「あ、式ちゃん、何してんのー?」
「リン様」
 リンの呼び声に反応してクルリと振り返ったのはリンのマスター、蒼の式神―姿は初音ミクの亜種、亞北ネルの姿そっくりなのだが―だ。
「少し散歩をしていたのですが・・・この花を見つけたので足を止めて見ていたのです」
 ニコリと柔らかく微笑むと式はス、と己の身体を退かし、リンにもそれが見える様にしてくれた。恐る恐る、といった様子でリンは式の身体の向こう側を見る。そして、
「彼岸花だぁ・・・!」
 と歓声を上げた。

「・・・マスター、何してんですか?」
「あ、レン」
 レンの呼び声に反応してクルリと振り返ったのはレンのマスター、蒼だ。
「良い天気だからさ、式ちゃんも実体化させて自由に行動していいよ、て言って、後は自由行動。ま、ぶっちゃけ散歩・・・かな」
 そう言った後、蒼はうん、と背伸びをして、そして何かを思い出したかのようにレンの方を見た。
「後ね、こんな花が咲いてたから、見てたんだよ」
 ス、と後方を指差すと、レンは特に物怖じする訳でもなく、その方を見た。そして、
「・・・彼岸花・・・」
 と声を上げた。

「知ってらしたのですね、リン様」
「うん、何かの本か何かで見た事ある! 綺麗だよね、この花」
 リンは嬉しそうにそう言うと式の横を通り抜け、彼岸花の群生に目を見張った。
 赤、紅、赤、紅、赤赤赤赤。一面に広がるのは、彼岸花の、まるで血の様な赤。薄らと見える翠は彼岸花の茎だ。
「死人花、」
 ポツリ、と式は呟いた。その声と発した言葉が空恐ろしく感じて、リンは式の方を見た。
「え・・・」
「そうも呼ばれるんですよ、この花は。後、花と葉が共に出る事はないので、互いが互いを思う、と言う事で、思想華、とも呼ばれるそうです」
「相思華・・・。ならあたしはそっちの言い方の方が良いな!」
「え・・・?」
 突然ニパリと笑ってそう言ったリンに困惑している式に、尚もリンは続けた。
「だってさ、式ちゃん、花は見た事の無い葉っぱを思うんでしょ? そして、葉っぱも見た事の無い花の事を思うんでしょ? それってすっごく素敵な事じゃないかな? 見た事も無い人に思いを寄せてるみたいで」
 驚いた表情でリンを見、そしてリンの言葉を聞いていた式だが、その表情をふ、と綻ばせ、
「そうですね」
 と笑った。

「そ。彼岸花。彼岸の時期に咲くから、この名前が付いた、て説が有力だよ」
 まぁ、他にも呼ばれ方は沢山あるんだけどねー、と言って蒼はクスクスと笑った。
 レンはそんな蒼を気にせずに彼岸花の群生に目を向ける。
 赤、紅、赤、紅、赤赤赤赤。一面に広がるのは、彼岸花の、まるで血の様な赤。薄らと見える翠は彼岸花の茎だ。
 そんな中、赤、紅の中に、少しだけ、白の群生を見つけた。白い、白い彼岸花。赤の中に混じる、白装束。
「悲しい思い出」
 ポツリ、と蒼は呟いた。その声にハッとしてレンは蒼の方を向く。クスリ、と蒼はさも楽しそうに笑う。
「彼岸花の花言葉だよ。まぁ、他にも沢山、て程でもないけど、あるんだよ。
 情熱、独立、再会、諦め・・・」
「・・・何かマイナスイメージばっかですね」
 思わずレンがそう口に出すと、ニィ、と意地悪そうに蒼は笑うと、「それは如何かな?」と言い、そして言葉を続けた。
「そして、

