサギは高尚な生き物なのだろうか・・・。
というかなぜ私は普通にこの生き物と会話を成立させているか?
そもそもコレは生き物なのだろうか?
はっ、もしかしたら妖精が化けて?
そうか、妖精なのかぁ。わ~~い。
・・・それもイヤだけど。
「どしたぃ?今、眼が逝ってたぜ?」
「はっ!いや、何でも無いわよ?!」
「? じゃぁやっと本題に入るぜ?」
「本題?」
嫌な予感が・・・
「あぁ。実は・・・ぶっちゃけアンタに魔女っ子になってもらいたい」
私は今聞こえた発言が現実か幻聴か判断するために遠いところを見て気持ちを落ち着ける必要があった。
しかしヤツは私にそんな暇すら与えず、思わず正気を失いかける事実を突きつけた。
「実は俺っち、雨の妖精なんだなぁこれが」
・・・当たっていた?!!
そんなバカな?!そんなバカで嫌な真実知りたくなかった!
「譲ちゃんも感じていると思うが、この頃例年に比べ雨が異常に少なくてなぁ」
・・・ウサギが天気予報士みたいなことを・・・
「そこで、譲ちゃんに魔女っ子に変身して貰ってだな、オイラの力を使って代わりに雨を降らしてもらいてぇんだ」
「嫌。丁重にお断りいたします。ちょっと私疲れからか頭がイカレてるみたい。帰って寝るわ」
「ちょちょちょちょぃ!!待ってくれよ譲ちゃん。アンタだけが頼りなんだよ」
いつの間にか、背後にいたはずのウサギが私の進行方向前方に回りこんでいた。
はやっ
「アンタ妖精なんでしょ??!じゃぁ私に頼らないで自分の力なんだから自分で何とかしなさいよ!」
「それが出来れば頼んでねぇよ!?自分だけじゃ出来ねぇからその補助と調整を譲ちゃんに頼みてぇんだよぅ!!」
「そもそも何で私に?!私とキミの接点なんて、刹那ほどの時間も極僅かの機会もなかったでしょ?
むしろ無かったと言って」
「そんなに嫌がらなくても・・・。実はあったんだなぁ。その刹那と極僅かが。
昨日の夕方、ヨ○バシカメラ付近の道路で1羽の兎を見かけたのを覚えてるか?」
「昨日の夕方・・・?
・・・あっ!あの兎のこと?!でもあの時の兎は一般的な白い兎だったけど・・・」
「ふふんっ!アレはオイラの仮の姿。通常もーどの時はカラーリングは白なのさ。
この色になるときはオイラが本気を出した時さ」
「なんならずっと本気出さなきゃいいのに・・・。
で?何で私なの?」
「お前さっきからケンカ売ってんだろ・・・。まぁ良いや。
その理由を話す前に思い出して欲しい。あの時俺っちは絶体絶命だったことを」
「そういえばアンタはヨ○バシカメラの前の大きな道路を横切ろうとして不慮の事故に遭おうとしてたわね」
「そうだ。そしてその時お前は」
「ただ見てただけよね」
「そうただ現場を見てただけだった」
「・・・・・」
「・・・・・」
1人と1羽はお互いジッと見つめ合っていた。
それは傍から見ると、まるで信頼しあう互いが何も言わなくても通じ合っているかのような光景だったという。
・・・事実はまるで異なるのだが。
「・・・それが・・何?」
「確かに譲ちゃんは何もしなかった。だが、轢かれそうになる俺っちに気付いて一喜一憂してくれたじゃねぇか。
その時の表情が忘れられなくてなぁ」
ウサギは恍惚とした表情をしつつ遠い眼をしてその場の場景を思い出しているようだった。
何分相手はウサギなので表情の変化に乏しく、語り口調と小さな仕草から目の前の現状を脳内変換し、変換した妄想を再度網膜に投影してるので、実際本当にそうだったかと聞かれると定かではない。
「・・・ちょっと待って。何かすごい美談のように語るけど、色々突っ込み所があるんだけど・・・」
「な、何がだぃ・・・?」
「まぁ、私と反対車線の歩道へ向かおうとしていた貴方が轢かれそうになっているのに何で私が一喜一憂しているのが見えたのかは、貴方が妖精という事実を鑑みて眼を瞑りましょう。
でも、貴方のことで一喜一憂していた連中は他にもいたはず!
なのになぜ私を選んだのか?納得できないわ」
「いやぁ、人気者は辛いぜ」
「誤魔化しにもなってない」
「・・・確かに、他にも気にしてくれた人間は居た」
「・・・・・・・」
「だが!一番話しかけ易かったのが譲ちゃんだけだったんでぇ~~~!!」
私が思わず頭を抱えて路上にうずくまったのは本日二度目だった。
「そ、そんな理由で・・・」
「ワテってば意外と人見知りなんよ~~。譲ちゃんに話しかけるのもどれだけ勇気がいたことか・・・っく~~~」
「やっぱり私帰ります」
「待ってぇなぁ~~、お願いだでぇ~」
泣きじゃくる?ウサギを横目に自宅への帰路に付こうとした私の足に行かせまいと縋り付いてきた。
ふぅ~~~~
思わず溜め息が出る。・・・しょうがない。たとえ見た目が変でも相手はウサギだし・・。
「じゃぁ頼みを聞いたら何をしてくれるの?」
交換条件で妥協しよう!
