「……嘘だ」

 ――唯一つ――

 僕は、泣きそうな顔で呟く。
 でも、悲しいほどにそれは現実で。
 そう、それは―――“終末”
 人が、次々と消えていく。村の真ん中にある、直径10センチくらいの、小さな穴から矢が飛び出していく。そしてそれはどんどん人に刺さっていく。
 刺さった者はその痛みに叫び。
 友が倒れるのを見た者は受け入れたくない出来ごとに叫び。
 そして何人かはすでに、狂っている――

 そこで、君が村にたどり着く。君は息を切らし、
「ねえ、一体何が…」
 しかし君は村に起こっている事に気づく。その『地獄』のような光景を見て、そこに崩れ落ちる。
「何、こんなの……こんなのって、………や、やだ…」

 ―願いをかけるとしたら…?―

 君は顔をぐしゃぐしゃに歪めて、涙をこぼす。いつもは笑っている君が、涙をこぼしている。
「………ねえ、“カミサマ”」
 僕は呟く。
 『唯一つ、願いをかけるとしたら…?』
 僕は、君のもとへウタを届けたいな。
 君が笑ってくれるように。
 僕が笑えるように。
 たとえ僕がいなくなっても、ずっと世界を巡る、メグル、メグル、最後のメロディ…
「……」
 そこで、僕は最悪の事に気づく。今、もう村の人らしき人はほぼ、生きていない。そして視界に映る限りの最後の人がこっちを見て、
「た、助け……」
 しかし、言葉の途中で倒れる。見ると背中には、あの矢が刺さっていて。

 そして今度は、矢は僕らの方へ向かってくる。
「………!」
 違った。僕の方に矢は来なかった。矢は、君の方へ向かって飛んでいた。
 しかし君は、動かない。ただ、泣いているだけで。
「…」
 僕は迷わず、矢と彼女の間に立った。そして君の手を握る。君は一瞬驚いたようにこちらを見るが、ぼくは何も言わず、ただぎゅっと手をにぎる。
「いつか、矢が出てこなくなるまで、こうしていて」
 僕は微笑む。
 ――そして、君が生きて笑ってくれるように…
 その為なら僕は、消えてしまっても構わないよ。

「…ッ!」
 そこで、背中に矢が刺さった。痛みが体を襲うが、僕は笑顔を崩さない。
 ――君が涙の海に身を投げても、この握りしめた手は、離さないから。絶対に、君を引き上げるから。
「こんな、白い嘘だらけの世界なんて、消えても構わないから」
 どうせ、この景色は、全てニセモノ。どうせもう此処は――
 僕は一度目を閉じる。そして願うように、言った。
「昨日の、旅の終わりの夢に見た存在に僕は――なれますように。なれますように」
 僕は、目を開けた。
 もう、何本も矢が刺さっているけど、気にせずに。
 そして、笑顔で君を誘うんだ。

「ねえ、歌おう?」

 君は僕が握っていない方の手で涙をぬぐい、静かにうなずく。


                 さあ、いつまでも歌オう。
              世界が終ワッても、終わラないウタを。
                   いツマデモ。
                 ネエ、準備はでキタ?
                 じャアホラ、歌オウ。
                オワラナイウタヲウタオウ。
               僕ガ終ワッテシマウマエニ…



                                END

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

――僕ガ、終ワッテシマウ、マエ、ニ

いやあ、私の妄想は計り知れない…

何はともあれ、読んでくださってありがとうございました

閲覧数:270

投稿日:2010/02/28 16:45:24

文字数:1,403文字

カテゴリ:小説

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