人は外見だけでは解らないという人がいる。
 顔だけが人の魅力でないという人がいる。
 少女もその両方の言葉をもちろん知っていたけれど、前者の言葉にはあまり共感を持てず、後者の言葉には賞賛を送りたかった。
 だって、彼女の周りには彼女の外見に惹かれて鼻息を荒くした獣達がいたから。
 肉を目の前に差し出された肉食獣、という表現を人間にあてはめるのはかなり失礼だが、こればかりはしかたがない。毛むくじゃらの男も、サラリーマン風の優男も、共通しているのは、少女に向けた「欲」というただ一点。

 夕暮れ時の図書室の窓際。
 黒髪を肩まで伸ばし、着用しているセーラー服には一つの校則違反も乱れも見られない。黒縁の伊達眼鏡の奥には、長い睫毛が頬に影を落とす。まさしく清楚な美少女、といういでたちの女学生だ。
 その薄い唇には笑みが浮かんでいた。
 自分の携帯の画面を見て、何かを楽しむかのように。

「今日、いいかな?」

 それはいつも彼女と「遊んで」くれる客だった。
 一応どこかの学校の教師らしいが、詳しい素性は知らないし、少女にとってはどうでもいいことだった。
 ただ、愉しめればいいのだから。

 膝丈の、学校指定のスカートの下。レースに縁どられたかわいらしいランジェリーは、少女の清楚な外見の下に隠された艶やかな一面の様に、その全容は捲らなければ顔を見せない。
 


    *

 赤、白、黒。
 お得意様の教師はどうやら彼女に自分好みの色を着用させたいらしい。いつも指定があった。
 可愛いよ、とか、どうせなら全部自分の物になればいい、とかそんな事をいっていたような気がするが、あいにく少女は誰かの物になる気はなかった。
 赤と白と黒の糸で結ばれた関係はごめんだったからだ。

 セーラー服を自分の体に巻き戻していく。相手はとっくに巻き戻しを終えて、最後に少女にキスをして去って行った。
 高級ホテルの一室。外に見える輝きを放つビル群を何を考えるでもなくぼーっと見つめながら、少女は思う。
 
「ねえ、もっと教えてよ」

 矯声探るエゴイズム。
 お互いが満たされる必要はない、自分さえ満たされればそれで満足。
 教師なら、生徒に教えるのは当然でしょう、と。
 それはとても甘美で、道徳観念と倫理の破綻した愉しい授業だったけれど。
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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インモラルアクトレス

久しぶりの更新です。
相変わらず成長してませんが、読んで下さった方々に何か感想が残れば幸いです。

閲覧数:732

投稿日:2013/01/13 21:15:02

文字数:972文字

カテゴリ:小説

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