今日のミクさんと私は、一味違う。
今日は朝から、私達は作曲に取り組んでいるのだ。

私達が作るこの曲は、自分達の目指す声や音を練り込んで、少しずつ出来ていく。
近い将来、この曲を発表する、その日まで。


私がそのような事を考えていると、耳に聞こえていた歌声が、ぴたりと止んだ。
丁度、ミクさんの輪唱が終わった所だ。

「少し休憩しましょうか。」

こくっと頷くミクさん。
私は、冷蔵庫から、ミルクを取り出す。
ミクさんは机の上に、コップを2つ並べる。

「さっきのミクさんの声、2人分一緒に出ていましたよね。」

コップを持ったまま、こっくりと頷くミクさん。
私は、取り出したミルクを、2つのコップに注いだ。
ミルクを飲んで喉を潤したミクさんは、返事の続きを言葉で伝える。

「私、16人分歌えるよ。」
「すごいですね。」
「えへん。」

胸を張って、得意顔で返事するミクさん。

初音ミクは、最大16人分の声で同時に歌う事が出来る。
1トラックに付き1人分、16トラックで16人分の声を出せるのだ。
私は、その仕組みについて知りたくなったので、ミクさんに質問してみた。

「ミクさんは、その時、どのように歌っているのですか。」
「左腕を操作しながら。」

彼女の左の長袖には、シンセサイザーらしきものが付いている。
私はただの飾りだと思っていたけれど、必需品との事だった。

「そのシンセって、歌う事が出来るのですか?」
「「R」で録音。簡単だよー。」

彼女は、笑顔で種明かしをしてくれた。
なるほど。歌う時に、一緒に再生するのですか。


私は過去の記憶を呼び起こす。
先ほどのミクさんは、輪唱の前に「R」の操作を私に要求してきた。
前回歌ってもらった時も、2トラックになると必ず「R」の操作を要求してきた。
前々回の時も、そうだ。

という事は、、、

私は、得意顔のミクさんを、長く眺めていたかった。
だから私は、彼女に聞こえないように、頭の中でこっそりと呟(つぶや)いた。

あなたが本当に歌っているのは、1トラック。1人分だけだったのですね。ミクさん。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

分身するミクさん

「ミクさんの隣」所属作品の1つです。

まとめ読みしたい方は、ブックマークなどからどうぞ。
ブックマーク = http://piapro.jp/bookmark/?pid=to_dk&view=text&folder_id=173153
to_dk作品紹介(ブログ) = http://tounderlinedk.blogspot.com/2010/07/blog-post_4264.html

閲覧数:62

投稿日:2011/02/17 00:27:24

文字数:885文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました