只時間が過ぎていく、惰性の様に生きている・・・。
そんな言葉が頭の中で、浮かんでは消えていく。なんの変哲も無い普通の生活。
流れに身を任せたまま俺は普通に高校に通い、つまらない授業を受けている。
高校生活も残すところ一年、将来なんて考えもしない、普通にどっかの会社に就職して仕事をして・・・社会の一部として生きていく。
俺は授業を受けつつも内容など頭に入らず、そんな事を考えながら窓際の席から外を眺めていた。五月に入って桜の木は青々しい葉をつけていた。
(生きてることに、意味はあるのか・・・)そんな考えを自問自答していた。
この手の考えは答えなんてあってないようなもの。結局、自分で探さなきゃいけない『何か』なんだと思う。「つまんね・・・」そんな言葉がこぼれた。
「ほう、君は私の授業がつまらいと言うのだね?風間 奏音(かざま かのん)君」
目の間には引きつった顔の数学教師が仁王立ちしていた。
「あ、いや・・・」俺は苦笑いをするしかなかった。
周りのクラスメイト連中は、そんな俺を見てクスクスと笑う。確かにこの数学教師の授業はつまらない、それは皆解ってる事だった。
それからの罰として出された問題はもちろんまともに聞いてなかったということもあり散々な結果になった。
授業が終わった後は、友人達による冷やかしを受ける。どこにでもありそうな風景だった。
「よう風間、言うようになったな~」
笑いながら俺の肩に右腕をもたれ掛けたのは腐れ縁の柏木 勇一(かしわぎ ゆういち)だ。
「ん、ああ・・・。本当はあいつに言ったんじゃないけどな・・・」
「じゃあ、なにがつまんないんだよ」
「別に・・・」
そう言って、俺はまた窓の外を眺める。
「ん、なんだ?面白いもんでも見えるのか?」柏木も同じように外に目をやる。
「なんか、面白いことでもないかな・・・」ポツリと俺は言葉を溢す。
「面白いことね・・・」
柏木は俺にかけた腕を解くと、すっと背筋を伸ばして外に目をやる。
「とりあえず、飯だ!」柏木が声を張り上げる。
そう今は昼、そして昼食を取る事が俺達のやることだった。
「じゃ、俺惣菜パン2つに牛乳な」
柏木に告げて俺は右手を上げてヒラヒラさせる。
「はぁ!?買って来いってか、ざけんな!じゃんけんだろ!!」
大概俺が勝ってる買出しじゃんけんが、俺達の日課だった。
「あ~、しょうがねぇな・・・。はい、じゃ~んけ~ん・・・」
結果、買ったのは柏木だった。
俺は渋々教室を後にした。購買は結構な数の連中でにぎわっている、その中に体を潜り込ませて行き目的の物を買って直ぐにソコから抜け出す。正直重労働だった。
教室に戻ると、柏木は俺の机に腰掛けて外を眺めてた。
「すまん、お前の忘れた」
急に声をかけられた柏木は、素っ頓狂な顔で俺を見る。
「またまた~、それじゃあわざわざじゃんけんした意味ないじゃない」
「それもそうだな、ほれっ」
持っていた紙袋を柏木に投げ渡す。
「屋上行こうぜ」
そう言って、俺は教室を出る。
「お、おい、待てよ!」
いつもは教室での昼食だった為、急の俺の言葉に驚いて机から飛び降りて俺の後に続く。
「珍しいな、屋上なんて・・・」
「なんとなくな、今日は天気も良いし」
俺は、廊下の窓から外に目をやる。快晴も快晴、空一面の青だった。
だけど、俺の心は何故か不思議と落ち着かない。意味も無く外の空気が吸いたくなったのだ。
屋上に着くと、周りでは思い思いの昼休みを取る生徒達が居た。俺達は開いてる場所を見つけて腰を下ろす。
「で、なんで屋上なんだよ?あ、数学のアレでへこんでんのか?」
なんて、冷やかしじみた事を言われるが俺には上の空だった。
「いや、良く解らない。本当に何となくだ」
そう言って、買ってきたパンをほうばり空を見上げる。
小さい頃高い場所で一人パンを食べて空を眺めてた事があったのを思い出した。
なんで空は青いのかとか、空を飛んだら気持ち良いだろうなとか考えていた。
そんな時に後ろから急に声を掛けられた。
顔も、声も思い出せない・・・でも俺はその人物と何か約束をした記憶があった。
だが、約束すら思い出せない・・・。
何故急にそんな事を思い出したのか、不思議に思った。
「どうした?いつもぼうっとしてるけど、今日は特にヤバイな」
