悪ノ娘は生きている。
ルシフェニア革命から数年後に出回った噂だ。
処刑されたが生き返ったのだ、とか、実は影武者がいたのだ、とか、そもそも処刑される前に逃げ出したのだ、であるなど様々に語られている。
本書ではこの噂について検討していく。


まず初めに、「悪ノ娘」ことリリアンヌ=ルシフェン=ドートゥリシュの経歴について記す。
485年、ルシフェニア国王アルス一世とアンネの間に、双子の弟であるアレクシルとともに誕生。
491年、アルス一世がグーラ病にて死亡。王位を巡る争いの末、アレクシル死亡、リリアンヌが正式に後継者となる。王の座は王妃であるアンネが継ぐ。
499年、アンネがグーラ病にて死亡、リリアンヌへ王位が移る。
500年、「緑狩り令」によりエルフェゴート侵攻。その後、ルシフェニア革命が起こり
リリアンヌは処刑される。


さて、表向きでは500年死亡とされているが、密かに生き延びているとの噂が広まった。出処は定かではないが、度々挙がっていた目撃証言が一因となろう。王都付近で見かけた者、町はずれで見かけた者、はたまた国外で見かけたと言う者もいた。証言に一貫性がなく、他人の空似である可能性も高い。また、そもそもリリアンヌ自身が公の場に出ることはほとんどなかったため、彼女の顔を知る者も多くはない。処刑のときに初めて顔を見た者も多かっただろう。
朧気な記憶から、生きている人間をリリアンヌと重ね合わせたのではないだろうか。


しかし、仮にリリアンヌが生きていたならば、どのような方法があるか、またそれは成り立つだろうか。主な説として、①処刑前に逃亡、②影武者説、③生き返った又は不死である、以上3つがある。

①不可能。多くの民衆がリリアンヌの首が落ちる様を目にしている。確かに処刑は行われた。

③不可能。現代の医学、科学をもってしても死者を蘇らせることはできない。また全ての生命体において、遺伝子レベルでの老い、細胞死が確認されている。

②検討の余地有り。類似したものとして、リリアンヌのクローンが存在し、それが目撃されているのだ、と言う説もある。しかし、それはリリアンヌ本人ではなく別個体だ。今回、この説については除外する。処刑されたのは影武者である、と言う説に的を当てる。

影武者としてまず思い浮かぶのが双子の弟であるアレクシルだ。彼は6歳で死亡したとされているが、実は生きていた可能性はないだろうか。当時の状況を考えると、政権争いの混乱に乗じて身を隠すことは困難ではないはずだ。また、戸籍書類等の面でも現代よりは簡単だろう。
次にリリアンヌに顔のよく似た召使いがいたらしいとの記録が残っている。彼も影武者候補になり得よう。ただし、当時の王宮内部事情が公にされているはずもなく、噂の域を出ない。
さらには、有事の際に備え、影武者を用意していた、とする文献もある。一般市民の中から影武者となり得る人物を選び出していたのだ。こちらは前2例よりもかなり信憑性が薄いが、念の為、列挙しておく。事実として過去そのような事例は存在した。

「悪ノ娘」として忌み嫌われたリリアンヌだが、影武者説が成立すれば、リリアンヌを心から大切に思う者がいた証明になる。無理やり連れてこられた一般市民だとしても、処刑は絶対王政が崩れたときであり、反抗することは可能だったはずだ。革命軍の中にも一般市民が多く参加している。そのような中で嫌々リリアンヌに従う義理はない。
双子の弟にしても、一介の召使いにしても、はたまた一般市民にしても、とにかく一人は「悪ノ娘」に寄り添う者がいたのだ。その可能性は否定できない。

今となっては真実を確認する術はないが、その存在は短い一生を終えた「悪ノ娘」の救いとなるだろう。夢物語にすぎないかもしれないが、僅かばかりの可能性に期待したい。



悪ノ娘 没後300年記念作
リリアンヌ=ルシフェン=ドートゥリシュに捧ぐ




本書作成にあたりご協力頂いた方々に最大の感謝を申し上げます。

〈参考文献〉
・悪ノ娘
ユキナ=フリージス 著
・失われた王宮〜ルシフェニア〜
*******著
・歴史の裏話
*******著
・不死の可能性と現代医学
*******著

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「悪ノ娘」に捧ぐ

書籍風に。

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投稿日:2018/09/22 22:28:57

文字数:1,763文字

カテゴリ:小説

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