ここはどこだろうか。
 見渡す限りでは、建物の屋上と見えても不思議ではない。
 手すりの向こう側には、俺が泳いできた湖と、外界と絶縁しているかのように針葉樹林が聳え立っている。
 この屋上には先程通過した潜水艇のドックの部屋にあったもの同じコンテナが数個、隅に寄せられている。
 背後では、俺をここまで送り届けたエレベーターが既にドックに向けて降下を開始していた。下にいる数人の兵士は、勝手にエレベーターが作動したと不審に感じるだろうが、大事には至らないだろう。
 しかしこの場所には、俺以外の誰もいない。
 下のドックのように何人か見張りがいてもいいはずだが・・・・・・。
 そのとき、脳内に無線のアラーム音が響いた。
 司令部からの伝達だ。
 俺はコンテナに身を隠すと無線を開始した。
 『デル。屋上に到着したようだな。』
 「ああ。」
 『そこに見張りは?』
 「いや、いない。」
 『そうか。ならば好都合だな。デル。君は今日本防衛技術開発研究所のドック連絡屋上にいる。そこから内部に潜入し、任務を遂行するんだ。』
 「了解。」
 『内部には、ウェポンズの私兵が巡回している。恐らく見つかれば生かして帰してくれないだろう。』
 「分かった。ところで、一つ質問させてくれ。」
 『何だ。』
 「この施設を占拠したウェポンズ実験部隊というのは、一体どんな組織なんだ?目的は?」
 『巨大科学企業、クリプトンが軍需産業を行っていることは知っているな。』
 「ああ。」
 『その兵器開発を専攻している子会社、クリプトン・フューチャー・ウェポンズには、開発した兵器類の性能を実戦で評価するための部隊が存在する。それがウェポンズ私兵部隊だ。』
 「だが、それがなぜこんなテロを?」
 『彼らの目的は未だに不明だ。犯行声明した今でも、目的や要求までは語らなかった。そうとなると時間を稼ぐことが目的かもしれない。』
 「時間を稼ぐ?」
 『そうだ。これはあくまで何かの準備かもしれん。現在こちらでも調査中だ。だが、やつらはクリプトン内部の極秘データを、クリプトン本社内部に存在する研究所より奪取し、さらにそれの制御が可能な技術者二名を拉致したとの情報が入った。クリプトンからだ。』
 「クリプトンはどれほどの情報を提供したんだ?」
 『自分の子会社が起こした不祥事だ。かなりの情報を提供してくれた。だが、肝心のウェポンズ社とは音信不通となっている。』
 「音信不通だって?」
 『そうだ。クリプトンもウェポンズのことに関してはその全てを把握しきれていないだそうだ。』
 「自分の傘下の子会社だろう。」
 『どうやらウェポンズはその性質上、実態を持たない影の組織といっても過言ではない。時たま本社と連絡を取り合い、世界各地を転々とする根無し草だったそうだが、ここ一年本社との連絡も取れていないらしく、完全に消息が途絶えたのだ。』
 「一体どんな組織なんだ。」
 『クリプトンの子会社で軍需産業を専攻する、としか言いようが無い。』
 「今回のテロリズムに直接関わっているという可能性は?」 
 『・・・・・・分からん。調査中だ。だが、その可能性も無いとは言い切れん。なぜならその研究所はウェポンズとも深く関わり合いがある施設なのだ。』
 「クリプトンと軍の関係なら知っている。例のウェポンズも、軍にかなりの兵器類を提供したと耳にした。」
 『そうだ。もしかすると大きく関係があることもありえる。情報が入り次第、すぐに連絡しよう。』
 「分かった。」 
 『そうそう、言い忘れていたが、今回、作戦に参加するのは君だけではない。』
 「俺以外にも施設に潜入している人間が?」 
 『ああ。こちらは警察機関の部隊だ。極限状態での隠密行動に長けた特殊部隊だ。数人程度で潜入している。目標は君と同じだ。』 
 「彼らと遭遇することは?」 
 『大いにあるぞ。恐らく任務の途中で君と彼らとのランデブーポイントを指定することもあるかもしれん。彼らとの協力も考えておいてくれ。』 
 「なるほど。警察も動員されているということか。」
 『この作戦には我々陸軍特殊戦術工作部隊のほかに、今言った警察、空軍が協力してくれている。何せ、今や政治までも牛耳っているクリプトン直々の依頼だ。かなりの組織が動いている。』
 「ふむ・・・・・・。」
 『が、今回の主役は君だ。デル。これが初陣だろう。』
 「そうだ。」
 『なら、がんばってくれたまえ。我々は君の活躍に期待している。』
 「・・・・・・。」
 『では、説明はこれくらいにしておこう。デル。先ずはそこから施設内に潜入するんだ。そして第一の目標、クリプトン科学者である網走博貴と同じく科学者の鈴木流史を救出することだ。』
 「了解。ところで、あんたのことはなんて呼べばいい?」
 『そうだな・・・・・・ゴッド少佐と呼んでくれ。』
 「なんだそれは?」
 『この部隊が創設されるまで、俺は空軍少佐をしていた。だが、一騒動あってな。俺は陸軍の参謀部に転職した。そしてこの部隊に配属されたのだ。ゴッドというのは、そこの空軍基地にあったAWACSのコールサインから取った。』
 「・・・・・・。」
 『無線の周波数は、145.88だ。何かあれば連絡してくれ。こちらも中佐で何かが判明したらすぐに連絡を送ろう。そこから十キロ離れた通信車両から無線でサポートする。では、健闘を祈る。』
 「了解。任務を遂行する。」
 無線を終え、俺は立ち上がった。
 改めて見渡すと、すぐに施設内部に侵入できそうな扉が目に付いた。
 コンテナを入れるためにかなり大柄だが、ここ以外に中に入る方法はなさそうだ。 
 俺は扉のノブに手をかけ、音を立てないようにゆっくりとスライドさせた。
 そのとき、僅かだがある音が遥か上空から響いてきた。
 飛行機のエンジン音だが、これは恐らく空軍機のものだろう。
 俺はかまわず扉をスライドさせた。
 
 
 『こちらホークタロン。現在高度一万フィート。残り一分で目標地点上空へ到達。ドローンの再チェック。機体異常なし。ガストなし。電圧、油圧、共に正常。エンジン異常なし。現在、ドローン切り離しに問題なし。』
 『了解ホークタロン。予定空域に到達しだい、ドローンを切り離せ。』
 『了解。間もなく射出する。切り離し地点まで、残り三十秒。ドローン各部ロック解除。エンジン点火。秒読みを開始する。・・・・・・・切り離しまで、10秒。9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・ドローン離脱。』
 
 
 何だ、この音は・・・・・・。
 
 
 『こちらホークタロン。ドローン離脱を確認。これより帰投する。RTB。』
 『待て、ホークタロンへ警告!正体不明のレーダー反応あり!貴機へ高速接近中!』
 『こちらでも確認した。何だ、これは・・・・・・!!』
 『確認したか?!』
 『赤い何かが追いかけてくる!これは航空機なのか?!ミサイルなのか?!』
 『ホークタロン回避しろ!!』
 『駄目だ!振り切れない!!ひぃッ・・・・・・うわぁぁあッ!!!』 
 『ホークタロン!応答しろ!!ホークタロン!!』

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORs OF JIHAD 第十二話「状況」

デルさんってどうも影薄いんですよねぇ。

閲覧数:140

投稿日:2009/06/11 00:18:45

文字数:2,974文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました