誰もいない部屋で、一人、ピアノの鍵盤に手を伸ばした。触れた指先に冷たく硬質な感触が伝わる。ゆっくりとキィを押すと、高音が空気を揺らした。
手を伸ばし、音を拾うように奏でた。ためらいがちだった指は、勘を取り戻し軽快に鍵盤の上を踊る。
彼女に会った頃、弾いた曲。あのとき俺の演奏を彼女は楽しい音だと言ってくれた。金色の粒のようだ、と。
今の、自分が奏でている音のことを彼女はなんと言うだろう。
ルカとは高校のときに出会った。
帰国子女で、可愛い子がいる。そんな噂がまず耳に入ってきた。そして、そんな噂の彼女の姿を確認する前に、新たな噂が耳に入ってきた。
「あの巡音ルカって子、性格悪いみたいだぜ。」
昼休み、パンを齧り紙パックの林檎ジュースを飲んでいたシンの耳に、そんなことをクラスメイトが言っているのが聞こえてきた。
「それってこの間、お前が言ってた帰国子女の可愛い子のこと?」
そうシンが尋ねると、クラスメイトは大きく頷いた。
「そう。なんかお金持ちのお嬢様らしいぜ。なんつーか、お高くとまってるんだってさ。」
お高くとまってる。だなんてまさか日常会話で聞くとは思わなかった。とシンは思わず苦笑した。
「いくら可愛くても性格悪いのはちょっと駄目だな。」
「でもそれ噂だろ?」
信用できねー。と別のクラスメイトが言うのを聞きながら、ふとシンは窓の外、渡り廊下を歩く少女の姿が目に映った。
肩の上で切りそろえられた髪の毛がどこか幼く、その華奢な後姿は頼りなげにも見えたけれど、まっすぐと伸びた背筋が綺麗だと思った。
後姿だけなのに、なんとなく、どんな子だろう。とシンは思った。
それがちょうど噂をしていたルカだったことを後に知った。運命めいたものが好きだったシンはこのことを重く受け取ったが、ルカは笑って首をすくめた。
「その頃は編入したばかりで、職員室を頻繁に訪れていたもの。渡り廊下を歩く頻度だって高かったわよ。」
それに、正面から見たわけじゃないのだから、本当に私かどうかなんて分からないじゃない。
そう言う彼女は、きまってその後、それに。と付け加えた。
「私は、後姿を見られたときよりも、シンのピアノを聴いたときのほうが運命を感じたわ。」
ひかりのなか、君が笑う・1 ~Just Be Friends
Just Be Friendsの二次創作小説です。
原曲様を聞いて、PVをを目にして、心臓を鷲掴みされてしまいました。
それにしても、捏造もいいところですね。すみません。
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