 想うはあなた一人、また会う日を、楽しみに」

「・・・・・・・・・は?」
「花言葉だよ、彼岸花の」
 腕を組んでわざとらしく蒼は溜息を付いて見せた。
「悪いイメージばっか、て訳でもないんだよ。特にニンゲンはね」
 さて、腕を解きながらそう言うとレンの頭をポン、と叩いた。そして蒼とレンの目が合う。レンの身長は156cm、蒼の身長はリンと同じ152cmだ。一瞬、リンと目を合わせている錯覚に陥るも、ふと気付けば蒼は己の隣にいなくて、先程レンが目をやった白の彼岸花の方に歩を進めていて、そしてあろう事かその花を摘み始めた。地面と花の、丁度、中間辺りを蒼は地味に手際良く折って行く。
「ちょ、マスター!? 何やってるんですか? つか、折って良いんすかそれ!?」
「良いって良いって。彼岸花って大抵自生してるもんだから。ほら、庭に咲いてるもんじゃないでしょ、彼岸花って。良く見かけるのはさ、遊歩道の隅っことか、空き地のちょっとじめっとしてる所とかさ」
「あ~・・・確かに・・・。て、だから、折るなよ! それに彼岸花を家に持ち帰るとその家は火事になるとか・・・!」
 レンの言葉を聞いて、蒼の手がピタリと止まった。やっと摘むのをやめたか、と思ったが、案の定、白の彼岸花は見事に蒼の手中に収まっていた。
「って全部摘みやがったよこの人!」
「君のマスターだよ。でもね、レン。彼岸花を家に持ち帰ると火事になるのは、迷信だよ。戯言。花に罪は無いよ」
 さて、それじゃ帰ろうかねー、と言って蒼は呆然としているレンの横を通り抜ける。ハッと気付いたレンが小走りで蒼に追付いた。

「あ、ねぇねぇ、式ちゃん」
「? 何でしょうか、リン様」
 リンに呼びかけられ、式は小首を傾げてみせる。リンはバッと両腕を広げると、背に彼岸花を背負ったまま、
「この彼岸花、摘んで帰りたいんだけど、駄目かな・・・?」
 と、最初は勢い良く、最終的には小さな声でそう言った。その言葉に式は目をパチクリさせた。が、フ、とその表情を和らげると、少しだけ屈んでリンと視線を合わせると
「知っていますか? リン様。彼岸花を家に持ち帰るとその家は火事になるのだそうですよ」
 と言った。
「えぇっ!? そ、そうなの!?」
「いえ、迷信です」
 サラリと否定してみせる。その様子に今度はリンが目をパチクリさせた。が、直ぐに元に戻ると
「なら、摘んでも良いよね! やったぁ!」
 そう言うとそっと、いたわる様に彼岸花を摘み始めた。その様子を式は何処か嬉しそうに眺めていた。
「また会う日を楽しみに・・・」
「え?」 
 花を摘む手を止め、リンは式の方を向く。ニコリと式は笑って、
「彼岸花の花言葉、ですよ」
 と言った。
「綺麗だね・・・。なら、また来年、此処に来れば会えるよね!」
 ニッコリと笑ったリンにそう言われたから、式もニッコリと微笑んで、
「そうですね」
 と言った。

 その日、蒼の家には、紅と白、紅白の彼岸花が飾られていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

彼岸花を見て思う事は

彼岸花が好きです。けどお母さんはあんまり好きじゃないそうです。残念・・・
リンと式、レンと蒼、交互なので混乱しないか如何かが不安だわ・・・ドキドキ・・・(なら書くなし
リンと蒼の思考は何処か被ります。けど、完全に同じ、て訳でなく。式とレンの思考もまた然り、て感じです。
あ、レンと蒼の仲が悪そうに見えるけど、ホントは仲良いからねー!(力説

それでは、読んで頂き有難う御座いました!

閲覧数:293

投稿日:2010/10/03 17:37:25

文字数:2,619文字

カテゴリ:小説

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  • かりん

    かりん

    ご意見・ご感想

    こんばんは!!
    彼岸花いいですよね!!
    わたしもすごく好きなんですよ~
    なんか中華っぽい模様なところとか赤いところとか(模様?
    昨日コンクルへ行く途中川原に沢山咲いているのを見つけて友達と彼岸花についていろいろと話をしました^^
    花言葉までは知らなかったので勉強になったのですよ。師匠~

    2010/10/04 21:23:09

    • lunar

      lunar

      こんばんは! お返事遅くなって申し訳御座いません・・・

      彼岸花、綺麗ですよね!
      かりんさんも好きでしたか、嬉しいです!
      紅い所・・・。かりんさんは本当に赤が好きなんですね^^
      そうですか、私には友達と言える友達が凄く少ないので羨ましいです(暗い子だと思われるよ
      花言葉はWikiぺディアで調べました。便利ですね、今の世の中←

      それでは♪

      2010/10/05 17:49:27

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