4 10年前

『パパとママに対する気持ちなんて、その程度だったのかしらね』
 まさかと思い、婦警さんを突き飛ばして離れようとした。けれど、婦警さんはそもそもあたしがなんで泣き出したのかもわかってなくて、きょとんとしたままだった。そこでようやく、婦警さんと違う声だって遅れて気づいて……でも、じゃあ誰の声なのか検討もつかなかった。
『バカねぇ。あたしは貴女よ』
 そうやって嘲笑する声に、あたしは意味がわからなくて混乱した。
 けれど同時に、どこか納得している自分もいた。
 心の奥底で、皮肉めいていて、冷静に、冷酷に物事を見ているあたしの一部分。
 それが声を出したとしたら恐らくそんなことを言うだろうって、あたしはなんとなくわかってしまったんだ。
 叔父さんがやってきた時、あたしは婦警さんにしがみついてて泣いたままだった。叔父さんはいつもと違う様子になんだか困惑していたけれど……ともかくそれ以降、あたしの素行は改善した。
 けれど“彼女”の――あたしのひねくれた本心の声は鳴り止まなかった。
 パパとママがどんな学校に通って、どんな仕事をして、どうやって出会ったのか。それを調べていた間中、“彼女”は皮肉を言い続けた。
『パパとママの過去なんて、今の貴女になんの意味があるの?』
『あ、パパとママそのものが過去だったわ』
『あの二人がどんな人間だったとしても、貴女はどうにもならないしどうにもできない』
『調べるだけ、無駄だよ』
『今まで気にもならなかったんだから』
 うるさい、うるさい、うるさい。
 あたしはそう言い続けたけど、それは、心の奥底にしまいこんだ「言い訳」を掘り返して聞かされるのがつらかったからだ。
 知りたいと思うと同時に、今まで知らずにいたことに対する後ろめたさ。
 二人の望むような生きかたをしていないという確信。
 それを“彼女”に思い知らされながら、半ば泣きながら、自宅の物置をひっくり返してパパとママの過去を探した。
 アルバムとビデオテープは大量にある。けど、それまであたしが見てきたのはあたしが生まれてからのものばかりだった。
 それよりも昔のものを見るのは、その時が初めてだった。
 二人の卒業アルバムが出てきた。
 結婚式の写真が出てきた。
 ママの昔の写真がたくさん出てきた。
 パパの昔の写真がたくさん出てきた。
 そこにはあたしの知らないパパがいて、あたしの知らないママがいた。
 物置だけじゃ飽き足らず、あたしは昔のパパとママを知ってる人たちに話を聞いて回った。叔父さんを筆頭に、学生時代の友人や、先生なんかだ。
 いろんな話を聞いた。
 どんな学校に通って、どんな成績をとって、どんな趣味があって……。知った気になっていた二人の、知らなかったことのオンパレードだった。
 “彼女”の言う通り、二人の過去を知ることに少し怯えていたあたしは、けれど、知ったことで少しホッとした。
 あたしの知る二人は、なんでもできて優しくて頼りがいもあって、清廉潔白で完璧な人たちだと思っていた。でも、そんなことなかったからだ。
 ママはあんまり成績がよくなくて、テストの度にめちゃくちゃ怒られていたらしい。
 パパはちっちゃい頃はいたずらっ子で、周囲の人に迷惑ばかりかけていたらしい。
 想像とは全然違う、二人の過去。
 まだ中学生の今なら、やり直すのに遅くなんかないって思えたんだ。
『……ふうん。よかったじゃない』
 なのに、面白くなさそうに“彼女”は言った。
『だからって、貴女のこれからがよくなるかどうかには関係ないけどね』
 ……その負け惜しみがあたし自身の本心なのか、単なる言い訳でしかないのか、あたしにはわからなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

私とジュリエット  4  ※二次創作

第4話

背景説明回、1話に収まらなかった……。

二次創作の際、一人称は基本的に歌詞に合わせるようにしているのですが、今回は愛視点にする、という都合上、「私」ではなく「あたし」になっています。ご容赦ください。

曲を聞いていろいろ思い浮かんだものの、改めて歌詞を読み込んでみると「これ、視点はたぶん『ロミオとシンデレラ』と同じ女の子の視点だよな……」とか思いました。
そういう意味では二次創作第1弾に合わせて自己解釈している部分が多々あります。これもまたご容赦願います。

一応、最終話まで、3~4話ずつ毎晩更新する予定です。誕生祭に合わせて最終話を更新したいのですが、最終話予定が13話~14話なので、まず間に合いません。ご容赦(以下略)

閲覧数:84

投稿日:2017/08/30 00:34:28

文字数:1,536文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました