巨大な地下駐機場。この基地のあらゆる航空機が格納されている。離陸の際には、ここからエレベーターで地上のカタパルトを装備した射出滑走路に上げられ、最大四機発進できるようになっている。この水面基地にはこのような最新設備が数多く配備されている。この基地は言わば前線基地なのだから。
 俺達はヘルメットを片手に、悠然と並べられた自分達の機体に近づいていった。
 数十とあるグレーの機体の中に混じった漆黒の機体。ほかのライトグレーにカラーリングされたのとは違い、まだ試作機ということで黒い塗装に赤いラインが通った派手な塗装が施されてる。
 天井の照明の光を反射して黒く鈍い輝きを放つ、X/F-49 ブラックソード。
 去年、米国のATF計画(先進戦術戦闘機開発計画)で開発された二種類の中の不採用になった機体を日本防衛軍が買収し、兵器開発局やほかの重科学工業会社が共同で独自の改良を重ねていき究極の性能を得た戦闘機だ。だが、通常のパイロットだと性能限界を引き出す前に死亡する危険があり、開発費もある意味究極だったため試作機として四機が完成した。その直後にこの基地に配備され、専用パイロットとして俺達も配備された。
 薄い流線型のボディに、全遊稼動の前進翼、推力変更ノズル。そしてまだ実験段階の逆噴射装置。この特殊な形状からしても、ほかの機体と見比べても特別な機体だと分かる。垂直尾翼にはソード隊のエンブレムである黒い剣のマークがある。
 機体の下では整備員が機体の最終チェックを終えたところだった。俺は整備員に敬礼すると自分で機体各部のチェックを行い、コックピットに乗り込んだ。キャノピーが自動的に閉まる。
 機体が並べられている向こう側にはさらにスペースがある。雑音ミク用ハンガーだ。見るとそこでは整備員達がアーマーGスーツに身を包んだミクにウイングを取り付けていた。ミクは整備員達が離れるとウイングの動作チェックを行っていた。どうやら体に神経接続するらしい。自由自在の動きだ。
 それは、まるで天使のようだった。空の、黒い天使か。
 俺はコックピットの計器類をすばやい手つきで操作した。もう何百回とやったことだ。自然に手が動く。グラスコックピットのコンソール、パネルに灯がともり始め、様々な情報が表示される。俺はその情報を一瞬で読み取るのだ。機体の状態が手に取るように分かる。
 「エンジンスタート……油圧、電圧、正常。タービン回転数上昇。出力安定。」
 計器類をチェックしながらエンジンを始動させると、最新のF-3000-GEターボジェットエンジンがうなり始める。
 「こちらソード1。発進準備完了。エレベーター移動指示を請う。」
 <<ソード1。ランウェイ01エレベーターへの移動を許可する>>
 「了解。」
 管制塔に許可をもらい、俺は機体をゆっくり発進させた。無線に同じように仲間の声が聞こえた。
 俺はスロットルを僅かに押し出して機体を前進させ、並べられたほかの機体の中央の通路を通り、エレベーターに向かう。『01』と書かれたエレベーターの上で機体を一時停止させる。仲間の機体も同じように並んだ。ミクは専用エレベーターに載っている。俺を含め全員がエレベーターに乗ったことを管制塔に伝えた。
 『了解。エレベーター上昇開始。二十、三十……。』
 機体を載せたエレベーターが地上の射出滑走路に向けて上昇を始めた。戦闘機を積んでいるとは思えない速さだ。上を見上げると光が漏れている。
 『・・・・・・八十、九十、百。エレベーターカタパルト到達。』
 エレベーターが地上に到達すると前方には射出滑走路が見えた。航空機用は全部で四本。ミク用を含めると五本だ。上はドームで覆われている。機体の前輪にカタパルト発射装置が接続される。
 「カタパルト装着完了。こちらソード1。ソード隊離陸準備完了。」
 <<了解。ソード隊、進路クリアー。離陸を許可する>>
 「ソード1離陸する。」
 俺はスロットルレバーを一気にアフターバーナーゾーンまで押し込んだ。
