―ああ、今日も始まった。
少女がつまらなさそうに溜息を吐いた。
それに反応するかのように、大量の男達が彼女の回りに押し寄せる。
「リン様、今日もお綺麗で」
「リン様、どうぞ私とお付き合い下さい」
「リン様、このような下人などと付き合ってはいけませんよ、どうぞ私と」
「誰が下人かこの低級貴族が!」
すみでは乱闘が始まり、目の前では名も知らぬ貴族がグダグダと愛を語っている。
この中の誰かと一度でもお話したことがあったかしら、と彼女は少し考えた。
「ごめんなさい、私、口先だけの告白を見破る力だけはありますので」
彼女は仕方なくそれだけ言い置くと、ヒールのせいで走りにくいながらも逃げるように奥のバルコニーに走っていってしまった。
「どうせ皆、御家柄目当てだわ。
私が、高級貴族の娘だから。
資産家の娘だから、それだけで告白するんだわ」
少女―リンが溜息をつく。
白い手すりを縋る様に掴みながら、元来た場所を見つめる。
広い宮殿の一室、シャンデリアが煌びやかに点き、オーケストラが奏でる優雅な音楽。
そして、その空間で舞うごとくに踊る貴族達の笑い声の全てが、リンの憂鬱を構成していた。
「皆、本当の愛なんて知らないのよ、ただ語っているだけ」
正面を向き、静かに夜風に当たる。
慣れない走りで火照った頬を、優しく冷やしてくれた。
何と無く上を向く。
「……綺麗ね」
美しい星に混じって、二つ密着するようにして黄色く輝く星があった。
「やっぱり人工的でないものを見ると、心が休まるわね……」
「リン様?」
横から声がする。
「え……」
横を振り向くと、自分と同じ金髪の少年が居た。
「あ、すみません……あの、一緒に踊りませんか?」
今までの愚痴も聞いていたのだろうか。
何よりも、彼の気配に気付かなかった自分がショックだった。
「え?あ、ええ、ぜ、是非」
いつもならやんわりと断る所だろう。
動揺を隠せず、ただ返事をしてしまった。
だが少年はどうやら気付かず、リンの手を取って傅き口付けた。
「っ……!」
「それ」は知識としては知っていたものの、されるのは初めてのことだった。
自分の頬や体が、熱くなっていくのを感じる。
「どうかなさいました?」
少年が心配そうに声をかける。
「いえ、大丈夫です……ワルツですね」
テンポの良い三拍子の音楽が流れる。
それにあわせて少年が踊りだし、リンも戸惑いながら踊りだす。
それはお世辞にもワルツの踊りとは言えないものだったのかも知れない。
だがリンは、自分の中で少年を信頼し、何か言いようのない感情が生まれるのを感じた。
とても短く感じられたその時間が幕を閉じる。
ワルツが終わるのと同時に、終わりを告げる十二時の鐘が鳴った。
「もう、終わり……」
リンは落胆した。
次はもうこの少年は来ないかもしれない。
ならば、せめて。
せめて、名前だけでも。
「あ、あの!貴方のお名前は?」
リンが挨拶をして立ち去ろうとする少年の背中に叫ぶ。
少年は振り返ると、
「僕はレンと言います」
と柔らかく名乗った。
「レン……また、来てくださいますか?」
不安そうに問うとそれを感じたように、
「御嬢様が望むのなら、毎日」
にっこりと笑い、そう告げた。
「……!」
リンが嬉しそうに顔を輝かせる。
レンも嬉しそうに、その場を立ち去った。
それから何日が経っただろうか。
レンは本当に毎日来て、リンと何かしら喋ったりして帰っていく。
あんなに気だるかったパーティが、楽しみに変わっていた。
「今日は、全ての告白を一つ一つ丁寧に断りましょう」
自室でぬいぐるみに話しかける。
「私ね?レンの事をお母様にお話したのよ。
でもね、お母様やお父様は言ったわ」
『所詮子供のお遊び』―
リンはこれにただならない憤りを感じた。
「でも私思うの。
お金目当てで近付いてくるくだらない方々と政略交際して政略結婚するより、自分のために生きることの方が断然素晴らしいって!」
ベットに横たわりながら、くすりと笑う。
「だから、いっそ皆の前でレンの事を言ってしまおうって訳。
まぁこれは、レンの提案なんだけどね」
リンが歌うように言う。
夜が待ち遠しかった。
「お待たせしました、リン御嬢様」
レンの声がする。
「待ってないわ」
振り返り、にっこりと微笑む。
「ねぇレン、あの計画を実行する為に真ん中に行くわ。
だから……追いかけて?」
リンが楽しそうに走り出す。
「……喜んで」
―その先の物語は、まだ彼女達の胸の中。
【小説】temptation【リンキャラ崩壊】
時雨様の絵に私が歌詞をつけたものを小説化してみた産物。
時雨様の絵と小説が素晴らしすぎてイタタタタタ。
【時雨様の素晴らしき元イラスト】
http://piapro.jp/content/zru8s07g2qy8k8lf
※一番最初のリン、「私を助けて」
【璃詫の残念な歌詞】
http://piapro.jp/content/h9wjg67htl0zoxc9
時雨様の小説は時雨様のページにありますよノシ
許可が出てないので貼り付けられませんでしたが(汗)
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