女「どうして今頃現れたのよあなた
きれいな思い出の中だけに生きていればよかったのに」

男「忘れられない初恋の人
少し気が強くなった。でも拗ねて伏せた目元変わらない」

女「夏障子の向こう 鳴くヒグラシ」

男「真新しい書き付けの墨の匂い」

女「頑張っているのね。仕事師の手だわ」

男「藍型染の着物 よく似合っている」

女「手を伸ばしたい。でも」

男「藍に染まったこの両の手では」

女「あなたの手を取ることはできない」

男「お前の手を取ることはできない」

男「幸せそうだね」

女「見栄を張っているのよ」

女「元気そうだわ」

男「お前に会えたからさ」

男「言葉が出ない」

女「水琴が鳴る」

男「簾戸の向こう緑」

女「蚊遣り豚の煙一筋」

男「今の俺を見られたくはなかった」

女「今の私を見られたくはなかった」


女「優しい人だもの。苦労したのねきっと
あなたは何も言わないけれど。その手を見たらわかります」

男「覚えているかい 焚き火の匂い
誰かが栗を仕込んで 逃げまどって叱られた」

男「カラスに食われたアケビ」

女「手を振り追いかけた 姉の乗る地船」

女「覚えているわ 泥にまみれた 田植え」

男「小川で並んで食べた おむすびの味」

女「手を繋ぎたい でも」

男「人目が気になり十四の頃は」

女「あなたに触れる事は出来なかった」

男「お前に触れる事は出来なかった」

女「幸せだったわ」

男「今になってわかる」

男「もうできないな」

女「今でも心の中」

男「声をひそませ」

女「ヒクイナが鳴く」

男「うだつの鬼瓦」

女「小唄の聞こえぬ この夕べ」

男「変わってしまうなんて思わなかった」

女「変わってしまうなんて思わなかった」


女「返しておくれ四国三郎 牛を家族を 私の恋を」

男「ああ 戻しておくれ吉野川 俺がお前を幸せにしたい」

女「何も知らない十四の頃は あなたと歩む未来夢見ていた」

男「あとどれくらい藍を染めたら 勝色に染まる この俺の手は」


女「三十日の月照る川の辺を 破れ傘で歩きましょう」

男「渡しの小舟を待ちながら 燈篭の影でお前を抱きしめ」

女「あなたの顔を目に焼きつけていた 苦しくて」

男「お前の顔を見ることはできない 苦しくて」

女「無精髭から落ちた雫」

男「細い首に雨が流れて」

女「何も言えない 行かないで」

男「何も言えない 行かないで」

女「どうして今頃現れたのよ」

男「待っててくれとは とても言えない」

女「離れたくない」

男「手を離したらこれで終わり」

女「貧しさのせいにして」

男「時代のせいにして」

女「胸を張って生きてきた」

男「意地になって生きてきた」

女「どうして今頃現れたのよ」

男「お前に会えてよかった」

女「幸せに」

男「幸せに」

女「あなたと幸せになりたかった」

男「お前と幸せになりたかった」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

色には出さじ

幕末から明治くらいをイメージして書いたデュエット曲です

閲覧数:140

投稿日:2019/06/19 23:29:15

文字数:1,239文字

カテゴリ:歌詞

クリップボードにコピーしました