雨が降っていた。
ずっと、降っていた。
生まれたときから降っていた。
笑顔が苦手だった。
赤ちゃんの時から、何処に行くにもレインコートを身に着けていた。
空は青くなかった。
いつも曇りだった。
晴れた空が見たい。
太陽を見れば、笑顔になれるのかな……?
太陽が雲の向こう側に姿を隠したのは、私が生まれた日だった。
みんなが言う。
お前のせいだと。
私になんの罪がある?
ただ生まれただけなのに。
だけど、私が悪いのかな?
ほんとに、ずっと雨なのかな?
私が死ぬまで、ずっと雨なのかな?
そんな時、あなたと出会った。
「大丈夫かい?」
耳の聞こえないあなたは、世界の悪口を知らなかった。
だから、空を懇願するように見上げ泣いている私に声を掛けてくれた。
「君はひとりじゃないんだよ」
そう言って、手を差し伸べてくれた。
その時の私には信じるコトが出来なくて、
その手がただひたすら怖くて、走って逃げた。
あなたの視線は見えなかった。
あなたの優しさは、私の背にカツンと当たって、跳ねて、返っていったから。
それは、私が5歳、あなたが11歳の出会いだった。
それから半年が過ぎたある日、私はひとつの噂を聞いた。
世界一素敵な笑顔の死人の話だ。
その頃既に私のココロの中には、あなたはいなかった。
今を生きるので精一杯だった。
世界一素敵な笑顔のあなたは、
胸に一通の手紙を抱えていた。
その宛先には、私の名が記されていた。
あなたの家族に許された私は、
あなたの弟と一緒にそれを開けた。
そこには、こう書かれてあった。
【どんなに雨が降り続けても】
【どんなに空を見上げても】
【僕はそこにいないから】
【君に家族をあげる】
【笑顔は与えられるものじゃない】
【僕の勇気が、今の君に届くといいな】
あなたが生きているうちに、
私はもう大丈夫だよって言いたかった。
あの時、きっと振り返ったら、
あなたは私に最上の笑顔を向けていただろう。
あなたの弟と結ばれて、初めての子。
その産声で、世界が晴れ渡る。
私達はあなたの死に顔を超える笑顔を見せた。
☆
声に出して読まなかったあの日の手紙の最後の一文には、
ふた粒の涙がにじんでた。
fin
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