鮮やかに蘇る記憶
あの人はもういない
いないはずなのに
遠くで手を振っている
そして聞こえた声
「ありがとう」
そんな、夢を見た
「っ!?」
急に飛び起きる
夢、だったのか。
「ん・・・」
時刻は午前2時。丑三つ時
草木は眠る。にもかかわらず時は動く
「あの人…?って、誰だろう・・・」
いつの間にか、もう一度寝ていたようだ
重い体を動かす
「・・・ん、しょ」
時刻は午前5時。まだ朝日は出ていない
今日はリンとレコーディングだっけ?
いや、レンだったかな?
「にしても、寒い・・・」
私は体をこすって暖めながらリビングへ向かった
「…あれ?」
私の向かった先には電気がついていた
「誰か起きてる」
腕に絡めていた手を伸ばし、ドアを開けると、キッチンの方にミクがいた
「あれ?ルカ、起きたの」
「いや、それはこっちが聞きたい」
椅子に座りながら私が言う
ミクは寝巻きではなく、しっかり仕事用の服を着ていた。ヘッドフォンマイクまでつけて。
「ん~・・・ちょっと眠れなくて」
そう言ってミクは2つのコーヒーカップを持ってきた。
椅子に座り、コーヒーを飲んで一息ついた後、話し始めた。
「夢…を、見たんだ。私たちとは違う、人間だと思う…。その人に手を振られたんだ。すっごい笑ってた、でも寂しそうだった。なんだか・・・見たことあるような気がして」
「え・・・」
全く同じ夢を見た。
全く同じ、ではないか。大体同じ
「その、人はさ、見たことあるような気がしなかった?私と同じくらいの年代で、同姓・・・」
ミクが驚きで目を見開く。でもすぐに下を向いた
「・・・っ・・・」
「そろそろマスターが起きる時間だから、聞いてみよっか」
「うん・・・・」
マスターが起きてきた
ただ、何か歌を歌いながら
「ありがとう…ぼくには…それしか…言えなくて…♪」
「マスターっ!」
「ルカ?早起きだねー」
いつものようにのほほんとした口調
思い切って、聞いてみる
「あの、今日って…何か特別な日ですか?私と同い年くらいの女性の…」
なるべく遠まわしに聞いたのだが、マスターの眉間に皺がよった
「あ、の…ミクと私、同じ夢を見たんです、けど…」
「…ミクはいる?一緒に話を聞いて欲しいんだけど」
変わらない表情でマスターが言った。
私は台所に居るミクを手招きして呼んだ
「とりあえず、座って」
言われるままに私たちは座る
マスターは顔を少し俯けて、とくに感情を表してはいない
「…まず、貴女達は中古品だって、知ってるよね。最初のマスターは事情で使えなくなったって」
「うん」「はい」
彼女は軽く目を閉じる
「元のマスターは、私の友人なんだ。幼稚園時代からの幼馴染」
いいたいことが私には理解できた。ミクも顔が青ざめている
「彼女は、素晴らしい調教師だったの。でも丁度1年前…」
「自慢の友達だった。彼女が居たから今の私が居るようなものだよ」
マスターはパソコンを立ち上げる。同時に私たちのヘッドフォンマイクにも光が灯る
と、何か音楽が流れてきた。聞いたことある、懐かしい歌
ミクは気がついたようだ
「あ…」
でも、何の曲なのかは思い出せない。発売前のデモソングだろうか?
「…これは、彼女が始めてあんた達を使った曲。私の思い出の曲」
『ありがとう…ぼくには…それしか…言えなくて…』
さっき歌っていた曲か…
「ったく…ありがとうってこっちの台詞だよ」
マスターは泣いていた。涙を拭かず、頬へ伝わっていった
「今日、リンとレンが起きないうちに行くけど・・・どう?」
そりゃ、勿論
「「行きます」」
ミクも気のせいかどうか知らないけど、目が赤かった
「ありがとう…か。マスター私たちにも感謝の歌を歌わせてください」
「今作ってるよ!また今日歌わせようと思ってて」
「どんな歌ですか?今声の調子バッチリなんで」
3人はそれぞれの髪の色に合ったパーカを着て外に居た
「ん~っとね…」
マスターの口から旋律が流れる
”私たちから贈ろう”
”いままでもこれからも”
”新しい音を作り続けてくれたあなたへ”
”精一杯の”
秋晴れの空に向かって叫ぶ
「ありがとう」
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カメラ
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