 それとカタパルトが連動し、爆音を轟かせ機体が蹴飛ばされたように加速した。体に凄まじい重力の圧力がかかる。
 そして約三秒で機体が空に打ち出された。サイドスティックの操縦桿を手前に引き、上空高く上昇する。後から仲間の機体も空に打ち出されていった。
 俺達五機はほんの十秒で高度二万フィートまで上昇し、編隊を組み、偵察エリアであるDエリア向かった。
 九月の空は晴れわたっていた。雲ひとつとない。俺達五機はもうすぐDエリアに到着するところだ。
 <<へえ、すごいや。本当にあれで飛んでるんだ。鳥みたいだねミクちゃん>>
 ミクの隣で飛んでいる朝美から、無邪気ながらも感嘆の声が漏れた。
 <<まるで、黒い鳥みたいだな>>
 滅多に任務中に私語を言わない気野もそう感想を述べた。
 それはそうだろう。俺も実際に見るまで半信半疑だったのだから。確かに、黒い天使か。体を水平に伸ばして飛行している。俺達と同じ速度で。あの翼のようなウイングは六基のエンジンを積んでいるから相当の出力だ。外見はともかく、空中戦では最強の戦闘機だろう。そしてウイングにさらに実弾が装填されたレールガンが装着されている。
 俺達の機体にも緊急時に備えて短距離ミサイルのAIM-10X四発をウェポンベイに装備し、M61バルカン砲に実弾が二百発装填されている。
 <<自分の翼で飛ぶのはすごく気持ちいいんだぞ。舞太もやってみる? 風を切って飛ぶのはすごくいい>>
 『さ、さすがにむりだよー。』
 しかし飛ぶとなってもあの黒髪のツインテールはそのままだ。せめてもっと縛ったりしないのだろうか。というよりミクの頭部を覆うメットバイザーにツインテール用のスリットがあるのだ。第一なんでアンドロイドに髪なんか……。
 「ソード1より各機へ。Dエリアに到着した。警戒を開始せよ。」
 <<了解>>
 俺の呼びかけに一斉に声が上がった。と、その時、再び無線通信が届けられた。
 <<こちら空中警戒機ゴッドアイ。ソード隊、聞こえるか>>
 俺達の遥か上空にいるAWACSからだった。
 「こちらソード1。どうしたゴッドアイ。」
 <<たった今、レーダーに国籍不明機をキャッチした。Dエリアだ。今侵入したらしい。そちらのレーダーで確認できるか>>
 俺はレーダーの照射範囲を広げた。すると、前方に小型航空機らしき反応儀一つ浮かび上がった。
 「少し待て……あった、これか。今日は一機だけなのか。友軍機の可能性は?」
 <<現時点では不明だ。ソード隊はすぐに追跡を開始せよ。今、そちらに座標を送信する>>
 「了解。」
 <<何だ、今日は一匹なのか?敵さんは何か企んでいるじゃねぇのか>>
 と、麻田が口を挟んだ。彼は今までも許可無く発砲する事が幾度となくあった。彼自身が好戦的な理由もあるが、おそらくは、「あれ」の作用が最も顕著に現れるタイプなのかもしれない。
 「まだ不明機の所属すらも確認していない。もしかしたら友軍機かもしれない。ソード2、絶対に勝手に発砲するなよ>>
 <<了解>>
 <<敵なら、撃つ……>>
 その声はミクのものだった。殺気立った声だった。一体、どうしたというんだろうか。
 「各機、聞いたとおりだ。目標を追跡する。」
 俺達はレーダーに映る機影に向けて音速巡航を開始した。
なにも起こらなければいいが……。

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  • 非営利目的に限ります

Sky of BlackAngel 第四話「凶の兆し」

やっばい。テンポ悪い。
サクサク物語を展開させないと・・・。
誰か読んでくれるといいなぁ。

閲覧数:298

投稿日:2011/08/02 21:39:17

文字数:3,065文字

カテゴリ:小説

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