[俺の高校時代]
高一の半ば。俺はいわゆるワルだった。
つっても、 決して授業はサボらないし、ド派手な喧嘩はしない。
授業中はボーっとして過ごし、先生の指導は無視。そういうワルだった。
ただ、毎日が辛かった。
先生の前で猫かぶるのはヤダ。でも、「お前といるとこっちまで怒られる」と、誰も寄り付かなくなった。
独り。そう、リンとは別の意味の、独りの世界。
俺は周りの人間を憎んだ。お前らなんかこっちから願い下げだ、と。
本気で学校をサボろうかと思いながら通学路を歩いていた、その日。
ミクと出会ったんだ。
いや、出会ったってのはおかしいな。通学路脇の孤児院の子だから普段からよく見かけていたし、向こうも気づいていた。
初めて言葉を交わしたんだ。
ミ「ねえ、辛い?」
俺「は?何でオメーに俺のことがわかんだよ。」
ミ「顔に書いてある。」
幼いミクは短い人差し指を向けた。「うそっ」とか口走ったっけ。
ミ「うそ。そんな顔してた。いーっつもしてる。」
俺「そんなもんなのか。ま、そーだとしてもオメーにゃ関係ねーよ。」
ミ「ある。」
俺「はっ、言ってみろ。今日は時間がたっぷりあるからな。付き合ってやるぜ」
ミ「付き合ってくれるの?」
俺「ああ。だが俺はガキが嫌いだ。手っ取り早くな。」
ミ「結局どっち?」
俺「ああもうウゼえ!そこの公園行くぞ。ここだと通行人の邪魔だ。」
そんで、孤児院近くの公園のベンチで話すことになった。そこの孤児院の外出規制は緩いらしい。
俺「ってゆーかまず名乗れ。」
ミ「名乗れって言った方から名乗るべき。」
俺「……。」
ミ「私はミク。未久・F・サウンズ」
俺「外国人かよ。どーりで髪が緑だと思ったぜ。」
ミ「……それについては触れないで欲しい」
俺「分かった。お前、日本語上手(うめ)えな」
ミ「言わないでって言っている。」
俺「んだよ、ノリわりーな。で?話がしたかったんだろ?」
ミ「そう。あなたの今の悩みが聞きたい。」
俺「悩み?俺の悩みを解決しようってのか?どんだけ善人なんだお前は。」
ミ「悪い?」
俺「理由を教えろ。納得できなきゃ帰る。」
ミ「好きだから。」
そーだなー。びっくりした。
だって年下の女の子から「好きだ」って言われたことなかったし(リンを除く)。
あの時の、言った直後に赤面するミクの顔が印象的だった。
なんてゆーか、語調の強さとのギャップがやばかった。
俺「俺ら喋ったこととかねーじゃん。」
ミ「一目惚れ、だった。」
どんどんうつむいていくんだぜ?今だったら可愛過ぎて抱きしめてるね、絶対。
ミ「半年前の、まだ元気そうだったあの頃のあなたはカッコよかった。それが、日が経つにつれてやつれていった。私はそんなの見たくない。」
その後もいくらか弁明(?)は続いた。
で、「コイツ関係ねーからいーや」と思って口にした。
俺「俺は他人が信じられない。この身分社会が嫌なんだ。」
ミ「身分は問題?」
俺「だって考えてみろ。お前んとこはどーかしらねーが、今まで一緒にバカ騒ぎしてた奴らも、高校入ったらすっかりだ。
マジメなイイコチャンもどきになるんだぜ?
いい大学に行くために、先生から良い評価が欲しいんだ。それだけのために仲間を捨てていく。
俺の意なんか誰も汲んじゃくれねえ。大人に媚びうるクズどもだ。」
ミ「あなたは捨てられたの?」
俺「そうさ。結局は我が身可愛さゆえに不要なものを切り捨てていく。
見た目は白いけど、中身は真っ黒な人間になんだよ。」
ミ「あなたは愛されなくなったのね。」
俺「端的に言うとそうだ。って、これじゃわからねーか。簡単に言うとそうだ。」
ミ「あなた、本当は優しい。私の思っていた通り。」
俺「は?!」
ミ「だって、『人が信じられない』のにけっこうすらすら喋るし、通行人の邪魔だっていって移動した。
今だって、私のために言い換えまでしてくれた。」
俺「あ……。」
ミ「愛が足りてない。自分は愛そうとしているのに、人から愛されてない。その反動がそうなっているんじゃない?。」
ミクは笑った。精一杯の笑顔だったんじゃねーかな。
俺「仮にそうだったとして。仮に、だぞ?どう解決する?」
そしたら、ミクは歌いだしたんだ。
さあ 歌いながら行こう
あなたの笑顔が誰かを きっと幸せにするよ
世界は変えられるよ
小さく些細な愛の魔法で
あー 今日も繰り返す退屈な毎日
ため息ついて 今日も過ごすつもり?
んー 天気もいいし良いことあるかもよ
さあ 元気を出していこう
しょぼくれてても 変わらないよ
とっておきのパワーをあげる!
さあ 歌いながら行こう
あなたの笑顔が誰かを きっと幸せにするよ
世界は変えられるよ
小さく些細な愛の魔法で
サビと思われる部分は、同じ言葉の繰り返し。それが余計に俺に印象を深めた。
たぶん、いや、きっとこの歌のせいだな。
俺がミクを好きになったのは。
ミクはフゥとため息を一つついて、
ミ「もう一度訊く。付き合ってくれる?」
俺「……わかった。いいだろ。これからよろしくな」
どちらからともなく握手した。そんで俺は少し遅れて学校に行った。
そう、笑顔で。
[モモサイド]
マスターのこと、もっと知りたいとは思っていましたが、こんな過去があったなんて。
そして、こんな素敵な彼女さんがいらっしゃったなんて。
この方と暮らすのであれば、マスターは十分幸せになれるのではないでしょうか。
……!
あれ、わたし、目から水が……。涙の機能も付いてたんですね。
これは、マスターの過去が悲しいから?
それとも……、
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そんなことを言って本心は欲しかったのは共感だけ。
欲にまみれた常人のなりそこないが、僕だった。
苦しいから歌った。
悲しいから歌った。
生きたいから歌った。ただのエゴの塊だった。
こんな...君の神様になりたい。
kurogaki
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