グミが通っていた中学校では、ガクポ君はスーパーマンだった。

変な『口癖』で「拙者は―」とか「~でござる」
なんて口調でしゃべる事は置いといて
成績もスポーツも優秀な上、生徒会長。

一方グミは典型的な地味なメガネっ娘。

余りにも雲の上の人だったので
話すことも、顔を合わせることも無かった。


一年後、グミがボカロ学園に入学して
きっとそこでも先に入学したガクポ君はここでも
スーパーマンとして活躍するだろう
なんて彼女は思っていたのだが

ガクポ君二年生、グミが一年生の時
ガクポ君を差し置いて生徒会長になったのは
気が強そうな綺麗な顔立ちの女生徒だった。

信じられない事にガクポ君はその女生徒に
指示されて右や左に大忙し。

あのスーパーマンを操るなんて
世の中にはすごい人がいるものだと
妙に感心してしまっていた。

ある日、グミを見かけたガクポ君が
彼女に手招きをした。

「君は、拙者と同じ学校の出身でござったね。
ちょうど良かった。会長、この子は新聞部で――」

相変わらずの変な口調だったが

ガクポ君の言葉途中で後を振り返ると
グミの後に生徒会長のメイコが立っていた。

「メイコです。ヨロシクね。ちょうど良かったわ
新聞部にね、お願いがあったんだ―――」

新聞部に入部したグミに
学園の有名人と話す機会が唐突にやってきて
彼女はカチカチに緊張したのだが
メイコの気さくな雰囲気がとても好印象で
会話をする度に、少しずつメイコに憧れていった。

地味なキャラで、このままだとイベントひとつ起きない
学園生活だっただろう彼女の心に

小さな赤い彩の花がポンと咲いたような出会いであった。


【青い草 第9話前編 ―二つの告白― 】


窓の外は素っ頓狂な青い空。



チョークがコツコツと黒板に当たる音だけが
教室に響いていた。

グミは珍しく授業に集中できずに
ポカーンと透き通る青い空を眺めている。

グミは生徒会会長に立候補したが、もう一人
強力な候補者が名乗りを上げた。

いわずと知れた学園の女王、ミクである。

ミクの人気は他校にも轟き
その人気ぶりは―――ただ事ではなかった。

毎日束になって送られるファンレターやラブレター。
休み時間にはミクの席には蓮の花びらのように生徒が広がる。

そんな彼女との生徒会会長選挙を争わねばならぬ
状況なのだ。選挙前から戦意消失するのは無理も無いし
その上、ミクの立候補を推薦する生徒も只者ではない。

「ツンツン王子」こと、一年生のリン君だ。

学園の女子のアイドルであり、時流なのか
男の子のファンも多いらしい。
今や、ミクと並ぶ人気者だ。

一方、グミはといえば
校内でも目立たない部活の筆頭である新聞部で
誰も読まないような面白みの無い記事を綴った
新聞をひたすら書き、近眼で厚ぼったいメガネを掛けて
地味な生徒の見本のようだった。

挙句、彼女の補佐をする事になるのが
チビで、何か話す度に「わお」とか「わん」とか
犬のような口を利く変な少年。レン君だ。

先日、メイコから突然

「グミちゃんの推薦人はこの子だよ」
と、レンを紹介されたのだ。

「わ…、わぉ。せ、先輩、よろしくですわん」
メイコの背中に隠れてもじもじしながら挨拶した。
あきらかに―――、頼り無さそうだ。

メイコがどんな意味を込めて彼を紹介したのか
ちっともわからない。


真面目に生徒会をやってみたいという気持ちは
今も変わりないが、圧倒的な力を持っている
ミクに、選挙で対抗する術も思いつくことも無く
絶望的な気持ちを青空でも眺めてぼやかしているのだ。

