最終章 前編


『自由鳥』

その日は何時も以上に暖かかった。
しかし、冬景色の残る処もある。
私は部屋にいなかったマスターも探しに中庭へと出た。
「懐かしいなぁ」
サクラの樹はもうすぐ蕾が生えるだろう。
出会って直ぐは確かサクラの花が咲いていたはずだ。
マスターの大好きなピンク色の花。
其処でマスターを呼ぶが返事は無い。
此処ではないのかと思い引き返そうと思ったときだ。
サクラの樹にもたれ掛るようにして白い足が見えたのだ。
「マスター」
ヒョコッと顔を覗かせるとマスターは其処にいた。
会ってからもう直ぐ一年が経つ。
「ミク」
マスターは私に気が付いたらしく目を向けた。
「風が冷たいから早めに部屋に戻った方が良いって看護士さんが言っていましたよ。
すると「うん」と言った。
しかしその場から動こうともしなかったので私も大人しく隣に座る。
「それ、なんですか?」
マスターの掌に乗せられた数枚の紙。
「これ?
ミクの曲だよ」
そう言ってマスターは細い指を滑らしながら私に見せてきた。
「『自由鳥』?」
「曲のタイトルね。
一年もかかっちゃったね」
マスターはそう言って笑った。
あの時の約束を覚えてくれていたのだと私も嬉しくなった。
「歌いましょうか?」
「うーん。
もうちょっと待って」
空白の部分があるからとマスターはまた空を見上げた。
雲ひとつ無い青空。
ずっと雪が降っていたからか久々に見る空は新鮮だった。
「今日は暖かいですね」
そう言うと「そうね」と返ってきた。
マスターはペン先を走らせては消すといった作業を繰り返していた。
時々私の方を見ながらニコッと微笑む。
なんのことか分からないが私もつられて微笑む。
太陽が真上になった時、ようやくマスターが口を開いた。
「出来た・・・・・・・・」
ハァっと溜息をついてマスターは私に見せてきた。
自由鳥と書かれているものを見ながら私は手をかざす。
「歌ってくれる?」
「・・・・・・・・・・はい」
目を譜面に走らせて口では歌となる詩をつぐむ。
そうやってVOCALOIDは歌う事ができるのだ。
マスターの微笑む顔が隣にある。
インストールを終えた私はマスターを一度だけ見て、口を開いた。

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『自由鳥』

最終章前編。
マスターとミクの話。

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投稿日:2009/10/31 14:46:48

文字数:927文字

カテゴリ:小説

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