巡音の片恋 2

投稿日:2011/08/24 15:04:13 | 文字数:2,348文字 | 閲覧数:46 | カテゴリ:小説

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巡音の片恋(めぐりねのかたこい)。


ルキ→ミク。
続編予定中。

「無自覚片恋」がテーマなのですが、しに難しかったです。
最後にはこいつ(=ルキ)馬鹿だ! って思いましたもん。
本当は私の脳みそが、なんだけど。

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TEXT
 

 あの日以来、彼女は気に入った曲が見つかる度に俺の処に来ては、彼女だけの指定席に座り、曲を聴かせてくれるようになった。彼女のオススメは、必ずしも俺の好みに当てはまるわけではなかったが、ひとつの曲に対して意見を云い合うことは、純粋に楽しかった。
 彼女のオススメが俺の好きな曲として増えてきた頃、またあの人の新曲がリリースされた。始まりはいつも、あの言葉。今回も、また。

「聞いてー、ルキ君!」

 走ってくる彼女に対して、俺は笑顔で言葉を返す。

「ルカ姉の新曲、だろ?」
「えー、チェック済みー? ルキ君もついにルカさんのファンになったんだね。良かった良かった」
「いやなってねーから。調べものしてた時に、偶然見つけて知っただけ」
「えー、つまんなーい!」
「出たな、ニジイロ。
 てかつまんなくねーよ。ほらさっさと流せ」
「なんだかんだ云って聴きたがってるくせにー」
「はいはい。早く聴きたいので早く流して下さいお嬢さま」
「はーい! わっかりましたぁ!」

 ノリノリで応えた彼女に、俺もニジイロ式に応えてやる。

「こいつ、ホントに分かってるのか」

 本当はルカ姉の科白なんだけど。ま、いっか。

「はーい、スタート!」

 その言葉を境に、彼女は流れ出す音楽に没頭し、俺も耳を傾け始める。だが今日はいつもと何かが違っていた。いつものように、彼女は俺の膝に座っていて、彼女のケータイから姉の声が聞こえてくる。
 なのに俺は、目の前にある緑の髪しか見えなくなった。

 同じ方向を向いている彼女には、一体何が見えているのだろう。俺が見ているものを、彼女が見ることは出来ない。そして同時に、彼女が見ているものを、俺が見ることも出来ないのだ。
 彼女の目の前にあるものが判ったとしても、彼女がその中の何に視線を注いでいるのか、俺には判りえない。あるいは、彼女は何も見ていないのかもしれない。聴覚が拾う刺激のみを、脳は感じているのかもしれない。
 ならば、俺が触れても、彼女はそれを感じないだろうか。
 ならば、流れる水のようなこの髪に、触れてもいいだろうか。
 手を伸ばせば確実に届く。けれど、歯止めが掛かる。
 壊れてしまうのは、失ってしまうのは、……嫌だから。


「やっぱりいい曲!」

 はっと我に返る。

「ね、どうだった?」

 いつもと同じ質問。違うのは、俺だけ。彼女には何の異常もなく、俺のそれにも気づいてはいない。

「ああ、まあ良かった、な」

 はっきり云って、ほとんど聴いていなかった。

「んー微妙かー」
「いや良かったっつったじゃん」
「その前に“まあ”って付いてたじゃん。本当に良かったって思ってる時にそんな言葉付くわけないもん。
 むー。でも確かに今回のは……」

 彼女はこの曲の歌詞に少し不満があるらしく、一人で語っている。その上に、言の葉が注がれた。

「え? ルキ君今なんて云ったの?」

 中途半端に聞こえたらしく、見上げて聞いてくる。

「……ルカ姉の女王様キャラ、定着してきてるな、って」
「ああ! そうだよねー。だってルカさん似合っちゃうんだもん」
「……ファンとしてどうなの? それ」
「え、何が? 似合ってて恰好良ければわたしは全然構わないよー」
「……ふーん」

 零れた言葉は、空気に喰われて消えてしまった。だがそれは確かな種となって、俺の中に植え込まれた。

「ミク、」

 帰るね、と告げた彼女の名を、静かに呼ぶ。

「何ー?」

 彼女はすでに立っていたが、呼び掛けに振り向く事なく先ほどの歌を鼻歌で歌っている。その相変わらずな様に、どう切り出せばいいのか、迷う。
 なかなか続きを云わない俺にしびれを切らしたのか、彼女が振り向いたその時、言葉は紡がれた。

「曲さ、もういいよ」

 俺はまだ座ったままの状態で、彼女の顔を見るために目線は上に向けていた。だからはっきりと彼女の顔、そしてその表情が見えていた。
 いつもとは違うアングルで映し出された彼女は、こちらを振り向いた時から、いや、俺が言葉を発した時から、固まっていた。彼女のそんな姿を、俺は今まで見たことがなかった。常に浮かんでいた笑みが、波にさらわれて消えてしまったかのようだった。
 そう長くはない間のあと、その顔に困惑の表情が浮かび、それに相応しい応えが返ってきた。

「……え、もういいって、どういうこと?」
「もう、曲聴かせてくれなくていいから」

 少しだけ、突き放すような口調で答えた。彼女がもう、俺の処へ来ないように。

「……やだ!」

 しかし、突然彼女は泣き出した。こんなに激しい反応が返ってくるなんて、予想外だった。

「ちょ、おい」
「やだよ、わたし。だってルキ君と曲の話するの楽しいんだもん。ルキ君にとって必要じゃなくっても、わたしにとっては必要なんだから!
 聴くのやめるなんて、絶対許さないんだからー!」

 彼女は駄々っ子のように泣き喚く。赤子の泣き声を何とかして止めようとするかのように、俺は思わず立ち上がって駆け寄り、彼女をなだめた。

「わ、分かった。ともかく泣きやめ」
「……泣くのやめたら、これからも曲、聴いてくれる?」

 ちら、とこちらを窺いつつ聞いてくる彼女に、観念して云う。

「あー、うん。聴きます、はい」

 俺の言葉を聞くや否や、破顔して一言。

「やった!」
「って泣きやむの早すぎだろ! 嘘泣きだったのか!?」
「嘘泣きじゃないよ。ちゃんと泣いてたって」

 ちゃんと泣いてた、って何だ? ……もう何も云うまい。

「じゃあわたし行くね。また来るからー」

 涙の痕を見せず、彼女はにこにこと去っていった。

詩作専門。時々短編。

love Luka!

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