初恋は実らない。
こんにちは!俺、鏡音レンって言うんだ!
今日はね、俺の初恋の話をしようと思うんだ!
聞きたくないとか言うなよ?
聞いた後の文句は受け付ける。
よし、始めるか。
俺が中学の時、クラスに鏡音リンって子がいた。
見た目はもうそこらの女優よりいい。最高だ。
でも、いつもクラスの隅っこで読書してるような子だった。要するにすごく大人しい、と言うか冷たい。
裏では『人外雪女鏡音リン』とか嫌なあだ名がついてたんだよね。まぁ、当時の俺は彼女とは正反対のタイプ。誰とでもすぐ仲良くなる。いつもニコニコしてる様な人。
そんな俺が彼女に惚れたきっかけなんだと思う?
俺さ、普段本なんて読まないんだけどさある日放課後友達と遊ぶ予定だったんだけどそいつがドタキャンした訳よ。だから暇だし、たまには読書もいいなって思って図書室に行ったんだ。偶然彼女と会ったんだよ。彼女は綺麗だった。俺と同じ金の髪は夕日の赤に染まり風に揺れていた。
「あぁ、綺麗だな。」って思って見惚れていたら彼女がこっちに気づいて不機嫌そうな顔をしたんだ。
そして、話しかけられた。
「何の用?鏡音君。」
彼女の声を聞いたのはこれが初めてだった。鈴みたいに可愛い声だったよ。
「え、あ、ごめん。本読みに来ただけ。」
「そう。」
彼女は無関心とでも言う様にそう言い放つ。
俺は本棚から適当に本を取った。今でも覚えてる。
本の題名は『初恋が落ちる時』って感じだった気がする。初めて見た時はなんだか少女漫画見たいなタイトルだなーとしか思わなかった。結構面白かったな。
俺はその本を持ち彼女の左隣に座ったんだ。彼女の本を見つめる目はとても綺麗だった。まさに、真剣って感じ。
「何・・・?顔になんか付いてる?」
「え、い、いや綺麗だなーって思ってただけ。」
「何それ・・・なんか企んでる?」
彼女はクスクスと笑いながらそう言ったのだ。彼女が滅多に笑わないせいかは分からないけど、その笑顔はとても綺麗だった。普段からそうしていれば人外雪女鏡音リンなんて言われないのに。
「たっ企んでなんかないよ!ただ綺麗だなって・・・!」
「ありがと。」
頭を撫でてもらったんだっけ。懐かしいな。
彼女が俺の読んでいる本に目をつけた。
「その本、好きなの?」
彼女は目をキラキラさせてそう言った。とっても可愛かったよ。コロコロと変わる表情はとても面白かった。
「いや、これ初めて読むんだ。これ面白いの?」
「うん、すっごく面白いよ。私その本大好きなんだ。」
今度はにこっと笑ってそう言った。まったく彼女は面白い。
「そうなんだ。」
「今度感想聞かせて?」
「うん。」
沈黙。だがそれは心地良いものであった。
彼女は本を持ち貸し出しカードに書き込んで図書室を後にしようとした。
「ま、待って。」
「何?」
「一緒に帰ってもいい?」
「・・・いいよ。」
彼女は手を差し伸べたので、俺は急いで本を戻し彼女の元に行き彼女の手を取った。
あぁ、幸せだな。
俺達は図書室を後にした。
廊下を歩いていた時、誰かの視線を感じた。
あぁ、あの時に気づいていればあんな事にはならなかっただろうな。
次の日からいじめがスタート。
あだなは『人外雪女鏡音リン』から『根暗死体女』に変わっていた。おいおい、それはないだろ?お前ら何があったんだよ?今まで彼女に興味なかったんじゃないのかよ。
当時の俺の力はあまりにも微弱だったんだ。それを自分で分かっていたから俺は何もしようとしなかったんだ。本当に大事なことは何も分かっていなかったのに。気づけ気づけと願ってももうそれは意味を持たない。
俺は抑えつけていたんだ。彼女への気持ちを。恐怖と言うどうでもいい感情でな。
それでも俺は図書室に通い続けた。時間をずらすこともあったけどどうしても彼女がいる時と重なってしまう。
「鏡音さん。」
彼女は最近あまり笑わない。
「・・・何?」
「この前読んだ本だけど面白かったよ。」
「そう。」
彼女の目は本に戻された。それがなんだか悔しかった。
一人分の隙間。俺と彼女は一人分の空きを開け座っていた。その空きを埋めようとも思わなかった。
だって怖かったんだ。
彼女がいつもの様に本を借りて帰ろうとした時だった。俺は勇気を出して一緒に帰ろうって声掛けたんだっけ。彼女はいつもの様にいいよと言ってくれた。微笑んではくれなかったけど。
「か、鏡音さん!」
「何?鏡音君。」
「俺のこと嫌い・・・?」
「いや別にそういうわけではないけど。どうしたの?急に。」
「いや、なんでもない。帰ろう。」
「えぇ。」
その日から更にいじめが酷くなった。俺は徐々に気づき始めていた。
あぁ、これは俺のせいなんだ。
彼女の机には定番の落書き。
『氏ねwwww』
『教室が死体臭いんだけど・・・』
『糞ビッチ死ねなんで生きてんだよ』
うわぁと思ってしまいそうな中傷。俺は傍観者でいよう。関わると面倒だしな。
授業中も酷かったな。消しゴムのカス投げつけられたりシャーペンの芯投げつけられたりと。
こういうちまちましたことが溜まっていくといつか人間って爆発するんだぜ?
昼休み、彼女は教室で弁当を食っていた。屋上に逃げろ!早く早く!
俺がテレパシー使えたらな・・・。
「どうも!鏡音さん!」
彼女はいかにも邪魔だと言う表情をして糞女を見つめた。
「何の用?」
「あ、喋んないでよ。死体は喋っちゃいけないんだよ?」
クスクスと充満する笑い声。彼女のそれとは違う嫌な笑い方。
「しっかし、うまそうな弁当だねぇ。お母さんに作ってもらってるの?」
「いや・・・自分で作ってる。」
「そっかぁ。」
糞女は自分のペンケースからのりを取り出してかけた。何にだって?鏡音さんの弁当にだよ。
食べ物を粗末にすんなよ。
「おいおい、えーっと池沼だっけ?」
「あ、どしたの?レン。」
「いやいや、どしたの?じゃなくて食べ物粗末にすんなよ。可哀想だろ?」
「レン君やっさし~!あ、でもこれもう食べ物じゃないから。」
彼女は弁当の中身をゴミ箱に捨てた。あぁ、もったいない。てかふざけんなよ。池沼め。
「いやいや、元は食べ物だったのにお前が無駄にしたんだろ?鏡音さん食べるものないじゃん。」
俺が説教してる時も彼女無表情だったな。
「い、いや何言ってんの?レン君。」
「あー、もういいよ。行こう、鏡音さん。弁当分けてあげるよ。」
「・・・ありがと、でも別にいい。」
「俺がしたいだけ。はい、強制連行。後、面白い本教えてあげるよ。」
彼女は「本」という単語に敏感だ。
「うん、分かった。ありがとね。」
彼女と過ごした昼休みは楽しかったな。彼女は今どこにいるのだろうか。
俺はある日彼女に屋上に呼び出された。素敵な嫌な予感がしてた。
「鏡音君。」
「な、なにっ?鏡音さん。」
「私ね、鏡音君のことが好き。大好き。」
真っ直ぐな目で彼女はそう言った。あの時恥ずかしがらずに断っていなければこうはならなかった。
意地になって彼女を拒絶しなければよかったな。
「ご、ごめん。鏡音さんのことそう言う対象として見れないや。」
「うん、そっか。ありがとね。鏡音君、最後にお願いがあるの。」
彼女は屋上のフェンスを乗り越え向こう側に立った。あぁ、やめて。
彼女がフェンスを乗り越えてしまったあの時から俺と君はまったく別の存在になった。
どんな存在かは後で教える。
「か、鏡音さん!何やってんの!?戻ってきなよ!危ないよ!」
「お願い聞いてくれる?」
「うん、なんでも聞くから!戻ってきてよ!」
「ありがと。じゃあ、最後にレンって呼んでもいい?」
「い、いいよ。」
「ありがとう、レン。」
彼女は俺に背を向け飛び降りた。ずるいよ、鏡音さん。
君だけ「レン」で俺は「鏡音さん」だなんて。
ある者は彼女の死を喜び、またある者は嘆いた。
あれから10年が経ちました。俺は今とっくの昔に終わったこのくだらない人生の幕を閉じようとしています。安心してください、あなたが天国で笑っていられる様にあなたを殺したあいつらは俺が殺しました。
彼女は笑ってくれるだろうか、俺の血まみれの手を見て。
うん、笑ってくれるよね。
「リン、今行くよ。」
俺は今君と同じ存在になろうとしています。フェンスを乗り越えたのだから後はもう飛び降りるだけ。簡単だね。呼び捨てにするのを許してください。
後、今俺がどこに居るのか教えてやろう。俺の勤めている会社の屋上だ。迷惑な行為だと思うが許してほしい。
俺は飛び降りた。
初恋は決して実らない。
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BPM=172
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損失 利得 体裁 気にするたびに
右も左も差し出していく
穴ボコ開いた ジグソ...ジグソーパズル

まふまふ
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