リンはその光景をじっと後ろから見守っていた。そして、ぽつりとつぶやく。
「ま、マジかよ・・・」
化粧台の前には、見事なアーモンドグリーンをツインテールに結わえた美少女の後姿あった。グリーンの髪はもちろんカツラだ。
顔にはファンデーションを重ねて塗り陰影をつけ、アイラインを太く強調するペンシル裁きはなかなか手馴れたものだ。
その様子をリンは、鏡越しに黙って見ている。
顎の下や、えらの部分には半透明なテープが貼られ、顔の輪郭をはっきりさせて若々しさを人工的に作り上げる。目元や顔の皺も、細いテープを要所に貼り肌のたるみを無くし、それをファンデで塗り隠す。まるで左官作業の様である。
桃色のルージュの上に、グロスを重ねる。しっとりと瑞々しい桜貝の様な唇を仕上げ、くるりと振り返った。
アーモンドグリーンの髪の美少女は、顔のアングルを変えながらリンに尋ねた。
「どう? 変じゃない?」
リンはパクパクと何かを言いたそうだが、声にならない。
「顔は仕上がったけど、問題はこの体型ね・・・リン! 家中のシップをかき集めて!」
「なんでシップ!? とりあえずわかったよ! クミばーちゃん!」
リンは部屋から飛び出した。
美少女風にメイクした老女は、立ち上がると姿見に自分の体型を映し、あらためて見つめなおす。細身ではあるが、体中の皮は弛み、少しばかり猫背になった。
「わかってはいたけど・・・歳を取ったわね」
腕時計に埋められている体感デバイスがピクリと反応した。
美女は「もしもし?」と口にすると、腕の中から緑色の光の線が出てそれは空間で扇状に広がり、映像を空中に浮かばせた。空気中の水分に光線を投射し映像を浮かべるエアスクリーンだ。
単色だが、昼間でも認識できる程はっきり映る。
映像は男性の老人を浮かび上がらせた。
「もしもし、クミさん! わしじゃ! 書生じゃ!! 旦那さん・・・俺氏さんの意識が戻ったよ! でもお医者さんが言うには、次の発作が始まったら―――って初音ミクゥ!?」
書生といわれる老人は、自分のデバイスに映った美少女に驚いた。
そう、彼女が自らの顔をメイクして、初音ミクという伝説の少女になろうとしているのだ。ちなみに彼女、クミは年齢65歳である。
「書生さん。私よ、クミです」
「ほわぁぁ・・・クミさん。まるで昔に戻った様じゃ・・・。これは、たまげた!」
ドタドタと足音を立ててリンが部屋に戻ってきた。両腕に沢山のシップを抱えている。
「家中のシップ持って来たよ! クミばーちゃん!」
「でかしたわねリン! そういうワケで、書生さん。仕上げはまだ、ちょっと待っていてね! じゃあ切るわよ」
「わかった! 待っているよ、でも急いでクミさん!」
デバイスを切ると、美女、いやクミはリンに向かって言った。
「リン、これからこのシップを私の身体の弛んだ部分に貼ってちょうだい! このコスチュームが入る様にしてほしい」
クミはトランクを手元に引き寄せ、ハッチを開く。トランクの中にはメタリックグレー色のノースリーブシャツ。黒いミニスカートが入っていた。
「クミばーちゃん! こ、これミニスカート・・・まさか、履くの!?」
「絶対領域の無い電子の歌姫なんて―――偽者よ」
「ぜったい・・・りょういき?」
「昔、そういう言葉があったのよ。まあいいわ。さあ急ぎましょう! 奇跡のショータイムなんだから!!」
作曲・作詞 オスタープロジェクト様
二次小説 かんぴょ
『ミラクル・ペイント ―キセキのバーチャンアイドル―』
ミラクルペイント キセキのバーチャンアイドルー1
オスタープロジェクト様のミラクルペイントを題材に2次小説を書かいてみました。
ふざけたタイトルかもしれませんが、ご容赦を。
当人は本気で書いておりますので。
数日ごとに続きを上げて行きますので、よろしくお願いします。
素晴らしき曲に最大限のありがとうを。
そんなテーマです。
2059年時 登場人物
クミ 65歳の老女。栗布頓町で酒屋を営むが、現在は息子夫婦に任せている。栗布頓高校美術部OG。
リン 14歳の中学3年生で、クミの孫。祖母の奇跡の変身を目の当たりにする。ツッコミ気質で、容姿は若い頃のクミとそっくりらしい。
書生 66歳の老人。元高校教師。白髪頭がチャーミングポイント。栗布頓高校美術部OB。絵がヘタ。
ヤンス 65歳の老人。元新聞社勤務。白い髭がオシャレポイント。栗布頓町高校美術部OB。絵がヘタ。
俺氏 67歳のイケメン爺さん。クミの夫。突然の病気で倒れる。元・栗布頓高校美術部部長。美術部で同人誌を作る事を提案した。絵がヘタ。
初音ミク ご存知ボーカロイドソフト。現在V10まで進化。
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