「へっ?!・・・う、う~~~~~ん・・・」
「それが私の気に入ることだったら、やってあげないでもないわ」
「・・・・そうだな・・・じゃぁ・・・『一度だけ雨を降らせれる権利』ってのはどうだぃ?」
「・・・何か地味ね・・」
『なんでも言う事を聞いてくれる』とか『3つまでなら何でも願いを叶えてくれる』的なものを予想していたんだけど・・・。
相手が自称妖精だけに。
「何を言ってんでぇ譲ちゃん!一度だけでも仮にも天候を操れる権利なんだぜ?!
古来から天候なんてのは人間にとっては神のみぞ知るってやつで、モロ神頼みの対象じゃねぇか。
神様気分に浸れる一生に一度のこのチャンス。不意にするのは勿体無いと思うぜぇ俺っちは」
「まぁ言われてみれば確かに・・」
「それにだな、雨と言っても小雨、大雨、豪雨、雷雨、台風などなどお手の物。
聖書に記されている大洪水の再現までは無理だとしても、望むなら小さな国一つなら飲み込めるぜぇ・・」
「こ、怖いこと言わないでよ・・・逆にやる気削がれるって」
「あ、あーー!っと今のは冗談!冗談だってば譲ちゃん!!そんな話本気にするなんて譲ちゃんもどうかしてるぜぇ?」
「・・・アンタ結構本気の目してたわよ?」
所詮ウサギが本気の目をしても何の脅威も感じないのだが・・・やはり今更ながら会話と姿にギャップが・・
「ま、まぁまぁそんなのぁ置いといてだな、で、どうなんだぃ?やってくれるのかぃ?それとも・・・」
正直よくよく考えてみると魅力的な話だ。
そもそも話だけ聴いたら信じる気など毛ほども起きないだろうが、それを証明する存在が目の前にいる。
喋るウサギが。
まぁ深読みするとキリがないし、あまり考えなくてい~か。
「わかった。乗りかかった船だし、やってみましょ」
「マジでか?!よっしゃぁ!さっすが譲ちゃん!んじゃ早速この杖を持ってくれ」
「ま、眩しい?!・・・え?・・」
眩い光と共に私達の目の前に現れたのは、まるでオーケストラの指揮者の持つ棒のようなもの。
「やっぱり魔女っ子といえば魔法の杖は必須だろぅ?
それを持って
『ぴらるかぴらるか るるるるるーーーん 雨よ!降って?!お願い!』
と天を仰ぎながら叫ぶんでぇーーー!!」
「・・・嫌。やっぱり止める」
「あぁ!!杖を放っぽり出すなぁーー!
途中解約なんて論外だって!そんなことをしてみろ?!譲ちゃんに不幸が訪れるんだぜぇ?!」
その言葉に私の歩みが止まる。
「・・・不幸って具体的には・・・?」
「オイラが一生付きまとう」
それって自分で『不幸』って言うことかぁ??
「・・・今反射的にそれは嫌かもって思ったけど、よくよく考えるとそれって面白いかも・・・マスコット的な感じだし」
「くっ流石俺っちが選んだ女だぜぃ・・・。
だが、一生付きまとうということはどこまでも付いて行くということなんだぜぇ?!
例えばトイレの中でもだぁ!!」
「流石にそれは物凄く嫌ね・・・。
でもその台詞を言うのもイヤ!!
ていうかなんでそんな台詞なの??誰の趣味?!」
「これでも妥協したんだぜぃ?!本当ならこんなちゃっちぃ杖じゃなくもっと可愛いのを用意して、更に変身用の衣装に着替えさせ、厳選した『魔女っ子に相応しい単語ベスト10』で組み合わされた完璧な呪文を唱えてもらうところを、時間の都合上、残念、ほんとーーーに!残念ながらそのままの譲ちゃんの私服、簡素な杖、俺っち作成の適当な呪文でだな・・・」
「やっぱりアンタの趣味か・・・付き合いきれないわね・・・」
「そ、そんな蔑んだ目で!?
・・・えぇい!!ごちゃごちゃ言ってねぇで早く唱えろぃ!!!」
「はいはい・・・え~と?ぴらるくぴらる・・・」
「もっと大声で!こう・・思いっ切り気持ちを込めて!!」
「ぴらるくぴらるく・・・!」
「棒読みになってるぞぃ!もっとアクセントを!」
「ぴらるくぴらるく! るる・・」
「違うぅ!単語を区切っちゃ・・・」
―――!
――――!!
!!?――!
―――
こんな騒ぎになっているのに誰も傍を通る人はおらず、周りの一軒家からも窓を開けて見物しようという物好きはいなかった。
私はこの時ほど、現在の日本の無関心精神をありがたく思ったことはなかった・・・。
ザァーーーーーーーーーー
雨が降っている。これが私の降らせた雨?
さっきまで傍にいたはずのピンクウサギの姿はいつの間にか無くなっていた。
大粒の雨が降りしきる路上には傘も差さず立ち尽くす私が一人だけ。
さっきまでのやり取りは夢だったんじゃ、と思いたいけど、利き手に握る彼の言う『ちゃっちぃ』杖がそれを許さない。
雨降る天を仰ぎながら今私が思うことは
あぁ~~~~~疲れたーーーーーー・・・・・・
せっかくの休日だってのに・・・
ふと気付いた。
私の右ポケットに何か入っている。
身に覚えが無い。
・・・・・紙・・?
ぷっ、くくっ
それを見た瞬間、苦笑してしまった。
それは彼が残した再会を約束するメッセージと、連絡先を記した電話番号。
自称妖精が電話番号って・・・胡散臭すぎっ。
・・・ま、いっかぁ
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