口にパンを頬張っているのだろう、くぐもった声がする。
「食うか、しゃべるかどっちかにしろよ・・・」
当たり前の突っ込みを入れる。俺は声の主に目を向けた、口のものを一生懸命腹に入れている。
ようやく、食べ終わった柏木が再び口を開いた。
「なんか、あったのか?」
その質問に返す言葉が思い浮かばなかった。「別に・・・」そう答えるしかないのが現状だ。
確かに、周りに目が行かず何かを考えこむ訳でもない。急に小さい頃の記憶がふと沸いてきたがそれも何故か解らない・・・。
「なんだか、頭の中がグチャグチャする・・・」
そう言葉を溢す。
「鬱か?」
「いや、違うだろ!」
真面目な顔での柏木の一言に噴出す。
だが、その一言で俺はすぅっと頭の靄見たいのが晴れていく感じがした。
何故かは解らなかった、ただ大きな声を出したからだろうか・・・。
午後の授業も相変わらず退屈に感じながら過ごした。
放課後になって、俺は直ぐに荷物を鞄に押し込む。
「なんだ、もう帰るのか?」
横から柏木の声がする。
「ああ、バイトだよ」そう言って柏木には目もやらずに作業をする。
「相変わらず真面目なこって・・・」
あきれたような声がした。
俺は部活とかには所属してない、中学まではバスケットをやっていたが別にうまいわけでもなかった。
柏木とはその時に知り合った、様は中学からの付き合いになる。同じ高校に入って、柏木は当然のごとくバスケ部に身を寄せた。
柏木は当然俺も入ると思ってたようだが、俺は結局入らなかった。当時は、こいつとそれでよく揉めたが今では諦めた様だった。
何故バスケを止めたか・・・、俺にも良く解らないが『しっくりこない』そんな感じで様は打ち込めない、集中できないからだ。
そんな感じを引きずったせいか、俺はどの部活にも興味を示さなかった。
高校生活の最初の一年は、授業が終わって家に帰ってごろごろする毎日だった。
二年目になるとそれを見かねた親父が、知り合いのやってるというリサイクルショップのバイトをほぼ強制的に押されらた。
俺も、特にやることも無いのでそれに従った。
接客や、レジ打ち、品物の整理等色々な仕事をこなしている。店の店長は親父の同級生という事らしい、とても気さくな人だった。
「じゃ、行くわ」
俺は鞄を小脇に抱えて席を立ち上がる。
「おう、がんばれよ~」
教室を後にする俺に柏木が手を振る、俺もそれを軽く返す。
バイト先は高校と家の間くらいに位置するので、丁度帰り途中で仕事するという感じだった。
決まった制服が無いので、制服の下のシャツにエプロンといった感じで仕事している。
リサイクル品を扱うので、中には汚れているのもあるからだ。
店について、周りの店員に軽い挨拶をして奥に入る。タイムカードを押して、ロッカールームで簡単な着替えを済ませた。
本来タイムカードの所に居るはずの店長が居なかったので、挨拶をするのに探し回る。
別に顔を出したときにすればいいのだが、俺と店長は違った。知り合いという事や、仲が良いとかそんな
感じで来たら挨拶みたいな習慣が俺にはあった。
店の倉庫で『おやっさん』を見つける。『おやっさん』は店長、岸崎 裕也(きしざき ゆうや)の事で親父と同じ年齢というのもあって俺はそう呼んでいた。
「ちーっす」軽い挨拶で倉庫に入っていく。
「ん?ああ、よう奏音か」
倉庫の真ん中でおやっさんは、火の付いてないタバコを咥えて一つの大きな箱と睨めっこしてた。
「なんすか、それ?」
俺はおやっさんと、大きな箱に近づく。長方形の箱、言うなれば棺に近い感じだ。
箱は空いていて、中を除くと中には青みががった緑色の髪の毛を二つに結った少女が横たわっていた。
少女を見て直ぐに解った、彼女はロボットだ。
技術が発展していった昨今、ロボットは人社会に当たり前になった。最初は鉄のフレームが
むき出しのロボット達、だけど次第にそれは人に近い形に変わって行った。
今では一見しただけでは、人とそう大差は無い。
「初音ミク・・・」
俺の口から言葉が漏れ出す。
「有名だからな、知ってて当然か・・・」
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