『 THE WORLD END UMBRELLA 』
いつの事だろう、私が生まれるきっとずっと前
この街が出来上がった。
けれど、その日の空は暗かった。
けれど人々は気がつかない。
それがどうして暗かったのか。
それがどうして泣いていたのか。
私も気がつかない。
地を覆う大きな傘。
中央に塔が一本建ち、それが機械の塊を支えている。
当然 真下にある集落には陽が当たらず、機械の隙間から漏れる「雨」に苛まれている。
人々は疑わない。
それが当たり前だったから。
何て事はない。
ただの「掟」なのだから。
まるで傘に覆われているかのようにこの街はとても暗い。
空の隙間から小さな塊がころんころんと降ってくる。
街は静かで、冷たい。
時が流れているのは、時々鳴るドローンで感じる。
これが当たり前、これが自然。
それが、"私たちの掟"
私は街が明るいのを知っている。
小さな絵本で見た事がある。
綺麗な青色をした空の下で色とりどりの花に包まれて、
とても幸せそうな顔で小さく眠る二人がいるの。
けど、それは空想の世界。
だって私のいる街はこんなにも暗いのだから。
「いつか、絵本の中にある・・・空を見に行こう」
絵本を見ながら君と2人で約束した言葉を思い出し、ふと笑う。
そんな世界がどこに広がっているんだろう。
どこにもないのかもしれない。
「あるよ」
「あるよ、絶対」
不意に放たれた言葉と声で君だと分かった。
私が見上げることなく、うん。と返した声は、ちょうど時が流れたのを知らせるドローンにかき消された。
君は空からまたころんと降ってきた塊を手にとって握り締め空を見上げる。
「行こう」
君に手を取られ、気付けば走っていた。
この街には風が無い。
けれど走れば風を感じられる。風を切れる。
君の手と私の手は風を切って進んでいた。
誰も気づかないあの傘へ向けて。
降り頻る雨と共に、二人は傘の塔へとたどり着いた。
閉ざされていた両開きの扉は、押せば呆気なく開き、二人を拒みはしない。
誰も入ろうとはしないのだ。
鍵などあってもなくても同じだろう。
その扉の向こうの、
扉の中は今にも崩れだしそうで、私が知っている雨とよく似たものが降っていた。
螺旋階段は踏めば抜けそうだ。
それでも私たちは止まる事を知らないで駆け上がる。
まるで障害など無かったかのように私たちは進んでいく。
私は一度風を切るのを拒んだ。
いつの間にかほどかれていた手を君がまたとる。
そうして私の顔を覗きこんで微笑んだ。
君は変わらず先を見透かすように走り出す。
さっきよりもゆっくり、それでもはやく。
向かった先には、小さな明かりが見えた。
くいっと手を引っ張ると、君はそれに気付いたのか足を止める。
「どうして」
どうしてここに人がいるの、と言い切ることなく
広い柱の中を明かりのように見えた白い影から逃げるように走っていく、
それでも無駄だった。
先は行き止まりだった。
私たちの行方を阻むかのように積み重なる屍は、今にも動き出しそうで、
行くな、行くなと言っている声が聞こえた気がした。
私には理由が分からない。考える暇もない。そんな気も起きなかった。
「大丈夫、すぐ見える」
君は背中で笑って繋いだ手を離さない。
私はその背中を見つめることで安心できた。
気がつけば街よりも暗い所にいた。
前も後ろもよく分からなくなった。
ドローンとよく似た音が微かに聞こえる。
笑い声にもよく似ている。
闇に溶けた世界を見渡すと、微かに感じる事がある。
「風が、ながれてるわ」
女の子は言った。
男の子は小さく相槌を打った。
足を止める事はなかった。
とても遠くまで来た様な、
或いはまだ走り始めて間もない様な。
絶望的に小さな二人を、誰が見つける事も無かった。
後ろを振り返れば、闇の中にぼんやり見える白い影は私に気がつくと姿を消した。
哀しそうに、そっちには行けないと言うように。
止まる事のない私たちは、さっきまで感じていた景色とは違う、
もっと鮮やかに変わっていく景色に身を包んでいた。
ころんと降っていた雨とは違う、屍から聞こえた音も違う、
そんな音が聞こえていたような、そんな気もするけれど、夢中でいた。
あまり時間もたっていないままな気もするし、ドローンの鳴り響く音が消えてからは止まっていた気もする。
いずれにせよ流れていた時が終わりを告げるように、はたまた始まりを告げるように
私たちは扉の前に立っていた。
それはとても小さな扉で、もう何年も開けられていないのかぼんやりとしていた。
「開けるよ」
「うん」
私の目の前に広がったのは、今までに見た事が無い景色だった。
けれど私たちは、唯一よく似た景色を知っている。
「絵本の空・・・絵本の・・・」
気付けば私の瞳から沢山の幸せがあふれ出す・・・。
こんな世界を見た事がないから。
本当に夢みたいだったから。
君に差しだされた色とりどりの花束を手にして笑う。
こんな幸せを経験したことがない。
「もう、何もいらないわ」
君の顔を覗き込むとふわりと笑ってくれた。
添えられていた君の手が私の手から離れ、すとんと落ちる。
君もまたすとんと花に包まれる。
いつの事だろう、私が生まれるきっとずっと前
あの街が出来上がった。
けれど、その日の空は今よりもずっと暗かった。
けれど人々は気がつかない。
それがどうして暗かったのか。
それがどうして泣いていたのか。
私はこの時悟った。
けれど自分自身に降りかかるのは恐怖よりも幸福だった。
1つだけ思うのならば、
ずっとこんな世界ならばよかっただろう。
偽らなくともこんな世界ならば・・・よかったのに。
自然と体は軽くなる、気持ちも温かさでふわふわだった。
そんな絵本の世界に包まれて私たちは小さな眠りについた。
"哀しくないわ 君の側で・・・"
2人が大切にしまってきた絵本の空は、
2人の思い出と、そして永遠を刻んだ。
絵本の最後によく似た、そんな私たちの物語。
『花の咲いたその傘の上には とても幸せそうな顔で小さく眠る2人がいた』
こうしてまた廻っていく。
『THE WORLD END UMBRELLA』(解釈作品)
閲覧ありがとうございます。
初めて投稿させていただきます。
今回、ハチさんの作品
『THE WORLD END UMBRELLA』
(『WORLD'S END UMBRELLA』)
を元に、等自己解釈小説を
執筆させていただきました。
どちらも素敵な曲です。
文章表現が理解しにくい点も
多々あるとは思います。精進します・・・!
一読していただけるととても嬉しいです。
アドバイスもお待ちしています。
--------------------------------
一部作品を引用させていただいています。
自己解釈とはいえど、引用作品であるため
著作権侵害にあたる場合はご一報ください。
また、タグは文字数の都合により、
『WORLD'S END UMBRELLA』
で登録してありますのでご了承ください
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