-二十三章-
病院の中の静けさは、異常とすら思えた。
薬品の鼻につんと来るにおいが、途切れることなく病院中にぎっしりと詰まるように漂っていた。病室まで辿り着くまで、殆ど人とすれ違うことはなく、それが病院内に人気がないことを物語っていた。
「あ、あの病室ですよね」
「そのはずだな」
自然と早足になってしまう。どんよりとした空気に飲まれてしまいそうな、そんな不安が、胸に押し寄せてくるのだ。
「――帝国を攻め落とす?」
不意に、そんな声が聞こえてきた。
「ええ、このままでは一方的にやられっぱなしです。それなら、帝国に兵が集まらないうちに、帝国を攻め落とすことが必要かもしれません」
「けど、危ない気もする。相手は帝国、生半可な戦力じゃないよ。そこに、六人や七人が飛び込んでいったって、それこそ飛んで火にいる夏の虫。囲まれればそこまで。仮に数名が捕まって何人かが逃げ延びたとしても、どんな拷問が待っているかもわからない。何人かでも生き残る策を練るべきだ。けど、確かに今のうちに仕留めておいた方がいいかも」
そういったレンは、少し考え込むようにした。
それをみて、ルカがまた天井を見上げてため息をついた。
「レン、何はなしてるの」
「あ、リン、メイト兄、お帰り。ちょっとね。帰ったらじっくり話すよ。今日は帰ろうか。ルカの元気な姿も見られたし、取り敢えず満足したから」
「わかった。メイトさん、今日はありがとうございました」
そういって、リンはぺこりと頭を下げた。
それに、メイトが微笑んで答える。
「それじゃ、俺もそろそろ帰るかな。ルカ、あんま動きまわんなよ。たいしたことないらしいから、すぐに退院できるはずだ」
「ええ、ありがとう。レンたちも、気をつけて帰るのよ」
「わかってるよ。リン、行こう」
「うん!」
嬉しそうにリンが頷いて、ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにレンの後ろについて、病院を後にした。
それからしばらくしてメイトが病室を出ようとして、ふと足を止めた。不思議そうにルカがメイトのほうを見る。
「どうか、しましたか?」
「さっきの話、俺は賛成。…けど、ちゃんと俺にも相談しろよ」
「ええ、心配してくれるのはありがたいのだけど…」
「俺一人浮かれて馬鹿みたいだろ」
「…メイト…」
背中を向けたまま、ルカと目をあわせようとしないで、メイトは病室を出て行った。病室は再び静けさに包まれた。
窓の外で、木々が大きく揺れた。
既に時は初夏。
木々は青々と色づいていた。
空には大きな入道雲、地上を見れば陽炎のようにゆらゆらと揺れる風景が、また暑さを何倍にもしてみせる。小さな木陰に隠れてもせみの声がうるさい。
「…退屈な仕事引き受けちゃったわね…」
そういって、メイコはその辺にあったベンチに腰掛けた。
その日の仕事は、とある事件の容疑者の住むマンションの前で張り込みをしている、ということだった。しかし、容疑者は出かけてしまってマンションには他の住人しか出入りしていない。
コンビニで買ったカップアイスのふたを開けた。最近あまり食べていなかったせいか、甘いアイスが少し恋しいような気がしていた。
少し溶けかけているアイスを急いで口に入れると、舌に嬉しい甘みが口に広がって、メイコは顔をほころばせた。すぐに食べ終えてしまったアイスのカップを買ってきたときのビニル袋に入れ、マンションから視線をそらした。特に何があるわけでもない。
と――。
周りを取り囲む、何人もの兵士たち。
「何?」
「お前が『メイト』だな?用件はわかっているはずだ。覚悟ッ!」
「はぁ?…っと…危ないじゃない!」
そういいながら軽やかに攻撃をかわすメイコはさながら守護者とも思える、美しい身のこなしであった。
しかし、次々に襲い掛かる兵士たちに対応しきれなくなり、仕方なくメイコは拳銃サックから拳銃を抜き、兵士たちへと向けた。
「死にたい奴はこっち来なさい。私ははずさないわよ」
そういい、相手がひるんでいる隙に、メイコは見張っていたマンションの横にある路地裏へと入り込み、上手く兵士たちをまくことに成功した。
「…メイトって、アイツよね…。レンに聞けばわかるかしら」
そういって、メイコは知り合いの刑事に、張り込みを交代してもらえるかと電話をし始めた。
コメント1
関連動画0
オススメ作品
眠い夢見のホロスコープ
君の星座が覗いているよ
天を仰ぎながら眠りに消える
ゆっくり進む星々とこれから
占いながら見据えて外宇宙
眠りの先のカレイドスコープ
君が姿見 覗いてみれば
光の向こうの億年 見据えて
限りなく進む夢々とこれから
廻りながら感じて内宇宙...天体スコープ
Re:sui
Hello there!! ^-^
I am new to piapro and I would gladly appreciate if you hit the subscribe button on my YouTube channel!
Thank you for supporting me...Introduction
ファントムP
インビジブル BPM=192
とんでもない現象 どうやら透明人間になりました
万々歳は飲み込んで
ああでもないこうでもない原因推測をぶちまけて
一つ覚えで悪かったね
まあしょうがない しょうがない 防衛本能はシタタカに
煙たい倫理は置いといて
あんなこと そんなこと煩悩妄執もハツラツと
聞きた...インビジブル_歌詞
kemu
時計の隙間が 寂しくて
物足りなさが 悲しくて
わくわくしたいの
お願い!
カラフル・ミックス
○、×、△!
仲良く並べて
混ぜたらできあがり
カラフル・ミックス
赤、青、黄緑!...カラフル・ミックス
蒼井希男
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
むかしむかしあるところに
悪逆非道の王国の
頂点に君臨するは
齢十四の王女様
絢爛豪華な調度品
顔のよく似た召使
愛馬の名前はジョセフィーヌ
全てが全て彼女のもの
お金が足りなくなったなら
愚民どもから搾りとれ...悪ノ娘
mothy_悪ノP
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
リオン
その他
こんにちは!みずさん!
メイコとメイトってきっとよく似てるんですよ。メイコは男勝りでしょうしね。
小学校…あるんでしょうか?考えてみたら、リンも学校いってないし…。
メ「ダメイトとかいうな!!傷つくんだぞ!!」
レ「そうだぞ!メイト兄、案外デリケートなんだから!」
メ「俺、レオンって苦手…。怖いよな」
レ「…(こくん)。あ、マシンガンだ」
きっとメイトは全部の玉を素手でとめられると思いますよ。
レンはなんとなーくよけていると思いますね。「危ないよね」とかいいながら。
メ「あの人、あぶねぇよ!人間のやることじゃねぇよ!槍投げるとかどうかしてんだろ!!」
レ「メイト兄、あぶないよ。…あ。」
メイトさん終了のお知らせが入りましたので、次回からはメイトさん抜きで。
それでは、次の投稿で!
2009/10/17 16:52:21