『いっそ……、立候補……、取り消しちゃおうか……』

グミは空を漂う雲を眺めながら心で呟いた。





3年生の教室。

コツコツと黒板に白いチョークの数字が書き込まれ
みんなはそれを必死にノートに書き写してる。

でもカイトはノートもとらず先日の実験の事を思い出していた。

実験とは先日一騒動あった「タイムマシン」の事である。

自転車の車輪の回転を利用した仕組みで
それがカイトの作った回路につながれており
自転車を漕いだ人だけが脳内で時間旅行できる―――という
仕組みであったのだが。

実験にはバカみたいに体力のあるレンを
参加させてみたのだが勢いあまって自転車は校舎の
壁に激突。レンはそのまま気絶した。

レンは無事に保健室で、目を覚ましたのだが
その次の日、レンは屋上でカイトに不思議な出来事を言った。


「カイト先輩、僕……、たぶん未来に行っちゃったわん」

神妙な顔をしてカイトは話の続きを聞いた。

「僕、気絶してる間、夢を見ていたんだわん。
それは、おそらくちょっと未来の世界で
僕に関係ある大人の女の人がいたんだわん」

そう言うと、レンは顔がちょっと赤くなった。

「いや、わお、わお!なんてゆうか……、優しい人だったわん。
綺麗で、いい匂いで……、うへぇ~だわん」

レンが何を言いたいのか分からなかったが
恐らく、その女性はレンと密接に関わってる人物で
未来の姿だったのだろう。

何分、彼の説明は下手くそで何を言ってるのか
分かりにくいのが難点だが、非常に興味のある内容だった。

「で、レン君。その女性の正体は誰だか分かったのかい?」

カイトがレンに問いただす。


「……、草原のあのコだわん。小さい頃一緒に遊んだあのコの
大人になった姿だわん。名前も忘れちゃったわん……。
でももう一人……心当たりが―――」

レンが話してる最中に始業ベルが鳴った。

「なるほどね……。続きをまた聞かせてくれ」

二人は急ぎ足で教室に向かった。



レンの言葉を反芻して今回の実験を考証しているカイト。

コンコンと机をノックする音が。


はっと気づくと目の前にキヨテル先生がカイトの顔を覗いていた。

「おいおい、そんなに露骨に授業をサボられると
逆に怒れないな」

「あわわ!すみません!ちょっと考え事を……」

鼻をふんと鳴らし、キヨテルはカイトの目を深く覗き込んだ。

「カイト君、まだ具合が悪いのかい?どれ……」

カイトの顔にキヨテルの顔が不意に近づき
キヨテル先生ははカイトのオデコに額をつけて熱を測った。

切れ長の目、筋の整った鼻、清潔で、横に軽く流した髪。
女生徒にも人気があるのも頷ける。
でもこの先生は女子にモテるからといって鼻の下を伸ばしたりしない。
とても硬派な教師なのだ。そのはずだ。

「……、うん、熱は無いようだね。まあ、あまり無理をするなよ
先日、倒れたばかりなんだからな」

メイコが心配そうな顔で、ちらりとカイトの方を見た。

授業の終わりのチャイムが鳴り響く。


「よーし、本日の授業はこれで終わりだ。
明日からは3日間、文化祭の準備に入ってもらう。
授業が無いからといって、家で勉強をサボったらダメだぞ」
生徒達は力なく返事をまばらにした。

日直が号礼をし、本日の授業が終わり
明日からは3日間の準備期間と2日間のボカロ学園文化祭が始まる。

それぞれのクラス、部活、同好会がイベントの準備の仕上げを
行うのだ。この学園の文化祭は規模が大きい事で結構有名だ。
だから生徒達も力が入るのもこの学園での伝統といって過言ではない。

カイトは机の上にカバンを置き、ノートや教科書を詰め込んでると
右肩をツンツンと突っつかれた。

振り向くと、ちょっとしおらしい顔をしたメイコが立っていた。

「……、ねえ、まだ……調子悪いの?」


先日、メイコのローリングソバットを喰らって
保健室で寝込んでいた事を気に病んでいるようだ。

「あ~~、いや、ちょっと考え事をしてたんだよ。
いや、ほんと、大丈夫、大丈夫」

グルグルと両腕を回してカイトは不自然くらいの笑顔で応えた。
しょんぼりしたメイコの顔なんてカイトは見たくないのだ。

「今日も……、家まで送ってく?」
メイコがそれでも心配そうな顔で言った。

先日、メイコが介添えして家まで送ってくれた時のことが
脳裏に浮かぶ。

半袖の制服、素肌の柔らかい彼女の腕の感触を思い出す。

でもカイトは首を振った。

「生徒会長、君は今日から文化祭の準備で人一倍大変なんだから
俺の事は気にしなくても大丈夫。それにもうほんとに
平気なんだって」

「……、そう。なら……良かった」

「……うん」

この文化祭が終われば生徒会の解散である。
生徒会長であるメイコにしても、最後の大舞台。
思う存分、活躍してもらいたいとカイトは思っている。

メイコの生腕は名残惜しいが
今日はおとなしく一人で帰ろう。
カイトはカバンを掴み、メイコに手を振ろうとすると

「ねえ、あんた、ちょっと忘れてるよ」

「ん?何」

やれやれ、とメイコが頭を振る。

「あのね、あなたも生徒会の関係者なの!
いまは『科学+生徒会部』に在籍してるんだから
ちゃんと―――、仕事してよね!」

「―――あ……」

カイトは自分の立場をすっかり忘れていたようだ。

「さあ!行くわよ。生徒会室にガクポ君を待たせてるんだから。
まずは野球部のラーメン屋の進行状況を確認よ、それから……」

「わわわ!ちょ、わかったよ!」

メイコはカイトの腕を掴かみ、ぐいぐいと歩き出す。

焦るカイトの顔とは裏腹に
メイコはいつもの元気な笑顔に戻っていた。

【つづく】









ライセンス

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青い草 9話①

青い草、第9話です。
今回はグミのターン。のはず…。

3部構成のつもりが4部構成に変更。


ボカロ学園、文化祭編!わしょい!

閲覧数:143

投稿日:2012/05/24 00:10:46

文字数:3,893文字

カテゴリ:小説

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